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第1話:守兵団15

 ダイヤの長弓による先制攻撃により、野盗団五十人の進軍は止まった。それどころか弓の射程から外れるために、やや後退してしまった。


「冷静に考えれば、弓の軌道、本数から射手は一人だと分かる―――射手が一人ならば、軍を散開させるなり、弓の本数を上回る速攻、突撃に移るなり、やり様はいくらでもあろうに―――クックックッ、これが『恐怖』の作用だ」


 アリッサは独り言の様に、状況を分析した。


 長弓は威力と射程がある分、射撃に時間がかかる。ダイヤ程の名手でも一発につき十秒は要してしまう。


 アリッサの分析通り、もし野盗が突撃に移行すれば、一〇〇の距離なら数発を射っている間に、距離を詰められ、長弓は効力を失ってしまう。しかも動く的への長弓の命中率はかなり低い。


「では、頭の単純な阿呆どもを、もう少し騙してやろうか―――一〇〇の距離を越えてはならない、と―――トロワ、一〇〇の距離ちょうどに空射ちさせろ」


 アリッサから指示が飛ぶと、トロワは一〇〇の距離を計算した上で、ダイヤに矢を放たせた。


 野盗団が軍を引いた手前の、ちょうど一〇〇の距離の地点に―――野盗の射抜かれた死体が倒れる当たりの地面に―――二本、三本、と矢が突き立った。


 野盗団は息をのんだ―――そして理解できた。この矢が繋ぐ線は死線をあらわしている事が―――この線を越えれば『死ぬぞ』というアリッサからの警告が。




 戦場は緊張による、膠着状態に入っていった。


 アリッサは、楽しくて仕方がないのか、白い歯をむき出しにしてニヤニヤしている。


「さて、野盗がいかに阿呆でも、矢の雨が降って来なければ、こちらの射手は一人しかいないと、いずれ気付くだろうなあ」


 まるで他人事の様に、アリッサは村人の列を見渡しながら言った。村人も息をのんで、ただその言葉に聞き入った。


「では皆の者、戦を動かすとしようか―――モルガン、準備はいいか」


「へいへい、誉れある先陣を賜りまして、恐悦至極でございますよお」


 モルガンは、村人から提供された馬の中から、一頭を選んでいた。そしてその馬に跨りアリッサの前に、軽口を叩きながら進み出てきた。


「その馬―――ずいぶんな駄馬に見えるが」


 アリッサの指摘通り、モルガンの馬は随分と痩せている―――というか、大柄な彼を乗せるには大きくない、と言った方が適切かもしれない。それよりも、むしろ顔立ちが―――気性に覇気がない様に見える。


「ああん、これか―――フン、一見駄馬に見えるぐらいの奴の方が―――いざって時には根性を見せるもんさ」


 モルガンは、アリッサの前でたたずむファノを、チラッと見てニヤリとした。つられてアリッサも微笑んだ。


「切り崩せ、そして引き込め」

 アリッサは短い言葉をかけた。


「ほんじゃあ行ってくるわ―――ああ、そうだ」

 進みかけたモルガンはクルリと馬首を返し、


「ダイヤ、俺の背中―――射つなよ」と、冗談とも本気ともつかぬ言葉を投げた。


「フフ、あんた次第さ」

 言いながら、ダイヤは鼻にかけたマスクを上げ直した。


「おお怖え、怖え」

 言い終えると、馬の腹に合図の締めを加え、モルガンは野盗に向かって進んでいった。




 アリッサの心配した通り、モルガンの馬の足取りは、おぼつかない。


 元はといえば農耕馬として使われてきたのだ。鞍を乗せられるのも、くつわをはめられるのも、今日が初めてなのだから無理もないところではある。


 それにしても、馬を連れてきた村人でさえ―――本当に、この馬にするのですか?―――と疑問を呈したほど、この馬には、前に出ようという覇気が見えなかった。


 そんな馬を操りながら、モルガンは単騎、野盗との距離を詰めていった。


 あと五〇、四〇、三〇―――


 おぼつかない足取りの馬による単騎駆けに、迎え撃つ野盗の側も大きな警戒は見せていない。


「お前さんの力―――ちいと俺に貸してくれ」


 そう言いながら、モルガンは馬の首をなでると、手綱に力をこめた。


 瞬間―――モルガンを乗せた馬は急加速を始めた。体勢にも揺らぎは、まったくない。


 二〇、一〇―――


 そのままの加速で、モルガンと馬は一〇〇の距離に到達した。


 そして、ブヒヒーン、と雄叫びを上げると馬は、ダイヤが射倒した野盗の死体を軽々と飛び越えた。


 そしてモルガンが大槍を、横一閃に薙ぎ払うと、前に並ぶ野盗の首が―――宙に飛んだ。


 モルガンは馬首をめぐらすと、野盗に向き直り、槍の石突きで地面を鳴らした。馬も蹄を鳴らしながら、雄叫びを上げ上気している。


「俺らの名ぁ、『守兵団ドラグレア』だ―――死にてえ奴ぁ―――かかってこい」


 モルガンはそう言うと、槍の穂先を野盗に向けながら笑った。




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