第2話:狂気の目覚め1
ここで大陸の歴史について説明しておきたい―――
中世の欧州の様なたたずまいを見せるこの大陸は、かつては百以上の小国が乱立する、戦乱の地であった。
だが数百年前に、徳ある有力諸侯が会盟を行い、その中の一人を盟主とあおぎ連邦を形成する事で、戦乱に束の間の終止符を打った。
盟主に選ばれた男の国―――『シュウの国』は王国となり、その他の有力諸侯の国は、王国に次ぐ公国としてそれを支えた。
宗主国シュウと公国により大陸の平定が進められたが、銃火器の存在しない中世様式の武力によるこの大陸の戦争は、面制圧を困難とし、その領土は拠点を『点と点』で結ぶ、あやふやなものであった。
故に大国の領土にも、いくつもの小国が内在したままというのが実情で、それを時には対話で併合し、時には武力で制圧しながら、連邦による大陸平定という命題はゆるやかな歩みしか見せなかった。
そして崇高なる理念で結ばれた公国も、代を重ねるにつれ、それぞれの思惑が交錯し、再び相争うという緊張状態を形成した。
国主の人徳のみで盟主に選ばれた宗主国シュウは、元は大陸の中央に位置する小国に過ぎず、生産力、軍事力ともに、この状況を打開できる力はなかった。
―――もはや『徳』で大陸を治める事は不可能であった。
時のシュウ王は公国の中から有力な七国を、己と同じ『王』に封じる事で宗主としての主権を返上し、力のない己にかわり大陸の安寧を再び取り戻す事を請うた。
セイ、チョウ、ギ、カン、エン、ソ、シンの七国である。
王の位を手に入れた七国は、各々が王権を乱用せぬために合議の末、シュウ王を王の上に位する『帝』に奉る事に決めた。
そして、帝は勅命として―――王国同士はけっして争ってはならない、という七国による和戦協定を結ばせると、それ以後は七王国の協調の象徴として君臨した。
この『シュウの帝』の窮余の一策は功を奏し、七王国は各国内に散らばる公国、蛮族の討伐に専念し、大国同士による大戦は回避された。
さらに時は流れ、今より三年前―――事態は急変した。
大陸西方に位置する『シンの国』の王、グランゼルは突如、電撃作戦により帝都『シュウの国』を占拠。
―――いわゆる軍事クーデターを決行した。
帝を拘束したグランゼルは、シンを除く六王国の王権を停止、公国に戻す勅命を出さしめ―――王国は『シンの国』一国という状況を作り出した。
これにより―――王国同士は争ってはならない、という和戦協定は雲散霧消した。
そして帝の勅命のもと、大陸を安寧たらしめる―――という大義名分を手に入れた『シンの国』による侵略が始まろうとしていた。
大陸に緊張が走る中、場面は他の五国ともども王権を停止された公国、大陸の東に位置する『セイの国』―――
「父様の凱旋はまだだろうか―――」
十四歳のアリッサは胸はずむ思いで、父の帰りを待ちわびていた。