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第1話:守兵団1

 大陸南方、『ソの国』―――


 その一団は軽い砂嵐を気にも止めず、中世の欧州にも似た荒涼とした大地を、ただ目的地に向かう。


 集団は八人。一見無造作に見える立ち位置で前に進むが、中央にいるまだ大人びていない少女を囲むように、実際は円陣を組んでいる―――すなわち臨戦態勢である。


「―――いるな」

「ああ、いるな。軽装だ―――斥候だな」


 中心にいる少女―――この異様な一団『守兵団ドラグレア』の頭目アリッサの問いに、先頭を歩く白髪の壮年の男―――モルガンが答える。


「狩れ。ただし肉は刻むな、血も減らせ。時間が惜しい」


 アリッサは少女とは、およそかけ離れた思考で、冷徹な指令を淡々とした口調で下した。


「四人か―――ダイヤ、マルコ、トロワ、行くぞ。せーのっ」


 モルガンのこれもまた、今から人殺しをしにいくとは思えない、気の抜けた呼びかけに、呼ばれた三人は無表情に応じた。


 アリッサたちは四方向から一人ずつ―――計四人の野盗の斥候に囲まれている。相手はまだアリッサたちに察知された事に気付いていない。


 モルガンの気の抜けた「せーのっ」が言い終わるか言い終わらないうちに状況は動いた。


 まずダイヤと呼ばれた黒髪の美しい女が、短弓に矢をつがえたかと思ったその瞬間に、野盗の一人が木から落ちてきた。その首筋にはダイヤが放った矢が刺さっていた。


 残る三人の野盗には状況が掴めなかった。目にもとまらぬ早さで、女が弓を構えた次の瞬間に、仲間の一人が地面に転がっている。だが彼らに次の思考を始める時間は与えられなかった。


 モルガン、マルコ、トロワは、アリッサの指示通り、死体が損壊しないように、残り三方の野盗の急所にピンポイントで剣を突き刺した。


モルガンのかけ声から十数秒で、殲滅は完了した。




「おそらく今回の相手の斥候か」


「目的の村にだいぶ近付きましたし、相手が放っている斥候に出くわしてしまった、というとこでしょうね。定期的に斥候を放っているとしたら、野盗といえどなかなか組織化されていると思っていいでしょう」


 アリッサの問いに、剣についた血を払っている男―――団の諜報担当マルコが敵勢力の分析を答えた。


「言った通り時間が惜しい。この死体を隠している時間はない。すまないがエゴイ、村まで担いで運んでくれ」


 アリッサに命じられたエゴイと呼ばれた巨漢は、その巨体に似合わぬ微笑みを見せながら頷くと、四つの死体を二つずつ軽々と両肩に乗せた。その背中には団の武具が入った、鉄の箱も背負われているがエゴイの姿勢はまったく乱れない。


「ジー、ユー、わずかだが血の痕を消せ。時間は稼いでおきたい」


「ククク」「ケケケ」


 ジー、ユーと呼ばれた全身をボロ布で包んだ、子供ほどの身長しかない奇妙な二人組は、返事をするかわりに不気味な笑い声をあげた。


その表情、目付きさえうかがい知ることはできないが、しかしアリッサの命令を忠実に、器用に血だまりのできた地面を掘り返し、現場処理を完成させた。


「さて行くか―――トロワ、例の村まであとどれくらいだ?」


「計算ではだいぶ近付いたはずだ。昼までには着くだろう」


 目的の村までの距離を問われた男―――卓越した測量能力を持つトロワは、その隻眼の目を光らせた。


「よし進むぞ。雑魚にかかわったせいで時間を食った」

「よーし、進発進発」


 アリッサの指示に、副頭目格のモルガンが相槌をうち、再び一団は進む。




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