第1話:守兵団3
アリッサは青髪の少女に向かって、吸い寄せられるかの様に歩き出した。なぜ自分がそうしているのか、当のアリッサでさえわからない。
「おいどうしたアリッサ?」
遠くを見つめるまなざしのまま、自分たちの横を素通りしていくアリッサに、モルガンがたまらず問いかけたが、アリッサは無言のまま歩みを止めない。
アリッサは青髪の少女の前で立ち止まると、そこで初めて我に返った。だが何も言葉は出てこない―――その代わりに少女を観察した。
背は自分より低い―――アリッサ自身が身長は低いが、その自分より小さいということは自分より年下だろう。そんな事を考えていると―――
「綺麗だね」
先に言葉を発してきたのは、青髪の少女の方―――それは思ったよりも凛とした声だった。
アリッサは自分が機先を制されてしまった事に驚いたが、それを顔色にはけっして出さない―――と同時に、顔面すべてを覆うほどに伸ばした少女の前髪は、やはり異形だと思った。
「綺麗―――何がだ?」
「その鎧……金色で綺麗」
ようやく問い返したアリッサに、少女は淡々と返答した。
アリッサは金色の鎧を纏っている―――が、その上には真紅の装束を着込んでいる。
胸元、袖口などから、もちろん鎧は多少見えているが、それにしても、それだけで金色の鎧が綺麗などと言う少女の言葉に、姿形だけではない奇妙さをアリッサは感じた。
「あなたは……戦うの?」
アリッサが再び問い返す暇も与えず、少女は言葉を次いだ―――その途端、アリッサの表情が変わった。
「その問いには、この後答えよう」
少女に問われた事で、忘れていた自身の本分を思い出したかの様な、妙な気分になったアリッサは、通告するような口調で答えた。
「ファノ!何をしているの!」
突然の女の叫び声に、二人の会話はさえぎられた。
「一人で出歩いちゃダメだって」
「ごめん、マーサ」
少女を探しに来た保護者と思われる妙齢の女を、少女は『母さん』ではなく『マーサ』と名前で呼んだ―――という事は、この少女は戦災孤児か何かか、とアリッサは考えた。
同時に少女の名前は『ファノ』というらしいことも分かった。
「この子が何か、ご無礼を働きませんでしたでしょうか?」
マーサはファノを胸に抱きながら不安そうに、初めて見る武装した少女―――アリッサに尋ねた。その表情には―――これが村長の言っていた傭兵団に違いない、という恐怖も混じっていた。
「いや何、私が戯れただけだ。その子には何の落ち度もない―――では」
自分からファノに接触をはかっておきながら、名前を知った事以外は何の要領も得ず、アリッサは会話を打ち切ってファノたちに背を向けた。
自分はあのファノという少女の、何を確かめたかったのか―――何も分からないままだ。
それでもアリッサはファノとの問答を終わりにしたかった。
なぜだ―――それも分からない。不本意ではあるが、マーサがファノを迎えに来てくれたことに救われた気持ちさえする。
仲間の方に歩きながら、それでもアリッサはファノの方を振り返った。
ファノの頭をなでながら、マーサが何かを諭しているようだ―――その仕草には深い愛情が溢れていた。
そしてマーサがファノの頭をなでた一瞬、その異様に伸ばした前髪が割れて、少しだけその顔が遠目に見えた。
綺麗だな―――無意識にアリッサは、そう思った。