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第1話:守兵団18

 アリッサの指示による西の民の槍衾、ダイヤの短弓の連続射撃によって、野盗は完全に進撃を食い止められてしまった。


 同時に、突破できない焦りによって、高まりつつあった士気にも陰りが見えてきた。


「クックックッ、これが本当の戦だ―――どうだ、攻め来る者どもよ」


 アリッサは自身の戦術の、順調な進行に喜色を濃くした。


「そろそろかねえ」

「ああ、そろそろだ。さらなる恐怖を味わえ―――アーハッハッハッ」


 隣で短弓を射ち続けるダイヤの言葉に答えると、アリッサの高笑いはさらに勢いを増した。


 槍衾の前でまごつく野盗たちは、突破できない槍の列の後ろで、櫓に乗った少女が狂った様に笑っているとしか見えない。


 怒声と悲鳴にかき消されて、会話の内容など聞こえないのだから無理もない。ましてや、その少女がこの戦団を率いる指揮官などと、野盗には想像がつくはずもなかった。


 そんな気味の悪さを感じていた野盗の後方から、あらたなる悲鳴が上がった。




 突然、仲間の首が胴を離れ―――飛んだ。


 悲鳴を上げ呆然とする中、一人、また一人と、野盗の首と胴が離れていく。


 そこには、「ククク」「ケケケ」という笑い声が聞こえた。


 そして野盗は見た―――子供ほどの身長に、全身ボロ布をまとい、その顔さえ見せず、手袋をした左手と右手を片方ずつ掲げる、得体の知れない異形の姿を。


 そしてその二つの異形―――ジーとユーは動いた。その二人が駆け抜けながら、掲げた腕の間に挟まれた者の首が、また一つ飛んだ。


「あああああーーーっ!」


 野盗の絶叫が響き渡る中、ジーとユーはまるで楽しく遊ぶ子供の様に、「ククク」「ケケケ」と笑いながら、ピョンピョンとその場を跳ねた。


 跳ね回るジーの掲げる左手、ユーの掲げる右手の間から、鮮血がまるで魔法の様に宙に飛んだ。


 二人の間には―――野盗の首を次々と飛ばした―――鋭利な鉄線があった。その鉄線に滴る鮮血が、ジーとユーが跳ねるごとに、ピチャピチャと地を濡らしていった。


 暗闇の中、薄い月明かりと、村人の灯した篝火しか視界を助けるものがない野盗にとっては、状況が理解できるはずもない。


 目の前にいる、不気味な笑い声を上げる、異形の二人に挟まれた者の首が飛ぶ―――まるで目の前に、本物の悪魔の使いを見るがごとく、野盗の混乱は錯乱の域に達しようとしていた。




「恐怖は人の力を奪い、そしてその恐怖は伝播し、集団を鈍らせる―――いいぞ、いいぞ」


 アリッサはまるで観戦者の様に、状況の分析をまた呟く。


 同時にその頃、アリッサたちから見て戦場のやや前方で、野盗の副将といまだ激しく打ち合っているモルガンが、チラッとアリッサを振り返った。


 そして、その瞬間アリッサは、コクンと頷いた。


「よそ見とは、いい度胸だな!逃げたくなったか」


 罵声を浴びせながら打ちかかってくる副将に、


「すまないねえ、こっちにも色々と段取りってモンがあんだよ」


 打ち込みを真正面に受け止めながら、本当にすまなそうに、モルガンは答えた。


「ほんじゃ、仕事をさせてもらうわ―――」

「―――!?」


 副将には言葉の意味が分からない。だがそんな思考は、すぐに打ち消された。


 フン―――とモルガンは気合いの声を上げると、激しい突きを何発も繰り出してきた。今までとは違う―――受けるのが精一杯の、閃光の様な連続の突きを。


 副将は動けない、体勢を立て直す事さえ許されない。何故だ、何故だ、と思うばかりで、モルガンが今まで手加減をしていたという事実を冷静に考慮する余裕もそこにはなかった。


 そして、「そりゃ」というモルガンの声に呼応した―――駄馬と言われた―――馬は血走った目つきで、雄叫びを上げると、副将の乗る馬に頭から体当たりを加えた。


 副将の体勢が完全に崩れた―――そして、


「お前さん、なかなか強かったよ―――だが、相手が悪かったな」


 モルガンの言葉が終わると、その首は宙に飛んでいた。


「よーしよし、いい子だ、いい子だ」


 槍についた血をはらうと、モルガンは馬の首を優しく撫でながら、その健闘を讃えた。




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