魔法少女ゼロセブンの回想
私の趣味を軽く詰め込んだのです。良ければご覧になってください。
世界には魔法少女という存在がいる。男であろうが女であろうがある日突然目覚め、理性を持って異能の力を得る。
世界にはエネミーという存在がいる。男であろうが女であろうがある日突然死に、本能を持って異形となる。
エネミーが現れたのは八年前。魔法少女が確認されたのはその数か月後だった。
突然現れたエネミーに対し自衛隊は苦戦。被害は拡大していく一方だった。
そんな時、襲われた者が魔法少女として目覚め、勝利したことから国は魔法少女を集め組織することを決定。
本部を東京とし、国防省管轄の治安維持部隊が組織されるようになった。エネミーが現れてから、一年後のことである。
やあ、待たせたね。私は紫珠ナナ。訳あって魔法少女をしている。最近は後輩育成を主として活動しているよ。ああ、よろしく。
私の話が聞きたい、とのことだったね。わざわざ国防省にアポとってまで……ご苦労なことで。
なに、魔法少女の強さと秘密に迫る?……よくそれで許可されたな。まあ、いいが。
私は厳密に言えば魔法少女ではなく、エネミーに近いものとされている。そうだな、漫画等でよくある敵の幹部がが味方になった的なものを想像すればいい。そんな組織などなかったが。
私とて最初は普通の人間だった。それが今やベテラン、この国でトップクラスの魔法少女とされている訳だが。
そんな私がなぜここにいるのか。それは過去を話さなければならないね。
話すと長くなるが……いいかな?
わかった、なら話すとしよう。拙い部分はどうせ検閲されるだろうしな。
そう、あれは五年ほど前……。
私はいたって普通の高校生、よくあるモブA、と呼ばれる女子高生だ。両親はサラリーマンと主婦、大きくもなく小さくもない一軒家に住み。成績は中の上、運動はほどほど、容姿はまあ、普通だと思う。歯に衣着せぬ友人からは超普通すぎてヤバイ、だそうだ。失礼な。お前も普通だろう。
なんてことのない日常。魔法少女だとかエネミーだとか、街で起こっても友人と恐いね、と話すだけで自分には関係ない、実際そんな被害は今まで降りかからなかったし、これからもそうだろう。
怠惰に授業を受け、駄弁り、放課後友人と遊ぶ。適当に店を回り、服を見て、あれがいいこれがいい。気になっていたバンドのCDを買ってみたり。適当にゲームセンターに入ってみたり、コーヒー店で呪文を唱え甘い飲み物を手に何時間も居座ったり。なんてことのない平穏な日常。だが、それが楽しくいつまでもこれが続くものだと信じて疑わなかった。
友人と別れ帰路につきながら今日のご飯はなんだろうか、なんてことを考えながら帰宅。
家が暗い。すでに両親ともに帰っている時間だが、どうしたのだろうか。どこかに出掛けているのかもしれない。たまにあることだと思い、書置きでもないかとリビングへと行く。
だが、そこにあったのは、非日常だった。
なんてことはない非日常。話題にはされるものの、自分には関係ないと思っていた。
父は最近なんだか元気がなかったとか、母は更年期がどうとか言っていたとか、なんてことを考え現実から逃避しようとする。
だが、今目の前にあるのは紛れもない現実だった。
……私の両親がエネミー化。異形と化した体には人だった時の服、その残骸が張り付き、それは私の両親だったものだと主張する。
荷物を落とした。その音で私の存在に気付いた異形が奇声を上げ、こちらへと歩みを進める。
足が竦む。本能が逃げろと叫び、理性がこれは両親ではなくなったと吠える。だが、この二つの異形は紛れもなく私の両親で。
気付いた時には母親だったものが目の前に迫り。次の瞬間、激痛と共に私は家の外へ吹き飛ばされていた。
痛い、と感じた、つかの間。頭上に父親だったものの腕、鎌と呼ぶほうがふさわしいものが振り上げられており。
そういえば買ったCD聴いてない、なんて現実とかけ離れたことを考え。鎌が振り下ろされるのを茫然と見――
吹き飛ばされる父親だったもの。家から出てきていた母親だったもの。蜂の巣にされ倒れる。立ち上がる父親だったもの。
「死にさらせェ!」
赤い服を着た少女が切り捨てる。
「大丈夫ですか?」
青い服の少女が私に話しかける。
茫然とする私。
「すぐ終わりますからね。」
そうして父親だったものは体中を撃ち抜かれ、首を落とされた。
茫然としながら倒れた父親だったものを見続け。その体からなにかが私の前まで転がり、私は何を思ったかそれを拾い上げ、
「……おい、それを寄越せ。」
赤い少女に取り上げられてしまった。
「怪我をしてますね。病院へ搬送します。」
あれよあれよと担架に載せられ、車に乗せられる。そこで私は意識を失った。
目を覚ましたら、知らない天井だった。
ここはどこだろうか。病院であることは確実だが。とりあえずナースコール。
「目が覚めましたか。」
「……誰。」
「私は自衛隊の三吉三佐と申します。」
三吉三佐。なんか胡散臭い。
「まあ、私のことはおぼえなくとも結構です。それより、聞きたいことがあるでしょう。」
「ここは?」
「自衛隊基地内の病院です。貴女はここに搬送されましてね。」
「なぜ自衛隊?」
「貴女、紫色した石、触ったでしょう?あれ、エネミーから出てきたものですので何が起こるかわからないんですよ。ですから、万が一のためにここへ。」
「……。」
「結果は私には知らされておりません、ええ。のちほど誰かが来るでしょう。他に聞きたいことは?」
「……家は。」
「家は半壊。貴女の両親は消息不明です。」
「消息不明……。」
「ですが、貴女は知っているでしょう?エネミーは人から変化すると。ええ、貴女の両親はエネミーとなり魔法少女に殺されました。」
「むごい事しますよねえ。素は人間、一般市民ですよ?それを躊躇することなく惨殺するなんて、酷いですよねえ。」
「……うるさい。」
「これは失礼。他に聞きたいことは?」
「……。」
「なさそうですね、では私はこれにて。」
なにしに来たんだ、こいつは。私を苛立たせにきたのか。
「ああそうそう。」
部屋を出る前に忘れていたように一言。
「貴女もエネミーの破壊活動に巻き込まれて死亡、ってことになっているようですよ。」
「……え。」
そういい残し部屋を出て行った。
どういうことだ。私はここにいる、のだけど。
……わからない。
しばらく考え込んでいると、ノックが聞こえた。
「どうぞ。」
「昼食の時間です。」
