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第1話 『 ぷろろーぐ 』

プロローグ



「出でよ、地獄の極炎ヘル・フレイム」

ゴォォォッ!!!


詠唱に応え地獄から死の炎が燃え盛る。

その炎は対象を燃え尽くすまで消えず、対象の命を吸収する・・・。


ヘル・フレイム・・・、それは単体を対象に死の極炎を呼び起こし、対象を燃やし尽くす上位魔法である。


それを唱えるは老年の大魔導師、『ジーク・シール』その人である。

彼は10歳で魔法学園を主席で卒業、専修過程を修め数々の謎を解き明かしたSSS級の魔導師であり、若かりし頃は残虐非道と恐れられていた。

・ ・・尤も、今現在もその性格自体は何も変わっていなかったが。

・ 変わったのは時の流れに逆らえぬ肉体、年月をかけ得た知識のみである。


「まったく、何故俺が出ないといけないのかね、この程度の魔物に。」


本人はこう言ってはいるが、実際彼が倒した『ルーク』と称された魔物(ゴーレムみたいな格好をしている)は魔物の中でもランクBに値する魔物である。


『ランク』・・・ランクとは魔物のレベルをあらわすものである。

最上位がランクSで、それは神話などに出てくるドラゴンや、神のレベルである。

その後、A、B、C、D、E、Fと続く。

最下位はFランク、これはスライムなどであるが、BとCでは大きな開きがあるのが現状である。


「ぁ〜あ、年ってのには抗えないな、体がついてかねぇ。」


衰えていく自らの身体に愚痴を飛ばしながら、周りに集まってくるルークたちを蹴散らしていく。

こうして聞くと魔物退治をしているように見えるが、今回の依頼はあくまであるものの入手である。

・ ・・もっともこの男、ジーク・シールにとって仕事とは楽しむものであり、依頼を遂行する過程でどの程度楽しめるかが大きなウェイトを占めているので、なんともいえないではあるが。

ここは『遣魔の洞窟』危険度が高く、並みの冒険者は踏み入ることもできない強力な結界が張られ、入り口には門兵が常に常駐している。

もっともその最深部へはいまだ誰も到達したためしがないという・・・。


言い忘れたがジークは魔術師、というか世界一と名高い大魔導師である。

しかし本人はそれに興味が無いようで、己の研究や暇つぶしのために洞窟へとしばしば足を運んだ。

北に幻の薬草があると聞けば10分後にはその北の大地にいるし、南に幻の獣が居ると聞けばこれまた10分後にはその南の大地にいる。


・・・そういうわけなので当然決まった収入源があるわけでもなく、

洞窟探索のついでに傭兵として仕事の依頼を受けるのが恒例となっていた。


「ぇ〜っと、今回の仕事は〜っと。」


そういいながらジークは懐に手を入れる。

目当ては己の持つ依頼書である。


「あったあった、ぇ〜っとなになに?

目的のものはこの洞窟奥にあるもの?

なんだそれ?」


確かに誰も到達したことのない洞窟の最深部に何があるかなど誰も知る由もなかったはずである。

ジークは周りに集まったルークたちを粗方片付けると首をかしげた。


「ま、いいや、さっさと見つけて帰ろう。

どーせだから研究用にその『あるもの』を持ち帰るって手もあるな。」


そう、この男の2つ目の悪い癖がこの探究心である。

誰にでも探究心はあるが、この男のそれはとても強く彼の行動の原点といっても過言ではない。


「相変わらずでござるな、ジーク殿。」


突然、洞窟内に声が響き渡る。

しかし声の発生源はどこにも見当たらない。

ジークは慌てることも無く、洞窟内のある場所を凝視しながらこういった。


「ふん、久しぶりだな、服部」


ジークがそういうと洞窟の壁がはがれ、そこから忍者服の小柄な男が油断なく姿を現した。

これぞ古来より極東の国ジパングの暗殺集団、『忍者』に伝わる忍術である。

この服部という男、忍者八門に精通し、諜報や暗殺にかけては右に出るものは居ないと言われている。


「そうでござるな、してジーク殿はどのような目的でここへ?」


「ん?俺は仕事の依頼でな。

そっちは何だ?」


ジークは特に興味もなさそうな口調でそういった。


「それがしはこの洞窟の最深部にあるといわれる神具の有無を確認しにきたでござるよ。」


服部はこともなげにそういった。

この男、目的のものはただ情報であり、神具自体に興味はないようである。


「ほう、俺の目的もおそらくそれだろう、途中まで共に行くか。」


ジークは『あるもの』とは神具のことだったのか・・・、と内心思いながら口にはださずそういった。


「いいでござるな〜、ジーク殿とともにあれば魔物も物の数ではありますまい」


服部がおどけるようにそういうとジークは真顔でこういった。


「当然だ」


と。


そうして2人が出会ってすぐ。


「何かあるみたいでござるな〜」


服部がさきにあることに気づく。


「お?明かりだと?」


ジークも遅れてその『場所』に気づく。

みると洞窟の一角から光が放たれていた。

それは太陽の光のように暖かく、月の光のようにただ静かにそこにあった。


「ふぅ、やっと着いたのか。」


2人がその部屋へ入ろうとした直後、


ギシャァァァァァァァッ!!!!!


