第2の女
この作品は、全て妄想であり、創作です。
『マネージャー、前回の契約の件なんですが』
と私が言いながら髪を右耳にかける。
OKなら男がチョコレートの匂いのするタバコを吸い、ダメな時はセブンスターを吸う。
これが私達の逢瀬のサインだった。だいたい月1ぐらい。多くて2回。
加えてマネージャーが、打ち合わせと言う名目で『佐藤チーム長、ちょっと隣のコーヒー行こう』の時はだいたい夜の相談だったが。
女子トイレでその話を聞いたのは、最近、男のセブンスターが続き、コーヒーも誘われないなぁと、思っていた矢先だった。
女子同士のトイレでの会話だ。
『ねえ、マネージャーって、よーく営業所で携帯で誰かと話ししてるけど、あれ絶対女だよね?いつも1時間は話してない?』
『私、この前、しらばらくれて近くで聞いてたんだよね?そしたら、昨日はあれからすぐ帰ったのかとか、車の鍵がどうとか、聞こえたけど?』
『え?嫁かな?毎日電話で喋るほどに熱々の夫婦の気もしなくない?』
『とにかく次に会う約束してた気がするけど?』
私は知らんぷりしていたが、内心穏やかではなかった。なぜなら私はそう言うわけで、営業に這いずり廻ってるので、営業所に殆どいたためしがない。帰って来るのは契約書を持ち帰る時ぐらいなので、特に昼間の男の様子など知らないし、長電話も初耳だった。
『私、佐藤チーム長かな?って思ったことあるんですけど、先週のチーム長研修の時もマネージャー、喋ってたから違う女性なんだろうなって。マネージャーって何から何まで佐藤チーム長に、相談してるじゃないですかぁ』
と、若い後輩が意地悪そうに私の反応を見た。どうやら私と男の関係を多少、疑ってるらしい。
『違うわよう〜。佐藤チーム長は仕事一筋で、火遊びなんて興味ないですもんね?』
チッ、余計なお世話だっつうの。
でも、この際そう思わせといた方が良さそうだ。
そう、私が営業で格闘してる頃、男は他の女に触手を伸ばしていた。はたしてその女はテレアポチームいちの美人だった。なんでも旦那がヤクザもんで金を入れないらしく、生活に困っているらしい。テレアポの成績も良いので頑張れば高給を望める営業チームに入れたいがどう思う?とこの前ホテルで相談されたばかりだ。成る程ね。
私がなぜその女が相手だと分かったかと言うと、男が珍しく車の話をしたからだ。今の車は高級車じゃなくともキーリモコンで鍵がかかるんだねとか、なんとか。最初意味不明だったが、テレアポの例の女が、
『この前出かけたら夜暗くて、車どこに停めたかわからなくなっちゃったんだけど、キーリモコンのおかげでガチャっと音がして助かったのぉ』と
トイレで喋ってたからだ。つまり女の車で遊んでたんだろう。
今思うとあれは私にわざわざ聞かせてたに違いない。
私と男の関係を疑って、挑発してたんだな?
私は血の気が引くのが分かった。
さて次の女の影ですね?