表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/59

第1話:守兵団23

『東の民』の村を、まるごと焼き尽くした壮大な火計―――


 支配者―――だからお前たちの村を灰燼に帰そうと、私の自由だ―――そう宣言するアリッサに、東の民は怨嗟の声を上げ続ける。


 しかし、それを見つめるファノは、アリッサが悪い事をしたとは思えなかった。


 アリッサが野盗の死体を晒し者にした時、それを―――ひどい事、と自分は言った。


 だがそれも誤解だった―――今、ファノはそう思う。


 何が誤解だったのかは、わからない。でも今はそうしたアリッサの気持ちに寄り添いたい―――ただそう思った。


 そして、戦場のすべてを手のひらで踊らせた―――自分の魔眼さえ及ばなかった策略に、深い感動を覚えた。


 悪魔の様な表情で、狂った様に笑うその姿さえ、彼女の―――アリッサの生きている姿なんだ。ファノはアリッサをそう理解した。




 戦の大勢は決まった。村の―――アリッサ率いる『守兵団ドラグレア』の勝利で。


 東の民が完全に意気消沈し、怨嗟の抗議を諦めると、アリッサは野盗の大将に目を移した。


 その姿は憔悴しながらも、怒りに満ちていた。


 地獄と天国を交互に見せる様な、筋書きじみた戦術。そして配下の常人離れした力量。すべてにおいて自分は、自分たちは敗れた―――この小娘に、この守兵団に。


 このまま最後の突撃を敢行し、あの小娘と刺し違えてくれようか。だが勝算は低い―――そんな、どうにもならない思考にとらわれた顔だった。




「いいぞ、軍を引け」

 アリッサは大将に向かって、意外な言葉を投げつけた。


「安心しろ―――追撃もせん」


 低い櫓の上ながら、アリッサは完全に相手を見下ろし、そして見下した態度で言葉を繋いだ。


「―――!」

 野盗の大将には、アリッサの意図がわからない。


 追撃はしない―――とは言ったが、これも策なのではないか?


 撤退を始めた刹那、また第二、第三の秘められた策が出現するのでは―――


 大将の思考は混乱を極めた。だが、アリッサは別の事を考えていた。


 ここで目の前にいる野盗を殲滅する事は可能だ。だがマルコの調査では、まだ野盗団には残存勢力がいる。


 全滅させた挟撃部隊を加えて、かなりの数を討伐した感触はある。だが残存勢力を残しておけば、いずれまた奴らは新たな大将を選び、新たな野盗団としてこの村に襲いかかってくるだろう。


 アリッサの狙いは、野盗団の完全なる殲滅―――そのためには、もう一度、今度は野盗団の全勢力をもって、再来襲させる必要があった。




「どうした、軍を引く気力も失せたか?」


 アリッサは高笑いとともに、野盗を挑発した。


 進むも地獄、引くも地獄、それなら―――野盗の大将が出した決断は撤退。アリッサの追撃しないという言葉に一縷の望みを、そして再戦による復讐に賭けた。


 我が策のすべてが成れり―――


 アリッサはそう判断すると、撤退を始めた野盗団の背中に向かって―――再来襲を確実なものとするために、


「覚えておけ、我らの名は『守兵団ドラグレア』―――我らは難攻不落、『難攻不落のドラグレア』だ!」


 侮蔑に満ちた大音声で、誇らしげに我が団の名を投げつけた。




 野盗団の撤退が始まった―――それは重い足取りで。


 そして戦場には、村を裏切り野盗に加担した、バートをはじめとする『東の民』が取り残されようとしていた。


『西の民』からの視線―――アリッサを罵った彼らが、今度は怨嗟の対象となるのだ。東の民はそれに怯え、その場に崩れ落ちた。


「おい、俺たちを見捨てるのか!」


 バートは撤退する野盗団に向かって叫んだ―――だが誰も振り向く者はいない。


 進退極まった。西の民を皆殺しにし、その肥沃な畑を己の手中に収め、積年の恨みを晴らす―――そのすべてが、まさに灰燼に帰した。


 だがバートという男は、まだ諦めなかった。


「くそーっ、お前だけでも連れて行けば!」


 身をひるがえし、そう叫ぶと、野盗が望んだ『異能の民』―――ファノに向かって駆け出した。


 こいつを連れて行けば―――俺だけは助かる。その一心だった。


 アリッサの火計による衝撃で、西の民は呆然となり分散してしまっている―――今、ファノの周りには誰もいなかった。


 バートは喚声を上げながら、ファノに近付く。


 そしてあと少しで手が届く、そう思われた瞬間―――駆けつけたマーサが両手を広げ、その前に立ちはだかった。


「邪魔するなー!」


 逆上し、目を血走らせたバートは、迷わず槍を突き出した―――そしてファノの盾となろうとしたマーサの体は、その凶刃に貫かれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