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サバイバル・ウォー  作者: うゆ
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第2話:目的とヒロイン

目的地、名称は『東京体育館』かなり大きく、また敷地面積も広大な場所だ。この中に入ればとりあえずチュートリアルを受けられそうだ。


体育館ということもあり中に入るのは容易だ。色んな玄関口があり、そこから入る。はずだったのだが、どういうわけか入り口が一つに限定されているのだ。


その入り口以外は大体重いシャッターに閉じられ、ビクリともしなかった。しかしながら開放されている入り口ではIDとパスワードを求められ、ログイン情報を打ち込むも扉は開かない。完全にお手上げの状態だ。


鍵になりそうなものをと周りを見渡す。体育館の近くは簡単な街路樹と舗装された道路だけ。特別大きな遮蔽物も無いが、どこに開放条件があるかも分からない。


それこそ内部にあったり海を渡るような羽目になればどう足掻いても自力では無理だ。いや、あのピエロはここに行けと言っていたんだから、何かイベントでもあるはずだ。


「すいませーん、誰かいませんか!」


割と大きめの声で周りを呼びかける。すると風で揺らいでいた草木がざわつく。誰かがここにいるのだ。


「しー!そんな大きな声出さないで!」


猫耳の帽子を被る女の子が急接近し、弥生を連れて茂みへと隠れる。周りをキョロキョロと見渡し、何かを警戒している。


「君、こんなところで大声なんてあげたら敵じゃなくて人に殺されちゃうよ?」


ただ大声を出しただけだというのに命を狙われるのか。それに話で聞いていただけの敵とやらはそれだけ恐ろしいものなのだろう。


それもそのはず、街を壊滅させたのだから当たり前か。


「すいません。あの建物に入りたかったんですけど、人も見当たらなかったので誰かに頼ろうと思ってたもので」


とりあえず注意を引けば誰かしらは声をかけてくれると思っていたが、まさかこうも上手くいくとは思っていなかった。


「そう。目的は達成したみたいだけど、お生憎様、私もあの施設に入るために策を練ってるところなのよね」


猫耳帽子の女の子は周りが安全と認めると弥生の方へと振り向く。明るめの茶毛をショートでカットされ、あまり手入れされていないのかところどころ髪が荒い。


それを隠すために恐らく猫耳帽子を被っているのだろう。だが、驚くべきは髪なんかじゃなく、その顔だ。


ゲーム内での仮想アバターだからこそ作れるのであろう人形のように整った顔立ちをしており、綺麗な琥珀色の瞳をしている。


「そういえば、貴方の名前聞いてなかったね、私は未来翼」


未来翼、恐らくはチュートリアルの案内人兼ヒロインといった立ち位置なんだろうな。いや案内人はピエールか?


「俺はナイトだ。大声を出すと敵が来るのか?」


チュートリアルと言えばあちら側から一方的に説明が来るものだが、何をするのか、何が目的なのか。目の前のやるべきことを教えてもらえない。


大きな目標だけを掲げていたところで挫折するのが落ちというもの。


ならば、こちらから質問を投げかけるしかない。ピエールの言う『ゲームだと悟ら


せるな』という意味が分かり得ないが、とりあえずは言う通りにすべきだろう。


「そうよ。というかそんな事も知らないなんてあなた、どんな温室育ちしてるのかしら」


まあ、現実の東京は平和を謳歌しているし、それこそ命のやり取りなどやったことすらない。海外ではこんな状況下の場所もあるのだろうが、弥生には接点がないしそれこそ本物の銃なんか触ったことすらないほどだ。


「ごめん、ここのルールをまだ全然知らないんだ。できれば教えてくれるか?」


翼は逡巡の表情を見せるが、少し間を置いてから口を開く。


「ルールらしいルールは無いわ。とりあえず生き延びること。それが今の最大の目的よ。


私達の敵、『マーシナリー』は機械兵ね。一応人が生み出したわけじゃないのだけど、中身に臓物らしきものはなくて歯車や分厚い装甲。


そして特殊なエネルギーが充填されてるバッテリー。これがあいつらの共通した部分ね。


武装や見た目が同じでも動き方が全く違ったりするから、私達と同じであいつらも『個人』を持ってる。だから強いわ。


AIが判断した最良の結果と人のような思考能力が合わさってて、人類はどんどん後退していってるの。


こちらが不意討ちを仕掛けて倒したなら、その情報はマーシナリー内で伝わり、対策される。


長引けば長引くほど正面からの戦いばかり仕掛けられてきたの」


謎の生物だとパッケージには書いてあったのだが、機械兵なのか。なら大きな声に反応してここに来るかもしれない。


体育館は大きな建物だが、小さな家に籠もるよりもいい隠れ家になっているみたいだ。周りを見渡しても


『遮蔽物がない』のは隠れていたところを襲われてきたのだろう。そして学習したマーシナリーは民家を壊し、中に避難していた人達を殺してきた。


逆に大きな建物は集合地となりそうなビルやデパート、体育館を壊すのが優先なのだろうが、どういうわけかここは存在している。特別崩壊している部分が見当たらないことから恐らく一回も攻撃を受けて

