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第1話:守兵団5

「おいアリッサ―――」


 自身の発した『支配宣言』に、村人の緊張が頂点に達したにもかかわらず、ただほくそ笑み続けるアリッサに、モルガンが半ば呆れたように次を促した。


「フフフ、フフフ」

 アリッサはまだ村人たちの恐怖の余韻を楽しみたいかのように、笑みを浮かべ続けたが、やがて、


「永久にという訳ではない―――野盗どもを殲滅するまでの話だ。無論この村を我が物にしようなどという考えは、我らにはない―――案ずるな」


 初めて歳相応の少女らしい笑顔を見せた。


「だが先刻も申し渡したように、戦時には戦時の運営が必要になる。この村全体を『守るために戦う村』に変えねばならない。そのために私の統制下に入ってほしい」


 うって変わった穏やかな口調で、アリッサは続ける。


「戦うという事は、お前たちが考えるほど甘いものではない―――命のやり取りだ。ほんの小さな綻びが、お前たち全員の命を奪う結果にもなりかねない。だから―――だから我らは一丸となって結束しなければならないのだ」


 ここでアリッサは間をおく。もはや村人は硬軟、緩急をつけるその弁舌に魂を握られてしまった。



「座してこの難局をやり過ごせるか!?もうこの村は戦うしか―――己の身を守るために戦うしかないのだ。


戦うならば我らは一丸とならねばならぬ。そのためにはそれを束ねる戦時の指導者が必要だ。私は必ずお前たちを守ってみせる!


その代わり野盗どもを殲滅するまで、この村のすべてを―――


生殺与奪のすべてを私に委ねよ!


重ねて言う―――必ずお前たちを守ってみせる!」


 

この短い時間に、悪魔と聖女を同時に見せられた村人たちは、正常な思考を取り戻せずに何も答える事ができない。


だがアリッサは確実な手ごたえを感じていた。そして高笑いしたい衝動を抑えつつ、話を次へと動かした。




「では二つ目―――」


 そういえば、この少女は条件は三つと言った。それなら今はまだその一つを聞かされたに過ぎない。果たして次は何を求めてくるのかと、村人は緊張した。


「二つ目は―――資産の三分の一の報酬―――つまりこの村の総資産の三分の一を報酬として我らに支払え。我らも命を張る―――タダでは割りが合わん」


 ここでアリッサは村人の緊張を解くために、ややおどけた仕草で話した。そして村人たちは再びその術中にはまっていく。


「安い報酬ではなかろう。だが命と天秤にかけて考えろ」


 そう言った後アリッサは「ああ―――」という言葉とともに何かを思い出したかの様な表情を作った後、


「無論、支払うのは野盗どもを殲滅した後で構わんぞ」

と言葉を繋いだ。


 報酬の要求―――真っ当といえば至極真っ当な要求ではある。


もちろんその対価は安くはなさそうだが、村の総資産の三分の一と言われても、村人一人一人にはピンとはこないし、どこか他人事のようにも感じられる。


そしてアリッサは、野盗殲滅後の支払いを提示してきた。


それは裏を返せば報酬が目的であり、先刻の自治権譲渡の話も村自体の乗っ取りを目的としたものではなく、あくまで野盗を殲滅するため―――報酬を得るための必要手段の一つであろうと村人たちは好意的、かつ楽観的に判断し始めた。




 村人の心境の変化のタイミングをアリッサは逃さない。


「最後の一つだ!」


 言うやいなやアリッサは、腰の剣を引き抜いた。


「三つ目―――裏切りは許さない―――決して我らを……私を裏切るな」


静かにだが、怒気を含んだ声だった。


 アリッサは、自分がもっとも伝えたかった言葉を伝え終えると、かざしたその剣の先を見つめた。


 その線上には、群衆の中にあの異形の青髪の少女、ファノがいた。


 ファノは、また今度もまっすぐに自分を見つめている―――もちろんアリッサがそう思っただけだ。


そんな風に思うのはなぜだろうか。


そしてアリッサは『私を裏切るな』という言葉に、ファノが頷いてくれた様な―――そんな気がしてならなかった。




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