ご飯。そういえばなにも食べていない事に気付く。
「食べ終わりましたら、ナースコールを。」
そう言い、退出していった。……とりあえずご飯食べよう。
ご飯は美味しかった。食器を下げてもらい、お手洗いへ。部屋に戻ったら、誰かが部屋の前に。
「どちら様で。」
「……この部屋にいるのは君かね。」
「はい。」
白衣を着た、髪に白髪の雑じるメガネの初老の男。シブい。
「君に話がある。中に入れてもらえんかね。」
「……どうぞ。」
眼光が鋭い。男は椅子へ、私はベッドへ。
「私は魔法少女とエネミーの研究をしているシタマ、という者だ。博士と呼ぶといい。」
シタマさん。
「単刀直入に言う。このままいくと君はエネミーに変化する。」
「んなっ……。」
「話を最後まで聞くといい。……君はこのままだとエネミーになる。だが私はそれを回避できるかもしれない方法を知っている。しかしこれは危険が伴うものであり、死ぬ可能性も高い。」
「そんな方法があるのですか。」
「冷静な者は好感を持てる。……私が研究しているこれの被験者を探していてね。君は紫の石を……ネクロオーブを手に取り、エネミーに変化するまで多少時間がある。君ならば成功する可能性が高いのだよ。」
「……ようは人体実験、ですね。それを行い成功した場合、どうなるのですか。」
「成功から聞くか、珍しい。……エネミーにような異形にならない。これに尽きる。また魔法少女のような力を得る。」
「人には、戻れないのですか。」
「そうだ。現時点の君、ですら人とは言えないかもしれない。すでに人には戻れない。」
「そう……ですか。失敗した場合は。」
「あまり驚かんのか。……失敗した場合、エネミーとなるか、死ぬかのどちらかだ。」
「……。成功した場合の魔法少女のような力を得る、とは。」
「ふむ。……成功した場合、魔法少女のように戦いに駆り出される可能性が高い。最も、それに耐えうる力と耐久力は得られるはずだ。能力についてはわからない。」
「……このままエネミーになって死ぬか、その実験に命かけて、魔法少女になって戦うか、ってことかぁ……。」
「概ねその認識で間違っていない。どうかね。考える時間は与えたいが、残る時間は少ない。」
「…………わかりました。その実験、受けます。」
「いいのかね?」
「ええ。死ぬか生きるかだったら生きる方にいきたいじゃないですか。」
「いいだろう。では荷物を纏めてくれ。」
「今からですか。」
「言っただろう、時間は少ないと。……そうだな、着替え等もあるだろう、用意ができたら呼んでくれ。部屋の外で待っている。」
そう言い彼は部屋の外へ。
荷物と言っても、洗濯されている制服と下着、ハンカチのみ。あの夜に搬送されたとき身に着けていた物しかない。家にあったものはどうなったのか。制服に着替え、病院着は畳んでベッドの上へ。手櫛で軽く整え、部屋を出る。彼は手すりに寄りかかり待っていた。
「来たか。では行くぞ。」
病院を出る。一階には三吉三佐がいた。
「ええ、三吉です。貴女なら来ると思っておりましたとも。ええ。」
胡散臭い笑みを湛えそう言ってくる。
「行くぞ。」
黒塗りの高級車。
三吉三佐が運転、シタマさんと私が後ろへ乗り込み、病院を出発、そのまま基地を出た。
車は基地を出てから郊外へ。山奥へと入っていく。
「シタマさん、どこまで行くんですか。」
「もう少しで着く筈だ。あと私のことは博士でいい。」
博士、ね。
研究所は山奥にあった。エレベーターに乗り、地下へ。
「さて、さっそくだが君には内容を話しておく。」
「はい。」
「この実験は君にコアを埋め込み、身体をナノマシンへと置き換え制御する。ナノマシンは魔法少女の体に使われているものを改良した物と身体を構築するものの二つだ。」
「魔法少女はナノマシンをつかっているのですか。」
「ああ。魔法少女の力を観測するためのものが魔法少女に入れられている。これを改良したものと、魔法少女を構築する身体を再現するためのナノマシンを君に使う。これをコアにより制御することで人工的に魔法少女を造りだす、という研究をしている。」
「人工魔法少女……。」
「コアについてだが、これは……実際に見てもらった方が早い。」
エレベーターは地下50メートルで着いた。長い廊下を進み、奥の部屋へ。
「ご苦労、三吉君は下がってくれ。」
「ええ、私も仕事がございますので。ではでは。」
やっぱり胡散臭い。
「彼は護衛だったのだよ。ああみえてかなりできる奴だ。胡散臭いがな。」
博士も胡散臭いって思ってるんですね。
部屋に入ると、かなり大きな試験管が目にはいる。人も余裕で入る位の。
「もしかして。」
「もしかしなくてもこの中に入ってもらう。安心しろ、入るのはコアを入れた後、意識のない状態だ。」
そうではなく。……まあいいです。
「さて、コアについてだが。」
そう言うと奥にある、隣の部屋が見える窓に手招きされた。
「これを君に入れる。」
「これって……。」
こぶし大より一回り小さい、紫の珠。
「ネクロオーブ、という。君が触れたものと同じものを複数集め扱えるように加工、形成したものだ。これはかなりの情報を処理する力がある。これを使うことで、ナノマシンで人体情報だけでなく異能を処理、扱うことができるわけだ。」
「……そうですか。」
「これからこれを君に入れ、人工魔法少女として形を変えることになる。覚悟はいいか?」
「……ここまできて覚悟もなにもありませんよ。」
「上出来だ。ではそこの部屋で手術着に着替えてくれ。」
手術着に着替えた。正直ここに来るまでが短すぎてあまり実感はない。だがエネミーになって討伐されるよりかはマシ。両親だったものの最後を思い浮かべると泣きそうになる。生きるためにはこれしかないんだと堪え、手術台へ。
「ではこれよりコア挿入手術前準備を行う。」
沢山の医者と思しき者たち。上の窓から見下ろすは、博士と研究者と思しき者たち。
「君に今から麻酔をかける。目覚めたら、全てが終わった後だ。安心して眠るといい。」
執刀医が私に話しかける。頷き、その時を待つ。
ゆっくりと眠くなってきた。これが私の見る最後の景色か。
意識が朦朧とする。抗わず瞼を閉じ、落ちていく意識に平和な景色を思い出す。
さようなら、平穏な日常。
目を覚ますと、知らない天井、ではなかった。
目を擦り、視界が明瞭になると周りを見渡す。下には博士と多数の研究員。ガラスを隔てて目が合う。それを泡が遮る。
……泡?