いない。


「そして東京は破棄されたの。今じゃ東京は奴らの巣窟。本拠地と言ってもいいかもしれないわね。


東京を奪われた日本は大阪、名古屋、千葉など人の多い場所と東京を包囲できるような形にして陣を敷いてるわ。


まあ、それでも偵察の情報によれば突破されるのは時間の問題らしいけれどね」


東京に現れた突然の破壊兵器達は東京を陥落させ、今ではその勢力を伸ばそうとしている。


恐らくアメリカや中国などの大国も日本に支援を送っていることだろうが、包囲網を突破されそうになっている。


世界の戦力が足りないとなればこれは日本だけの物語じゃない。世界を巻き込む超弩級のストーリーだ。


「空爆だったりはしてないのか?どうも建物の損壊の割には道路の被害が少ない用に見えるけど。敵が舗装でもしたのか?」


翼は首を振る。どちらに対しての否定かは分からないが。


「東京は破棄された後もかなりの数の人達が残されたわ。包囲網の付近は激戦区だから近づくことすら難しいし、マーシナリーの一部は空にも対応してたわ。


誘導ミサイルを搭載しているタイプと機関砲を積んだタイプがいて、簡単には対応できないの。


激戦区の近くなら地上攻撃用のミサイルだったり自走砲などで焼き払ったりはしているみたいなのだけど、防戦一方の今で都心に空爆できるほどの戦力は残されてないみたいね。


それに敵は地上兵器だけじゃないわ、空にも海にもいるの。


まだ未確認だけれどレールガンだったり粒子砲、所謂ビームね。それを撃ってくるようなやつもいるの。圧倒的に技術面で負けている。


だからこそ、内部の人、つまり私達のような取り残された人達が反撃に転じるための切り札になるの」


まだ若干16歳程に見える少女はあまりにも情報を持ちすぎている。猫耳帽子は荒い髪を隠すためじゃなく、その顔をバレないためのものか。


「だから、私は人を集めているの。大きなことをやるにも人手は必要だからね。それでここに来たの。


ここはあまり人がいなくて、だから襲われてないんだって決めつけていたのだけど、どうやら違うみたい。


こんな大きな施設をあいつらが無視するわけないもの。何か、何かマーシナリーを気付かせない技がある。


例え移動してもらえなかったとしても、その技術だけは教えて欲しいのよね」


翼は今時のJKには見えないほど卓越した考えを持っているみたいだ。まだ包囲網が


保っていることから察するにこの事態になってからまだそれほど経ってないはず。


女子高校生、恐るべし。


人手が欲しいと翼は言っているし、これは流れに乗るべきだろう。


「俺にも何か手伝えることはないか?」


翼は右手を顎に当て、考え込む。短い思考の末俺に出す命令は。


「そうね、私の目的を邪魔しないこと。かな。貴方の分の武器は持ち合わせてないし、元々潜入任務だったもの。


今日は偵察して終わる予定だったの。まだもう少し観察していくけれど、貴方はそれを待っていればいいわ。


偵察が終わったら私の基地に案内するわね」


いらない子宣言をされたが、仕方ないことだ。物語の主人公だったらいきなり矢面に出されるものだが、まだその機会じゃない。


翼自身がまだやらないと決めているところに乱入して迷惑をかけるのも気が引ける。


大人しくしていれば基地にまで案内してくれると言っていたし、待機しておくのが一番いいだろう。


「ここにいて、多分この施設の周囲ならマーシナリーは来ないと思うから」


逆に来ちゃったら逃げないといけないのだが、どうしたらいいものやら。


そんな心配をしている俺を見ることも無く翼は長銃を取り出し、警戒の先にそれを向けつつ歩みを進めていく。


体育館に近づくにつれて彼女は姿勢を低くしていく。


やがて彼女の姿が見えなくなると、耳障りな音が聞こえてくる。


「自転車の錆ついたような音、もしかして」


真後ろに振り向くと音とスピードが全く合致していない自転車がこちらに向かってくる。


それはものの数秒で遠目でしか見えてなかったはずが、目の前にいた。


「やあやあ、また会ったね、ナイト君。僕はすごく嬉しいよ」


偶然と言うよりは行くよう仕向けたのはピエールなのだから、再会を喜ぶ意味が分からないものだが。


「ぼく、感心しちゃったよ。ちゃんと言い付け通りに『この世界をゲームだと言わないこと』を守ってくれるだなんて。


いい子の君にはこんな素敵なプレゼントだよ!」


ピエールの懐から出てきたのはどこに隠していたのか、横長な赤いプレゼントBOXだ。


受け取ると、その重さにびっくりするが、なんとか落とさずに済む。


「ぼくは君の味方だ。ぼくは君に定期的に支援するから、これから頑張ってね」


ピエールは箱の中身を伝えることなくまたも耳障りな錆びついた音を響かせる。


「なんだろうな、これ。けっこう重いぞ」


箱を開けてみると、一本の銀色に輝く剣が収められている。箱の重さと打って変わってその剣は軽い。


一体何が目的なのか。あのピエロには謎が深まるばかりだ。

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