第1話:守兵団4
しばらく後、村長の呼びかけに、村人が広場に集められた。アリッサの命令通り老若男女の別なく全員である。
「遅い―――私は急げと言ったはずだ」
「申し訳ございません。村人すべてとなりますと、さすがに時がかかりまして……」
「フン―――だが言い訳が通じるのは今回だけだと思え」
少女ながら尊大な物言いを続けるアリッサに、傍らで歯噛みするバートを制止しながら、村長は頭を下げ続けた。
「では村長、始めさせてもらうぞ」
村人たちの前には、アリッサを除くドラグレアの七人が、横一線に並んでいる。その中央に向かって威厳に満ちた足取りでアリッサは進む。
「聞けーっ、皆の者!」
アリッサは中央の位置につくと、村人に考える暇を与えない程の早さで、大音声の一撃を放った。
「この村は野盗に狙われていることは皆、承知していると思う。すでに犠牲者も出ているな。だがお前たちに、この現状を打開する術はない!」
村人は過酷な現実を、今始めて目にする少女から、頭ごなしに突き付けられて、息をのんだ。
「ソ公からの討伐軍は?―――来ないぞ!―――今この国は国内に散らばる異民族からの侵攻を防ぐのに手一杯だ。お前たち小さき村々など、守ってやりたくても守ってはやれない」
アリッサはここで間を置いた。言葉を発する者はいない。その状況に満足したかのように、村人を横眺めしてからアリッサは続けた。
「だがソ公はお前たちを見捨てはしなかったぞ―――我々をお前たちのもとに遣わしてくれた。我らは『守兵団ドラグレア』―――傭兵だ」
村長から、あらかじめ傭兵団を受け入れるという話は聞いていた村人たちであったが、あらためてその傭兵団本人から―――我らは傭兵団だ、と言われると何か異様な雰囲気を覚えた。
しかもその傭兵団の頭目らしき、目の前で自分たちを恫喝しているのが、十七、八の小柄な少女であれば、なおさらだ。
「我らはただの傭兵ではない!守り抜く事を生業としている守兵―――難攻不落の異名をとる守兵団だ。我らはお前たちを守ってみせる!」
『守ってみせる』という決然とした宣言に、村人の顔に安堵の色が広がった。しかし、その矢先を狙いすまし、
「だが!―――」
冷や水を浴びせるがごとく―――
「条件がある」
とアリッサは続けた。
条件―――という言葉に、一転村人たちの表情は、不安に曇り始めた。
「我らドラグレアに守られるための条件は三つだ」
アリッサは村人に向かって、三本の指を立てた。その小さな手が、取り返しのつかないような、悪魔の契約への証書の様に村人には感じられた。
「一つ目―――自治権の譲渡」
自治権の譲渡?―――あまりのことに村人には、すぐには意味が飲み込めない。それを見透かしたように、
「この村は我らドラグレアの―――私の完全統制下に入るということだ。すべて―――すべてがだ」
この少女に自分たちの何もかもを委ねる?この少女に?―――村人の思考は完全に混乱をきたした。
「考えてもみろ、今は戦時だ。戦時には戦時の運営というものがあり、一糸乱れぬ統制を必要とする。そして守るのは、戦うのは我らドラグレアだ―――ゆえに我らが、この私がこの村を支配する!」
支配―――確かに支配と言った。
それなら、この村を略奪しようとする野盗団と何が違うのか―――この少女はこの少女で、防衛にかこつけて、この村を我が物にしようとしているだけなのか。
村人の不安に満ちた視線にさらに満足したように、アリッサは口元に不敵な笑みを浮かべた。