自分の状況を確認する。縦長の水槽に浮く身体。いや、これは試験管か。ここに来た時の話を思い出す。身体を確認する。体中に電極と思しきものを張りつけた一糸纏わぬ身体。少々サイズが大きくなっている気がする。コアを埋め込んだ左胸、真ん中近くからうっすらと回路のような模様が走っている。手足は記憶にある私より長く、そして細くありながら筋肉のついた美しい肢体。目の前にあるガラスに映る姿は私の面影を残しつつ、美しくなっている。
「これが私、か。」
どうやら、実験は成功らしい。
「おはよう。私を覚えているかね?」
「ええ、博士。おはようございます。美しい私の身体、どうですか?」
「ああ、変わったな。」
……冗談はスルーされた。
「君が眠っている間、コアに各種戦闘や武装、その他様々な情報や知識を入れた。確認はできるかね。」
「やり方は。」
「…………国防省長官の頭は」
「植毛に耐えられなかった残念なカツラ。……どんな情報いれてるんですか。」
隣にいる研究員、爆笑してるよ。あいつか。……他の情報も思い出すように出てきた。どんなキーだ。
「……では君をそこから出す。情報を整理しつつしばし待て。」
ゆっくり試験管内の水位が下がっていく。
私は脳内の情報を整理していく。……戦闘に役立つ情報が多い。たまに変なのも雑じっているが。なんだ、このUFOの種類ってのは。全部UFOじゃだめなのか。ハウニヴーじゃだめなのか。つーか誰の趣味だ。
試験管の底に足が着く。顔が水から出ると、咳き込む。肺にある水を出しきる。電極と思しきものをはがし、耐圧の扉から出るとバスタオルが被せられる。数人で体を拭かれ、バスローブを着せられる。うん。普通に歩ける。違和感はない。
「さて、実験成功おめでとう、N-07。早速だが各種データを取らせてもらう。」
どうやら私はN-07という名前らしい。
「ああ、これは初成功したネクロオーブコア挿入実験の7番目の被検体、ということだ。」
「なるほど。初成功。」
「……ああ。」
おい。……成功したんだしまあいいですが。
その後数日かけて色々なデータを取られた。組手、サンドバッグに色々。延々と走らされたり、懸垂したり。握力測定、走り幅跳び。身体測定かな?ちなみにご飯は普通に食べられました。食べる量は多くなったけど。そして排泄がない。全部エネルギーに変わってるみたい。
「うむ、いいだろう。身体能力はかなりのものだな。」
重りを着けられて、息切れまで全速力で走れ、と言われて三時間ぐらい走り続けたのは大変でした。
「さて、君には武装をつけてもらう。実験前に、君には戦闘も行ってもらうかもしれないと伝えた。それについてだが、上はやはり君を戦闘へ出すつもりのようだ。」
ですよね。これだけ強い身体なら戦闘に回したくもなる。
「わかってます。これだけお膳立てされて出ない道理はないとおもいますが。」
「なら、いい。ではついてこい。」
案内された場所へ行くと、白と紫で彩られた武装があった。
「こいつがN-07専用の武装だ。まずは認証するために着けてもらう。」
武装の真ん中へ立つと、背中の部分が当たる。
「認証を開始。」
……なんかピリピリする。
「認証完了。」
するとこの武装の使い方が思い出すようにしてわかった。これコアに入ってたのね。
「使い方はわかったな?」
「ええ。ばっちりです。」
頭には黒に紫の線が入ったゴーグル。肩と腰、ふくらはぎと足裏にあるブースタ。背中から腰に背骨状のフレーム、腰から生えた背骨のような外骨格をした尻尾。その先端には三つに分かれる顎が付き、これでエネミーを喰いちぎる。右腕に銃身の短いガトリング、左腕に銃身を詰めた砲。これは様々な弾種を撃てる。スカートは腰の左右に付き、三段構造。一番内側にブレードが二本収納されている。腰の支点から回転するようにスライドすると展開。展開した表面から小型ミサイル。それらの武装は紫色した粒子……ナノマシンで構成され、弾薬は放つ瞬間に構成される。これら武装の各所には07の数字が刻まれている。……ねえ、これ魔法少女の武装ではない気がする。どっちかっていうとロボットアニメだよねこれ。
「……製作した者の趣味が入っていることは否めないが、これであらゆる状況に対応できる、筈だ。」
筈か。……まあ、想定外は起こりうるからね。
「さて、早速で悪いが、武装のデータを取るため実戦に出てもらう。」
「いよいよ実戦ですか。」
「ああ。君の所属は自衛隊の特殊能力治安維持集団、独立特殊戦闘部隊という所に所属となる。要は魔法少女のために作られた集団の中で、独立した指揮の隊だということだな。これも魔法少女のために作られたものだ。指揮は国防省直轄で、任務もそこから発注される。給料もかなり出る。君は高給取りというわけだ。」
「……いくらくらいで。」
「魔法少女が基本給25万。出撃で75万。君はそれに研究補助の手当がつくから基本給と出撃に10万がプラスされる。」
「うわぁ……。」
月一回出撃するだけで年収1400万超え。もっと出撃すればさらにドン。
「また、君には後見人が付き、戸籍が新しく作られる。死亡扱いになっていたからな。」
「新しい戸籍ですか。」
「ああ。後見人は私と国防省の人間。名前は紫珠ナナだ。」
紫珠ナナ。それが私の新しい名前。
「N-07 紫珠ナナ、それが君の正式名称となる。尤も、全部言われることはないだろうが。」
「わかりました。N-07 紫珠ナナ、ですね。」
「よろしい。……では、任務だ。用意しろ。」
「戦闘着はこれになる。着たらコアに登録しろ。変身、するとその戦闘着に変更できるようになる。解除すると元の服装に戻るから心配するな。」
渡された服を着る。
上半身を黒く身体のラインが出るインナーで包み、ブラウスを着てウインザーノットでタイを締める。その上に白い生地に黒のアクセントがついた長袖のスーツを着る。下半身は黒のサイハイ、白と黒、トップスと揃いの膝上プリーツスカート。黒の軍靴を履く。黒縁の白い軍帽を被り、紐で留める。髪は前髪をピンでとめ、紫が入った黒のロング。完成。……これ誰の趣味だ。軍服風のコスか。……鏡で確認、よし。では登録。
「博士、用意ができました。」
博士は一通りチェックした後、頷いた。……これまさか博士の趣味じゃないですよね?