どこからとも無く5体のグレートオーガが姿を現した。

オーガ、ランクAの上位モンスターでありこれを倒すことができた者は、国王より騎士『ナイト』の称号が送られる。

それほどの上位モンスターが5体、しかも同時に姿を現したのである。

普通では考えられない事態であった。


「・・・これは、防護結界?」


「失敗でござるな〜、まさか侵入者対策用の召喚術式が張られていたとは、気づかなかったでござる。」


しかし2人はとくに焦った様子も無く、淡々と状況を分析している。

もし他人がこの場に居れば、自殺志願者の2人組にしか見えないだろう。


「服部、面倒だ、お前に任せる」


ジークは心底面倒そうな顔でそういった。


「え〜、ジーク殿が魔法でササッと倒しちゃってくれでござるよ〜。」


「うるせぇ!さっさとやれ!」


服部の反論を一切受け付けない、といった様子でジークはさっさと部屋の中へと入っていってしまった。


「やれやれ、まったく人使いがあらいお方でござるな、ジーク殿は。」


服部はため息混じりにそういうと、懐より小振りの太刀を取り出した。

それは刀というには反りが少なく、鍔が大きめである。

つまりは『忍刀』と呼ばれる忍者の刀であるが。


「さっさと倒してジーク殿の後を追うでござるよ。」


そういうと服部は一陣の疾風となりオーガ達に襲い掛かっていった。






一方、オーガを服部に任せたジークは防護結界の部屋の前まで来ていた。

その部屋だけは老朽化など一切しておらず、誰が見ても洞窟内の他の場所とは異なる事がわかるだろう。


「ふん、俺にこの程度の結界が通用するとでも思ったか。」


ジークはそういうと聞き取れるか聞き取れないかという微妙な声量で詠唱を始めた。


「消えろ、 阻壁の破界 ディスペル 」


瞬間、ジークの指先から眩い光が伸びたかと思おうと、防護結界の部屋へと一直線に伸びていった。

光は結界に触れると先ほどまでの柔和な光から破壊のそれへと変化する。

次第に勢いを増し、結界全体を包んだかと思うと、いっせいにそれがはじけた。

事も無げに防護結界を解いたジークはその部屋へと足を踏み入れていた。


「ああ、どうやら間に合ったようでござる。」


ふと横から声が聞こえた、服部のそれが。


「ん?もう終わったのか、結構早かったな。」


ジークは特に関心なさそうにそういった。

服部もよほど手ごたえが無かったのか、少し不満そうにこういった。


「あの程度、動きが遅すぎて逆に相手にしづらかったでござるよ。」


そう何を隠そうこの服部という男、普段は神話レベルの洞窟、神殿の調査をしているのである。

もちろん情報収集命の忍者にとって習慣となっていることではあるが並みの、いや並み以上の傭兵でさえ神話レベルの神殿となるとおそらく1階層目のモンスターに手も足も出ないだろう。

噂ではいまだ誰も踏み入れたことがないといわれている地のことでさえ彼は情報を持っていると言われている。


「ま、お前が相手じゃそらそうだよな。こっちは結界を解いたトコだ、さっさとはいるぞ。」


「御意、いくでござる。」


2人はそういうと目前に広がる部屋の中央へと足を踏みいれた。




はいってわかったが、この部屋は特に大きいわけではなかった。

フツーのどこにでも在る部屋に見える。

・・・部屋全体が薄く光っていることを除けば、であるが。

その中央には一本の剣がまるで四方から糸で引かれているかのように空中に停滞する形で存在していた。

ユラユラとその場で漂いながら、しかし決して一定の位置から離れることはない。


「これが、神具か。」


「神具、でござろうな。」


2人は呆然とその剣をなめていた。

否、正確には魅入っていた、というのが正しいだろう。

それほどまでに見るものをひきつける剣だった。

姿は西洋風の両刃剣で、刀身は見る者をひきつける何かを秘めていた。

柄には宝玉が1つ、何色とも区別できない、見る者によってそれは色を変えるかのようだった。

しばしの沈黙がこの場を支配する。


「・・・通常のギルドに入れられた情報だからたいしたことはないモノだと思っていたが、とんでもないな。」


そうジークは目の前の事実を確認するかのようにつぶやいた。


「そうでござるな、これは並みの人間が持つべきものではないでござる。」


服部もその言葉に同意する。


「とりあえず、依頼のほうは『行ったが何も無かった、恐らくガセネタだったのだろう。』ということにしておいたほうがいいな。問題はこの剣をどうするか、だが・・・。」


「これをここにおいておくと誰が見つけるかわかったものではないでござる、ジーク殿の魔術でこの部屋の結界は消失してるでござる。ここは持ち帰るのが上策か、と。」


服部がそう提案する。

ジークはその言葉に頷くとおもむろに剣に手を伸ばした。


(剣よ、お前は一体何なんだ?)


ジークはそう心の中でつぶやくと剣の柄に触れた。

その瞬間、


バチッ!!!!!


一瞬その場が光に満ち、すぐにもとに戻る。

しかし触れていたはずの剣は無く、ジークの姿も無かった。


「なっ!? ジーク殿!どこへ消えたでござるか!?」


服部があわててジークがいた場を見渡すが、どこにもその姿を認めることはできなかった・・・。





プロローグ、完


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