第3話:膿と芽1
ファノの村に―――朝が訪れた。
昨夜、野盗団との激戦を繰り広げたこの村は、『生気』というものを失ったかの様に、静まりかえっていた。
無理もない―――初めての殺し合い、しかも野盗相手だけでなく、対立していたとはいえ、同じ村の仲間同士が血みどろの争いを繰り広げたのだから。
そのため、村の『東の民』は全滅―――『西の民』も多数の戦死者を出し、村の人口自体が激減したのも、この静けさの一因であった。
そんな村をアリッサは歩く―――まずは、壮大な火計の犠牲となった『東の村』に目を向けた。
村の家々はすべて焼け落ち、集落を形成していた一本道は、焦土と化していた。
そして北の大河から流れる、『西の村』と『東の村』を分かつ支流に架かった―――東西を繋ぐ唯一の橋も、昨夜の火計で焼け落ちていた。
『東の村』は消滅した―――『東の民』を含め、そのすべてをこの世から消し去ったのは、他でもないアリッサ自身だ。
だが、その事に関して、彼女に特に感傷はない―――必要だから、そうしたまで―――ただ、それだけだった。
しかし、兵力が激減したのは痛い―――アリッサの目的は、野盗団の殲滅。そのための戦術が苦しくなった。
もはやこの圧倒的不利な状況を覆すには―――『一撃必殺』の策しかない。
その策を練るために、彼女は『常態』が変化した村を、今一度歩いているのだ。
『東の村』が消滅した今、村の守備陣地の面積は、半分になった。
そして、昨夜と変わらぬ本陣の後方は、通行が遮断されている―――後方への懸念はなくなったが、同時に後退もできない。まさに背水の陣を余儀なくされている―――元々、後退、撤退などは微塵も考えていない、アリッサではあったが。
退路はない―――これで村人を『死兵』とする事も可能だ。
逃げ道があるから、逃げて生きたいと思う―――それがなければ、村人は戦い、敵を討ち果たす事でしか『生』を掴めなくなる。
むしろ好都合だな―――アリッサは、そんな事を考えていた。
水の手は、よし―――北方の大河からの支流が、村に潤沢な水を運んでいる。長期戦など考えてはいないが、念のため、すべての守備要素を確認するのが、アリッサのやり方だった。
それは、攻城戦の名手と言われた、亡き父アレグラドから学んだ攻城術を、すべて逆に置き換えたものだ。
籠城戦でも、平地の守備戦でも、それは絶大な効果を上げ―――そのため彼女が率いる『守兵団ドラグレア』は、今や『難攻不落のドラグレア』の異名をとっている。
まずは背水の陣で、村人を『死兵』に変える―――そこまでは並の将でも考えが及ぶ。だがアリッサの真骨頂は、そこに常人の考えでは及ばない『奇策』を織りまぜる所にあった。
水の手を確かめるために、川を確認したアリッサは、突然ニヤリと笑った―――なぜなら、そこに『奇策』の糸を見出したからであった。
随行する従者―――ダイヤはその辺を心得ている。
「何か思いついたのかい?」
微笑みながら、そう問いかけると、
「ああ、思いついた―――八割まで、策はできていたが、これで仕上げの一手が打てる」
自信に満ちた表情で、アリッサもまた微笑んだ。
そして、アリッサとダイヤが、村人が集まる広場に進むと―――
生き残った村人―――すなわち『西の民』は、アリッサの姿を目にした瞬間、皆一様に『恐怖』の表情で出迎えた。
彼女のおかげで、野盗団を撃退できたのは事実だ―――だが彼女は、同時に『東の民』を残らず抹殺した。
「裏切りは許さない」
自治権の譲渡、村の総資産の三分の一の報酬、とともに、アリッサはその条件を、村人に誓約させた。
だが『東の民』が裏切ったとはいえ、本当に―――女子供まで抹殺するとは、村人には思いもよらなかった。
アリッサは再戦を期している―――だが村人は、昨夜の戦闘で負傷しただけでなく、その精神も限界に達している。正直、もう戦いたくない。
だが従わねば、この狂気の少女は―――必ず、自分たちも抹殺するに違いない。
感謝、畏敬、恐怖―――村人の視線は、そのすべてが混ざり合ったものだった。
恐怖で縛り付けてでも、戦わせなくてはならない。そう考えるアリッサにとっては―――首尾はよし、といったところか。
そして、アリッサはその視線の中に、ファノを見つけた―――青髪の『異能の民』、『魔眼』の少女を。