「では武装を着けろ。武装も登録しておけ。」
武装を着け、登録。これで完全装備の魔法少女か。
「よし。では外へ出るぞ。」
大型エレベーターで地上へ。出ると双発の大型ヘリとフルフェイスで顔を隠した部隊、あと三吉三佐がいた。
「基本的にこのメンバーが貴女の部隊です。基本的に戦闘は貴女が行い、彼らはバックアップに回ります。私は貴女の担当官になりました。ですのでよろしくお願いしますね?」
「はい。……よろしくお願いします。」
一斉に敬礼を返された。……頼りになりそう。そして三佐は胡散臭い。
「では行って来い。いいデータを持ち帰ってくれよ。」
「わかりました。では行ってきます、博士。」
ヘリに乗り込み、出撃。
「今回の任務は市街地に出現したエネミーの殲滅です。ターゲットは一体、反応からコア有りのタイプと推測されます。現場では少々民間人に被害が出ているようです。人の多い所ですからね。すでに警官が包囲しておりますが攻撃は効いていないようですね。まあ警官の装備では無理でしょう、ええ。テレビカメラが現場にいるようですがそれはいつものことですね。生放送でもするんでしょう。また魔法少女が一人戦闘中ですが、まあ無理でしょう。火力と技術が足りないでしょうね。大抵死ぬでしょう。私共としても人材が惜しいですので、どうぞ横からかっさらってください。ああ失敬、上からですね。」
「上から?」
「ヘリのハッチを開けますので、降下してください。」
「……了解。」
「さてそろそろ作戦区域上空です。降下後すぐ戦闘に入りますので準備を。」
武装はOK。降下シュミレート、OK。戦闘、いつでもOK。後部ハッチが開く。
「作戦区域上空です。降下してください。」
下には市街地が。案外高いな。エネミーを捕捉。
「了解。……出る。」
「ご武運を。」
気合いを入れ、降下。重力に逆らわず落ちる。ブースターで体制を整え、勢いよく着地。ズドンとでかい音と共にアスファルトが割れて土煙が出て何にも見えない。……速過ぎたか。
「な、なんだ!?」
「なに……?」
……驚く音、戦闘が止まった音がする。……登場演出として考えよう、うん。
ゴーグル起動。横に一閃、紫の光が走る。外から見たらこの線だけ光ってるんだろうな。さあ、戦闘開始。
煙を払い、視界をクリアに。エネミーはは止まっている。
「魔法少女……?!」
「え?どういうことよ!申請はまだ……!」
警官が驚くのはいいけど。そこの魔法少女はなにを驚いているのか。エネミーが動き出した。
「殲滅開始。」
ガトリングを撃つ。動き始めたばかりのエネミーはよけられない。甲高い咆哮を響かせ、死の雨を降らせる。
蜂の巣。だがまだ生きている。
砲を起動。弾種、燃焼。
「焼却する。」
撃つ。命中した弾ははじけ、エネミーを燃料に燃え始める。
「GYAHHHHHH!!」
「ああ、五月蠅い。」
スカート展開。ミサイル形成。狙うはエネミーの下。
「発射。」
ミサイルの爆発でエネミーを上に打ち上げる。
弾種変更。魔法レーザー。構え、充填。
「消え失せろ。」
発射。紫の閃光が敵を飲み込む。エネミーの影は消えていった。
「良し。消滅確認。」
あっけない。……初陣としては上出来かな?
「つ、つええ……。」
「あんな魔法少女、いたか?」
さて、帰るか。
「ま、待ちなさい!」
……魔法少女がなにか用ですか。
「貴女何者よ!オペレーターが魔法少女の反応じゃない、って……。未確認、アンノウンだなんて!」
アンノウンですか。説明乙、ってやつですね。
「答えなさい!」
答えるべき?
