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第2話:狂気の目覚め7

第2話の導入部が長くなりそうなので、導入部だけで1話にするため、サブタイトルを 7 投稿時より

「膿と芽」から「狂気の目覚め」に変更させていただきました。




 鮮やかな装飾と、威厳に満ちた構えからなる『セイの国』の宮殿―――それは『大陸の東の雄』と呼ばれる強国の象徴でもあった。


 その宮殿の大広間で、アレグラドは多くの者に囲まれ、輪の中心にいる。


 セイ公主催の『ロの国』平定の宴―――それはもはや、その立役者である大将軍アレグラドを讃える宴、といっても過言ではなかった。




「いや、この度の大将軍の城攻めも、お見事でしたな」

「まさか工兵によって、川の流れを変えるとは」

「大将軍がいれば、セイは安泰ですな」


 アレグラドを取り巻く国家の重鎮たちは、口々に今回の『ロの国』平定の戦果を賞賛した。


「ありがとうございます。ですが私は最後の城を落としただけ―――それまではベルデン将軍の功績です」


 繰り返される自身への賛辞を噛みしめながらも、アレグラドは平定の大半を担った、ベルデンへの配慮を忘れない。


「ベルデン将軍ですか―――彼は意地を張りすぎましたな」


 ついに一人の大臣が、ベルデンを批判した。


「うむ、やつは平地戦はできても城攻めがな」

「潮時というものも、わきまえておらん」

「まあ、何においてもアレグラド殿には遠く及ばん」


 堰を切ったような誹謗―――アレグラドの取り巻きは、口々にベルデンを罵った。


 人の不幸は蜜の味―――賞賛の裏にある中傷―――いつの時代も人間の興味はそこに繋がる。



 ベルデン将軍―――彼は不運な将軍であった。


 統率力、戦術ともに一線級の能力を備えた彼であったが―――彼の前にはいつもアレグラドがいた。


 越えられぬ壁、天才を超える天才―――アレグラドさえいなければ、『セイの国』の大将軍になっていたのはベルデンのはずであった。


 そして今回の『ロの国』平定戦も、最後の仕上げをしたのはアレグラドであった。


「ベルデン将軍は、やはり来ていないのですか?」


 アレグラドは、いたたまれぬ気持ちもあって、宴へのベルデンの不参加を確認した。


「フン、どの面さげて来られましょうか」


「自分は戦勝の宴にまみえる資格はない。引き続き、首都防衛の任にあたるため、宴は辞退する、とな」


「そのあたりの身の程というのは、わきまえておる様ですな」


 そう言うと、取り巻きは声を立てて笑った。



 ベルデンは、自身が長引かせた最後の城攻めを、公命により解任されると、国軍をアレグラドに引き渡した上で―――自軍をセイの国内に戻し、自発的に国境防衛、首都防衛の任についた―――人々はそれを彼なりの謝罪、謹慎、国家への忠誠と解釈した。


 そして今日のこの晴れの宴も、功労者の一人であるのに―――参加を辞退し、首都防衛の任についているベルデンを、アレグラドは心から気の毒に思った。


 だが、高みより下を思いやる気持ち―――それは真に葛藤に苦しむ者の気持ちを理解はできない。


 宴が進む中、アレグラドもいつしか、ベルデンの事を忘れていった。


 ―――そして、その時は来た。




 突然の馬蹄の響き、喚声が宮殿の大広間に聞こえて来た。


「何事ですかな」


 まだ大臣たちは、呑気に杯を傾けていたが、


「申し上げます!」


 という、奏者の伝えた内容に愕然とした。


「シン、エン、チョウ、ギ、カンの五ヶ国連合軍が、国境を越え―――我が国に侵攻してまいりましたー!」


「ご、五ヶ国連合軍!?―――何かの間違いではないのか!」


「馬鹿な事を申すな!―――五ヶ国にそんな動きがあるなど聞いてはおらんぞ」


 大臣は奏者に怒鳴りつけながら問いただす―――まさに青天の霹靂である。


「ま、間違いはございません―――国境の諸城はすべて連合軍の手に落ちた模様」


 奏者のただならぬ気配に、大臣たちも半信半疑ながら事態の深刻さを感じ始めた。


「国境は、ベルデンの軍がおったはずだろう!―――やつは何をしておったーーー!!」


「そうじゃ、あの役立たずめは、何をしておったのだ!」


 再び、口々にベルデンを罵る大臣の怒声に、奏者はまだ告げていない―――衝撃の事実を明かした。


「五ヶ国連合軍を手引きしたのは―――ベルデン将軍でございます!」


「―――!」「―――!」「―――!」


 その場の誰もが声を失った。それにかまわず奏者は続ける。


「ベルデン将軍はすでにこの宮殿を包囲!―――現在、近衛軍が防衛しておりますが、いつまで持ちこたえられるか」



 理解したくない―――だが、事態が理解できた。


 ベルデンが―――国を売った。


 国境防衛の名目で国内に自軍を展開し、五ヶ国連合軍を引き込み―――そしてこれも首都防衛の名目で駐屯させた手兵を、今自分たちがいる宮殿に差し向けている。


 不運の名将の名に恥じない―――鮮やかな電撃戦であった。


「べ、ベルデンが来るー!」

「逃げろーーー!」

「馬鹿者、セイ公をお守りするのだ!」


 大広間が騒然とする中、宴の主人公だった『大将軍アレグラド』は―――ただ立ち尽くす事しかできなかった。




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