営業所にやってきた男
この作品は、全て妄想であり、創作です。
横浜に本社を構える私達の会社は、横浜、新宿、仙台、名古屋、福岡の5支社があり、それぞれに各営業所が各県にちらばっている。基本的には家庭教師を紹介します、とう言う名目で、テレアポをし、アポが取れたところに営業をかけて高額教材を提供し、登録している家庭教師を派遣してその後、教材を使って徹底的に勉強をサポートするという、ちょっと特殊なシステムになっている。
あとなぜか、不動産を扱う系列会社を持っており、そこが潤沢な軍資金を生み出しているもっぱらの噂だが、詳しいことは良く分からない。
組織としてはどこの営業所も営業チーム、テレアポチーム、広告宣伝チーム、教育担当チーム、総務チームがあり、女子が8割を占める役30人前後で成り立っている。入れ替わりの激しいアルバイトも含めるとつねに40人ぐらいは人がうろうろ出入りしており、なかなか活気に溢れていた。
ここでちょっと各チームの簡単な仕事を書いてみる。
テレアポチームは、営業と同じぐらいキツイ仕事言う位置づけで、社内でも相当ちやほやされている。会社が莫大な資金を投入して業者から仕入れた、それこそ莫大な数の名簿に1件1件、ひたすら電話して、子供の成績悩んでいたり、家庭教師に興味のありそうな家庭にアポを取るのだ。このテレアポに関しては入社してから全員経験させられる。一応シナリオが決まっており、それに自分のトークを混ぜ込んでアポを取って行くのだが、4時間一区切りで、最初はまずそこで気を病む。意気揚々と入って来たバリバリの新卒の男子が1件のテレアポも取れず肩を震わせて泣く・・・なんて図は日常茶飯事だ。そこである程度の基準を満たした上位者が今度は営業チームに回される。
営業チームは、まあどこの会社でもそうだろうが、いわば花形、見た目で採用されるわけではないのだろうが、比較的容姿が良くて口が滑らか、一見、好感度が高そうに見えて実は抜け目の無さそうなメンバーが揃っている。基本的にはテレアポの取れたところに勉強のやり方を教えるという名目で各家庭に赴いて教材を買ってもらい、ついでに希望の家庭教師を付ける確約を取りつける。アポが入ってない時には、自分でテレアポするか、紹介先を回るか、飛び込みなどの新規開拓を毎日やる。当然会社の中でもダントツの給料を貰っており、手取り100万なんて営業マンはザラだが、そこは厳しいもので成績が上がらず歩合制が入らないと、基本給は事務職にも満たないという厳しい現実が待っている。
広告宣伝チームは、チラシを作って各店舗においてもらったり、電信柱に貼らせてもらったりがメインであったが、最近はWeb、つまりSNSで拡販したらりHPを強化して宣伝することが大部分になった。会社の成功事例をブログを書いたり、Facebookで記事を作ったり、時代にあった戦略が必要とされる。
教育担当チームは家庭教師の指導と、契約したご家庭からの勉強のやり方の質疑応答をする。家庭教師連中はなかなかプライドが高い上にこちらの言うことを聞かず、最近の学生はバイトしながら学校に通うなんて苦学生は珍しいので、雇い主であるご家庭の親や生徒と平気で喧嘩してくる。人気のある家庭教師は引っ張りだこで、気持ちも分かるが自分の行きたい御家庭にしか行こうとしない。ここもまたなかなかしんどい部署だ。
総務チームはあらゆるクレーム対応から営業の取ってきた申込書の精査、各種入金の確認、人事と多岐に渡る。営業からのクレームとお客様からのクレームとの板ばさみなど、これまた根性が試されるところだ。
その日は転勤の決まった前任のマネージャーから、次のマネージャへの引継ぎを兼ねて、私達チーム長が集まるようにと、休日でもあるに関わらず、召集を受けていた。
その男が私達の営業マネージャーとして横浜本社から赴任して来た時、私は花粉症の影響で微熱はあるは、強い薬を飲んでいつも眠く、しかも飲んで無いと容赦なく鼻水が出てくるという、コンディションは最悪、おかげで毎日機嫌が悪かった春の日だった。
私は昔、ダントツのアポ件数を上げた実績を買われてテレアポチームから営業チームにひっぱられた口で、辞めたい辞めたいと思いつつ10年、転職する根性も無くずるずると働いてた。
当時40歳になったばかり。若いとは決して思ってないがまだまだ女として輝けるだろうという、非常に中途半端は年齢であった。対して男は35歳。これまた世の中の勝ち組に入れるかどうかそろそろ決まってくる時期ではあったろう。
さて、なかなか厳しい会社のようですね?