『答える必要はないですよ、ナナさん。』
……通信。三佐か。アンノウンってなに。
『人工魔法少女の反応は魔法少女とは少々違うようでして。気にしなくて良いかと。』
そういうことね。
『さて、その魔法少女はガン無視して離脱してください。作戦領域外の空中に我々のヘリがいますので、そこに帰投してください。』
『了解。』
さっさと帰ろう。ブースターと跳躍で離脱。
「あっ、この、待ちなさい!」
なんか喚いてたけど、無視。
ヘリに到着。
「お疲れ様です。まずは初陣おめでとうございます。無慈悲なまでにエネミーを殺し、魔法少女も無視するその冷徹さ、痺れますねぇ!」
無視したのはそっちの指示だろう……ま、めんどくさそうだったからいいけど。
「それにあの魔法少女、アンノウンって明言しちゃうなんて。いやあ面白くなってきましたね!今頃コールセンターがてんやわんやですかねぇ!」
……そうかい。
「それにあの登場、狙いましたね?インパクト絶大ですよ!あれ今後もやりましょう!」
狙ってはない。ていうかなに、三佐なんでそんなに興奮してるのさ。
「ロマンですよ!いやあ、貴女の担当についてよかった!」
……胡散臭いと思ってたけど案外面白い奴なのな、三吉三佐。
「……とりあえず帰りますよ。」
「今日のニュースを見るのが楽しみですねえ!」
おちつけ。
「帰投しました。」
「お帰り。上出来だったようだな。」
研究所に帰るときにはさすがに三佐も胡散臭い笑みを取り戻して、着いたらでは報告がありますので、と去っていった。
「これから数日に一回ほどの間隔で任務が来るだろう。よく休息を取って備えるように。」
「ありがとうございます。」
「では解散。」
データはバックアップメンバーが渡していた。やることないし、汗流して休みますか。
その日の夜は、よく眠れた。
それから何度か任務をこなし、戦闘にも慣れた。エネミーはコア有りを中心に雑魚を連れてる事が多いみたい。一体だけってあまりないから初陣でのあれはかなり運がよかったのかもね。
大量の弾丸でエネミーを侵し尽くす。辺りを見渡し、近くに倒れたエネミーに尻尾を突き刺す。私のコアがエネミーと同じネクロオーブだからか、エネルギーを食えるみたい。……作戦区域内にエネミーの反応は……。
『作戦区域に近付く新たな反応。エネミー多数、コア有り1とコア無し30。また魔法少女の反応が一つ。』
突然発生した感じじゃあなさそうですね。
『動きを見るに、魔法少女は離脱しようとしているようですね。手負いかもしれません。それに囲まれています。』
ああ、敵わなくて逃げようとした、けど集団でめっちゃ追いかけてきたと。
『どうしようか。』
『私共としては人材が減るのは痛手です。』
『……本音は?』
『ここで乱入したらかっこよくないですか?』
なるほど。
『……乱入するならお早めに。先程手負いと言いましたが、ヘリから観測しましたところ……あの魔法少女、死にかけです。間に合わないかもしれません。』
『……了解。』
見殺しにするのも寝覚めが悪い。ブースター起動、跳躍。そのまま高度を上げ、ミサイルを形成しておく。いた。あの魔法少女、遠距離型かな。
『確認した。……チッ、周りに人が多いな。』
『先程の戦闘であぶれた一般人もあわさって人が多くなっているようです。』
『さっさと殲滅しないとヤバいか。』
『ええ。』
ならば。
「スカート最大展開。ミサイル変更、噴進から落下へ。砲、弾種変更、燃焼。ガトリング再装填、完了。」
魔法少女は少し離れた壁に崩れ落ちている。吹っ飛ばされたか。……一般人は、よし。少し離れた。ビルの上にテレビカメラ発見。あそこなら別にいいか。……なら遠慮はいらない、さあ踊れ。
「フルファイア!」
上空から敵の真上に移動し、ぶちまける。気分は爆撃機。旋回しながら、飛べないアリ共が踊る様を見る。
が、様子がおかしい。
「……チッ!」
ミサイルの爆撃は多少効いているが、ガトリングが効いていない。燃焼弾は、微妙。
「……弾種変更、散弾。」
一旦離れ、助走をつけて高速で接近する。接射。……吹っ飛ばされただけか。
『三吉、どうやら弾が効かないようだ。』
『……道理で。あの魔法少女を照合しましたが、弾を撃つタイプの遠距離型ですね。なかなか出来る者だったみたいですが。』
『そうか。』
『それにしてもどうなってるんでしょうか。……防弾チョッキみたいな装甲なんですかね?』
ふむ。
『斬ってみるか。』
ガトリング、砲を停止、パージ。収納。スカート展開解除。ブレードを二本抜き、両手に構える。
「征く!」
降下。敵の真ん中に浮き、ブースターの推進力そのままに回転、撫で斬る。
……斬れた。
『いけるみたいだ。』
『……まさかいけるとは。』
ブースターを使い敵の中を潜りながら斬り伏せる。噴き出たエネミーの体液が身体にかかる。ハハ、なんか楽しくなってきた。
右を斬り伏せ、左を二等分する。その回転を利用し、後ろを輪切りに。そのまま回転、尻尾で喰らう。さあ次は何処か!
『エネミー残数3、一つはコア有りです。』
コア有りはコアを壊さないと死なないんだよな。
「っふふ。」
残る二体を斬り捨て、コア有りを捕捉する。……うん?
私を見ながら、後ろ向きにゆっくり離れ……うはは。
「っはは、こいつ私を見て怯えてるのか!」
ヤバい、笑みが隠せない。口角が上がる。弓形に曲がる。愉悦!
