表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/59

第1話:守兵団3

 アリッサは青髪の少女に向かって、吸い寄せられるかの様に歩き出した。なぜ自分がそうしているのか、当のアリッサでさえわからない。


「おいどうしたアリッサ?」


 遠くを見つめるまなざしのまま、自分たちの横を素通りしていくアリッサに、モルガンがたまらず問いかけたが、アリッサは無言のまま歩みを止めない。




 アリッサは青髪の少女の前で立ち止まると、そこで初めて我に返った。だが何も言葉は出てこない―――その代わりに少女を観察した。


 背は自分より低い―――アリッサ自身が身長は低いが、その自分より小さいということは自分より年下だろう。そんな事を考えていると―――


「綺麗だね」


先に言葉を発してきたのは、青髪の少女の方―――それは思ったよりも凛とした声だった。


 アリッサは自分が機先を制されてしまった事に驚いたが、それを顔色にはけっして出さない―――と同時に、顔面すべてを覆うほどに伸ばした少女の前髪は、やはり異形だと思った。


「綺麗―――何がだ?」

「その鎧……金色で綺麗」


ようやく問い返したアリッサに、少女は淡々と返答した。


 アリッサは金色の鎧を纏っている―――が、その上には真紅の装束を着込んでいる。


胸元、袖口などから、もちろん鎧は多少見えているが、それにしても、それだけで金色の鎧が綺麗などと言う少女の言葉に、姿形だけではない奇妙さをアリッサは感じた。


「あなたは……戦うの?」


 アリッサが再び問い返す暇も与えず、少女は言葉を次いだ―――その途端、アリッサの表情が変わった。


「その問いには、この後答えよう」


少女に問われた事で、忘れていた自身の本分を思い出したかの様な、妙な気分になったアリッサは、通告するような口調で答えた。




「ファノ!何をしているの!」

 突然の女の叫び声に、二人の会話はさえぎられた。


「一人で出歩いちゃダメだって」

「ごめん、マーサ」


 少女を探しに来た保護者と思われる妙齢の女を、少女は『母さん』ではなく『マーサ』と名前で呼んだ―――という事は、この少女は戦災孤児か何かか、とアリッサは考えた。


同時に少女の名前は『ファノ』というらしいことも分かった。


「この子が何か、ご無礼を働きませんでしたでしょうか?」


 マーサはファノを胸に抱きながら不安そうに、初めて見る武装した少女―――アリッサに尋ねた。その表情には―――これが村長の言っていた傭兵団に違いない、という恐怖も混じっていた。


「いや何、私が戯れただけだ。その子には何の落ち度もない―――では」


 自分からファノに接触をはかっておきながら、名前を知った事以外は何の要領も得ず、アリッサは会話を打ち切ってファノたちに背を向けた。




 自分はあのファノという少女の、何を確かめたかったのか―――何も分からないままだ。


それでもアリッサはファノとの問答を終わりにしたかった。


なぜだ―――それも分からない。不本意ではあるが、マーサがファノを迎えに来てくれたことに救われた気持ちさえする。


 仲間の方に歩きながら、それでもアリッサはファノの方を振り返った。


ファノの頭をなでながら、マーサが何かを諭しているようだ―――その仕草には深い愛情が溢れていた。


 そしてマーサがファノの頭をなでた一瞬、その異様に伸ばした前髪が割れて、少しだけその顔が遠目に見えた。


 綺麗だな―――無意識にアリッサは、そう思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