罠にかかる
この作品は、全て妄想であり、創作です。
7月は、通常月よりノルマの高い。男の取り合いが功を奏して、その月は前年度成績を早々と越えて新記録を達成、支社の中でもダントツの成績を打ち出した私達の営業所は、本社からお祝いの金一封が出たのもあり、締め切りが終わってから華やかなな打ち上げがあった。通常に増してのドンちゃん騒ぎであったが、男は途中からお客からのディープなクレームが入り、すっかり酔いは覚めていたようだった。
なんでも100万近くの教材を売りつけて、家庭教師を付けたものの、成果はさっぱりあがらずどころか、実力テストは悲惨な成績だった。しかも家庭教師が決まりきった事しかやらない学生で、何回もチェンジを申請したがのらりくらりで交換してくれない。これでは高額な教材費だけ買わせた新たな詐欺ではないか?全額は無理でも使ってない分の教材は返品するので、その分のお金を返せ、会社の仕組みとして出来ないなら営業を監督したお前が責任を取って自腹を切って返せと言う、親の立場からすれば仰るとおり・・・
しかし冷静に考えれば、高額な教材を買って家庭講師をつけたくらいでそんなに簡単に成績が上がるのだったら、世の中の受験生は誰も苦労しない・・という厳しい現実を知ったと言う事なのだ。もちろんそういう生徒が多いからこそ私達みたいな会社が成り立つわけであるが・・・
私も去年の7月より成績が上がり、基本給も10万以上上がり、(つまり、今までの月より最低でも毎月10万は多くもらえるのだ)しかも英語を苦手としている一人息子が英検の3級にあっさり合格したのもあって、少し気が緩んでいた、脇が甘かったと言うのだろうか?
いつも嫌味になるぐらい自信たっぷりの男がその客のクレームを携帯で受けてから全然飲んでないのを、宴の席がたまたま近かった私は気が付いた。冷酒の飲んだふりをして途中から水を飲んでいるという、酒飲みにはあるまじき、ださい逃げ方だ。気のせいか顔が青ざめていた。
私は普通だったら全く知らん振りするところなのだが、その時は酒の勢いもあり、自分がちょっぴり浮かれていたので、思わず声をかけた。
『マネージャー、みんなこのあと隣のカラオケに行くって騒いでますけど、大丈夫ですか?気分悪そうですけど?』
『ありがとう、佐藤チーム長、申し訳ないんだけど、みんなにクレーム対応するから営業所に戻る旨、うまく話しておいてくれませんか?』
『でも、この調子だとみんなマネージャーが来ないとまた大騒ぎでしょ?カラオケに移動するふりして、こっそり逃げたらいかがですか?事情は後から話せばいいんですし。』
『そうするとしますか!』
男はいつもの取り巻きの連中に、会計をするから先に行って始めていて欲しい、すぐ行くから・・みたいな事を言って追い払っていた。私はもう飲み疲れたのでそのまま帰ろうとしたところ、男はすばやく体を密着させて来て駐車場で待っていて欲しいと耳元でつぶやいた。
あ~、なんであの時そのまま帰らななかったのか・・・本当に馬鹿な私。
どうやら、男に引っかかってしまった私・・・もう、捕まってしまったのかな?