「最期に面白いものを見せてくれるとは!」
楽しめたお礼をしないとね。
「褒美だ、受け取れ。」
三十秒クッキング、ブレードを二本用意。思うがままに切り刻んだら、エネミーのバラバラ死体の出来上がり。三十秒もかかりませんでしたね。
「ふう。殲滅確認、と。」
『お疲れ様です。……斬り始めてから、キャラ変わってません?』
『……そんなことは、ない、はず。』
テンション上がってたのは間違いないけど。
『報告案件ですね……。魔法少女の確認をお願いします。』
そうだった。魔法少女の元へ。
「生きてる?」
片足がない。腰が抉れている。……血、かなり出て地面にたまってる。これは、だめか。手を掴む。
「だ、れ……。」
「……。」
「さむ……い……。」
「……そうか。」
焦点が合ってない。声はか細い。
「ねえ……。」
「なんだ。」
「てき、は?」
「全部倒した。」
「よか……っ。」
「……おい。」
ゆっくりと、なにかに伸ばされた手は、力を失い
「おい!」
返事はない。変身が解除される。……同じくらいの年齢の少女だったもの。
開かれたままの瞼を閉じる。
目を閉じ、頭を垂れ、祈りをささげる。
『……反応消失、ですか。』
『ああ。……魔法少女の死亡を確認。』
『回収班がもうすぐ着くかと。』
『わかった。』
警察が到着し、現場を封鎖し始めた。ようやくか。警官が一人近付いてきたがどうしようか。
「お、お疲れ様です、ゼロセブン殿!」
……ゼロセブン。
『武装に07と書いてありますからねえ……。』
なんか惜しい気がしないでもない。
「こちらの少女は……」
「……魔法少女だった者だ。回収の者が来る。丁重に扱え。」
「……は。」
しばらくして、回収班が到着。袋に入れられた少女だったものは、声もなく運ばれていった。
「……帰るか。」
『ええ。ヘリでお待ちしております。』
ヘリに帰投、そのまま揺られる。
「……ねえ、三吉。」
「なんでしょう。」
「エネミーに向かう前にあの子を助けてたら、あの子は生きてたのかな。」
「…………いえ。あの魔法少女は狙われておりました。そのため、どちらにせよエネミーと戦わざるを得ない、また戦闘が長引き民間人に被害が出る可能性もありました。殲滅を優先したのは正解と呼べる判断でした。」
「……そう。」
三吉の胡散臭い笑みも、今日はなんだか弱かった。
あれから数か月。いつも通りエネミーと戦う日々。何度か魔法少女を看取ることもあった。最期の頼みだと、介錯することもあった。
そんな、なんてことはない、ただの日常。
「ナナさん。聞きました?」
「なに、三吉。」
任務に向かうヘリの中、三吉とお喋りに興じる。
「ナナさん、もといゼロセブン。なんかネットを中心に人気らしいですよ?」
「まじか。」
「マジです。なんでもダークヒーローがどうとか、魔法少女を看取る孤高の死神だとか言われてますね。」
「それ悪評の間違いじゃないの。」
「いえ、人気なんです。」
どういうことなの。
「……まあ、なんでこんな話をしたかなんですけど。」
「うん。」
「今日の任務、内容が知らされていないわけですよね。」
「うん。というかいつも通りヘリで聞いてるわけだけど。」
「ええ、まあそうなんですが……。」
「で、なに、今日はちがうの。」
「ええ。……今日の任務は魔法少女の討伐です。」
「……は?」
「ええ、驚きますよね。ですが、事実です。今日の任務は魔法少女の討伐です。正確に言えば、交戦中のエネミー一体と魔法少女一体の討伐です。ターゲットがエネミーと交戦している所に乱入、その両方を討伐せよという命令です。なお、エネミーはターゲットが討伐しても問題はありません。」
「……その魔法少女は。」
「近接型です。悪評が酷く、犯罪行為を行いながらも金と、その実力も相まって見逃されている、とかいうクソッタレですね。先日とうとう魔法少女を殺害したため、排除が決まりました。」
「……そう。」
「気が進まないかもしれませんが、任務です。ええ。対魔法少女戦闘のデータ収集も兼ねております。ええ。」
「……わかった。」
……しょうがない、か。
「そろそろ作戦区域です。予想では到着と同時にターゲット同士の戦闘が始まります。」
「了解。」
意識を切り替える。
「作戦区域上空です。作戦を開始してください。」
了解。
「はー……。よし。出る。」
「ご武運を。」
ヘリから飛び降りる。全武装起動。やるからには、全力で、
「アンブッシュといこうか。……フルファイア。」
殺る。
エネミーごと消し飛ばす。
エネミーはコア有りか。両方共健在。
砲、弾種変更、散弾。
「ッチ!どこ見て撃ってやがんだ!」
よけられたか。
ガトリングでエネミーを蜂の巣にする。
「ゼロセブンかよ……そいつは俺の獲物だ、邪魔すんな!」
魔法少女がエネミーをコアごと両断する。エネミーの反応消失。
「見事。」
「ハッ、よええ。あんたの出る幕はなかったようだな?にしても俺ごと攻撃とかやってくれるじゃねえか。」
「いや、まだ任務は終わってない。」
「あん?まだどっかにいんのか?」
「……ああ。私の目の前にな。」
「は?」
反応される前に尻尾を叩きつける。
「ガフッ……!てめえ、まさか、ああクソ!」
ガトリング掃射。さすがに避けられるか。
「簡単な任務っつーので嫌な予感はしてたんだが……クソが!」
「騙すようで悪いが、任務だ。死んでもらおう。」
ミサイルをぶちまけ、ガトリングで狙う。
「射撃なんざ、あたんねえよオラァ!」
強い。接近された。
「てめえが死ねやァ!」
「ッチ!」
鋭い剣閃、連続で放たれる嵐。ガトリングで受け止め、ブレードを一つ抜く。一閃。
「ハッ!あたんねえよ!」
「そうか?」
至近距離で散弾を放つ。
「ッツ……!」
ミサイルで追撃。
「クソが……!」
立て直しも速いか。
再度接近してくる。ミサイルと散弾で牽制するが、失敗。ブレードで受け、散弾を撃つ。
「その手には乗らねえよ!」
避けッ……!
「その顔、拝ませてもらおうか!」
「グ……!」
柄で殴られ、吹っ飛ばされる。ゴーグル損傷。機能不全、視界不良。
殴られた衝撃で体がふらつくも、たちあがる。その拍子にゴーグルが落脱する。
「へぇ……。美人じゃねーの。」
「……。」
お前に褒められてもうれしくない。というか、ゴーグルが外れて見えたのは、ニヤつくターゲットと囲む警官、その後ろで興奮して私を撮るカメラマン。
つーか、こいつ余裕で待ってやがる。
……あー、なんか、うん。
ブレードをもう一つ抜き、二本に。
「はぁーーーーー…………。」
「あん?」
OK、OK。
殺す。
「ガトリング、砲、スカート、パージ。」
ガコンと、重い音をたて落ちる。
「フー……。」
ナノマシンを全身に回す。口角が吊り上る。歯を見せ嗤う。
「ッチ、殺る気か、てめェッ……!」
突っ込んでくるターゲット。もう遅い。
「ハッハ!」
一歩踏み出し、振り上げた剣、身体を蹴り飛ばす。
「くそッ……!」
ああ、おさえられない。コアが脈動し、身体を紫の光が走る。前傾姿勢になり、尻尾を地面に叩きつけ、堪えたものを解き放つように。
吼える。
「GRAAAAAHHHHHHHHH!!!」
「おい、てめ、まさか、」
固まった獲物、その前に跳躍。両手に持つ爪を振り下ろす。
獲物は反応に遅れるも、剣で受ける。
「クソッ……!なんなんだお前はッ……!」
「答える義理は。」
股下から尻尾を通し、獲物の後ろへ。
「無イ。」
後ろから胸を貫く。血が大量にかかる。
「ガぼッ……。」
力の弱まったところを、尻尾を抜きつつ爪で剣ごと二閃。
「マジ、が……グバッ……。」
崩れ落ちる獲物。
「それじゃ、さようならぁ。」
尻尾の顎を開き、獲物の頭へ。
「ガフ、ゴボッ……はは、は、この俺が……は」
「頂きまぁス。」
グシャリ。
変身が解除され、頭のない男に。っふは。ああ。
空へ向け、吼える。
「GRUAHHHHHHHHHH!!!」
ごちそうさまでした。
ブレードを収め、パージしたままの武装と壊れたゴーグルを収納する。ブースターはついてるし、帰れる。そういえば通信機もゴーグルについてたんだったな。あー、まあそこらへんにいるだろう。
……それにしても、もう後処理してもいいくらいなんだが。警官はいたよな。辺りを見渡す。
「う、動くな!」
……うん?
警官が私に銃を向ける。そしてその隣から武器を構えた魔法少女。
「あなた、魔法少女を殺すなんて……それにあなた、何者なの……!答えなさい、ゼロセブン!」
説明乙。そして答える義理もない。けどちょっとだけ。
「……エネミーか、そうではないか。お前はどっちだ?」
「なっ……その人は魔法少女よ!?エネミーではないじゃない!」
理解が早いのやら遅いのやら。
「こいつは魔法少女ではなく、エネミーとなったモノだ。それで、お前は?」
エネミー、敵って意味で使うと面白いね?
「私は、エネミーではないわ……!そういうあなたはどうなのよ!それに、エネミーになったって……」
そろそろ面倒になってきた。ヘリの音が近付いてくる。そっちを見ると、私の帰投するヘリ。ブースト起動。
「答えなさい!」
「さあて、ね?」
さ、撤収。ヘリが真上にきた瞬間に飛び、すぐさま乗り込む。
「回収した!全速離脱!」
「三吉。」
「話は後です。」
しばらく全速で飛ぶ。
「振り切りました。これで大丈夫でしょう。」
「追っ手?」
「ええ、マスコミ的な。」
なるほど。
「とりあえず、おかえりなさい。作戦成功です。それにしても、途中で通信がつながらなくなりますし、冷や冷やしましたよ。ええ。」
「ゴーグルが壊れてね。」
「ああ、そういうことですか……。改善案件ですね。」
「そうだね。」
「それと。その後起こった事態ですが……これについては用解析です。各種観測計器が異常数値を叩きだし、反応がエネミーに近くなっておりました。何があったのですか?」
……うーん。言葉にしづらい。
「なんていうか……」
「なんです?」
「獲物ぶっ殺すマンになってた。」
私はウーマンだけど。
「……殺意の波動に飲まれた感じで?」
「そうそうそんな感じ。」
よくわかったな。
「そうですか……わかりました。」
いやわかったのかよ。
「ひとまず今日はよく休んでください。……たぶん試験管送りでしょうが。」
「まじかー……。」
「おかえり、ナナ。」
「帰投しました、博士。」
「ああ、おかえり。早速で悪いが、色々と検査と治療を行う。」
「試験管ヤッター……。」
「なに、数日眠るだけだ。さあ、ついてこい。」
どうやら数日が消えるようです。
この後めちゃくちゃ検査した。
「検査の結果だ。」
はい。一週間たってました。
「結果についてだが……君の感情の高ぶり、特に殺意だな。それに対応してあの状態となるようだ。まあ、簡単に言うとコアの暴走だな。」
「暴走……。」
「君の身体はコアの最大出力に耐えられるもの、ナノマシンでできているから、身体に悪影響はあまり出ない。が、何度も起こすと精神が本能に従いやすくなるうえ、エネミーに近づく。」
「……最終的には何になるんですか。」
「魔法少女の形をベースとしたエネミーになるのではないかな。」
OK、気をつけよう。
「それとな、このタイミングというのもなんだが……最後、ヘリがつけられただろう。」
「ええ。三吉達が頑張って振り切ってましたね。」
「ああ。あれなんだが、上がこの研究所が知られるのはあまりよくないといわれてな……。そういうわけで、お前の拠点が変更になる。」
「え……。」
「拠点は都市部の高層マンション、その最上階フロアになる。お前の部屋もそこに移動となる。基本的な検査はそこで行い、ここには要検査となった時たまに来る程度になるわけだ。」
「博士は……。」
「ここに残る。」
「そう、ですか……。」
なんか、気にしてなかったけど、こうなるとかなりさみしい。
「ふむ……そうだな。お前も独り立ちする時期じゃないかと思うのだが。」
「うぅー……。」
私、博士の事、家族みたいに思ってたのかな。
「なに、一か月もしたらお前も慣れるだろう。それまでの辛抱だ。できるだろう?」
……頭撫でられた。
「はい……。」
「よし。なら荷物を纏めるといい。三吉が待っている。行って来い。」
部屋に戻り、荷物を纏める。とはいえ、あまり荷物はない。多数の下着、白衣数着。着る機会なさ過ぎてまともな服が少ししかねえ。それとジャージが二枚、あと捨てられない制服。家具等は増えてないし、本は新しく貰った教科書と漫画が少し。あと雑誌がまあまあある感じ。あ、PCももっていかないと。
研究者に詰めるのと運ぶのを手伝ってもらい、部屋から荷物がなくなる。……はあ。一年もいないけど、この部屋にも世話になったなあ……。
最後の荷物を持って部屋から出て、博士と共に地上へ。
「……お世話になりました。」
「うむ。元気でな。たまに帰ってこい。」
「はい……。」
車に乗り、いざ新拠点。ホームシックにならなきゃいいけど。
新拠点、高級マンションでした。超でかい。ワンフロアを買い取って改造、最上階に研究所、そのすぐ下のフロアも買い取って研究員の暮らす家。私は最上階にあるひっろい部屋です。研究所とはエレベーターと入口が違って、中にある偽装された高セキュリティの扉で繋がってるから私の部屋に客が来ても大丈夫らしい。すげえ。
荷物を開封して、並べる。……やっぱ服買わないと。基本通販で。
……インターホンが鳴った。誰だろう。
「ナナさん、お久しぶりです、三吉です。」
三吉か。
「今開けます。」
たしかここを操作したら開くはず。
しばらく待ったら玄関のチャイムが鳴ったので、出る。
「お邪魔しますね。」
「どーぞ、まだなにもないですけど……。」
「ええ、わかってますとも。ですのでとりあえず必要になりそうな日用品をお持ちしました。」
おお、包丁からゴミ袋、トイレットペーパーから風呂洗剤まで……。
「とっても助かります。ほんと何もなかったですから……。」
三吉、頼りになる。二人で日用品を置くところにおいて、いろいろ確認。
「まだ少し足りませんね……。」
「後でスーパーにでもいくわ。」
「ええ。どうせしばらく任務も無いですし、独り暮らしを満喫してください。」
「任務無いの?」
「ええ。……どうやら上がごたついてるみたいで。ですのでしばらくは何もないのですが……。」
「ですが?」
「……ナナさん、復学しませんか?」
「復学……。」
「ええ。高校二年の途中からですが。転校、という形になります。」
「……。」
「復学したほうがいいと思いますよ?知り合いは増やしておいて損はないです。」
「……任務があったらどうするの?」
「学生の魔法少女も多いですから、そこはこちらで処理しますから大丈夫です。任務の量も減りますが。というか今までの任務量が異常ですし。」
「魔法少女の招待の秘匿は。」
「……あまりばれないようにしてください。ばらしてる人も多いですが。」
いいのかそれで。
「ばれないようにするのは難しいですからね、ええ。なんだったら不良生徒を演じて頂くと処理も楽ですけどね。」
不良生徒って。まあいい。
「……わかった。学校いく。」
「その言い方だと引きこもり……痛いですねえ。」
蹴ってやった。
「で、学校はどこになるの。」
「国公立の高校です。ここから10分ほど歩いたところにありますね。」
近い。
「制服はブレザータイプですね、ええ。進学校ではないですが、学力はまあ、かなりいい所かと。」
「課題とかめんどいんだけど……。」
「ナナさんの学力なら簡単ですよ。研究所で勉強してたんでしょう?」
まあ、してた。周りは研究員、頭いい人ばかりだったし。
「そういうわけですから、大丈夫です。あれですね、容姿端麗、文武両道の転校生ですよ。」
「なにそのラノベ的な……。」
「いいじゃあないですか。きっとモテますよ。」
「めんどくさい……。」
「まあまあそう言わず。明日から学校に行きますので、そういうつもりでお願いします。」
「明日……わかった。」
行くこと前提で話が進んでた訳かい……。
「制服はこちらを。運動着もあります。両方サイズ確認をお願いします。」
受け取って、隣の自室で着替える。……サイズ、バッチリかい。
「サイズばっちりなんだけど……。」
「検査の時に色々と測ってますからね……。ええ、似合ってますよ。」
「……そう。」
「教科書は、明日届きますので。初日はまあ、隣にでも見せてもらってください。」
「だからなにそのラノベみたいな。」
「いいじゃないですか、ロマンですよ。それに隣人と仲良くしておくといいですし。」
「はあ……。」
いいのかそれで……。
「さて、では私はこの辺で失礼しますね。ではまた明日。」
「はーい……。」
荷物整理したらスーパーいくか……。
で、次の日。学校です。
制服を着た私の隣には、三吉がスーツ着て並んでる。お前が保護者役するんかい。
「四親等以上離れた義理の兄、という設定ですね。」
「それほぼ他人じゃないの。」
「そうとも言います。」
私は一身上の都合で一人暮らし、という設定らしい。
校長に挨拶。簡単に説明を受けて、担任を紹介される。若い女の先生。
「では頑張ってくださいね。」
「じゃーね。」
三吉と別れ、教室に。教室の前で待たされます。
「はい、今日は転校生がきました。女の子です。」
……歓声が。なんか懐かしいノリ。
「では入ってー。」
教室に。途端に、また歓声と黄色い、声?
「……紫珠ナナです。よろしく。」
「席はあそこ、一番後ろね。それじゃ座って頂戴。」
席に着く。窓際か……。あと視線すごい感じる……。
「それじゃホームルーム終わるわ。」
途端、席に人だかり。やっべえ逃げられない。質問攻めやべえ。とりあえず一つ一つ答えてく。そんなこんなで休み時間が終了。私一歩も動いてない……。
授業は教科書がないので隣の人に見せてもらう。元気そうな女子。
「教科書見せてくれないかな、まだ持ってなくて。」
「いいよ!あ、私赤木まほ!よろしくね!」
「ええ、よろしく、赤木さん。私は紫珠ナナ。」
「よろしくね、ナナちゃん!」
……ナナちゃんときたか。
「……なら、私はまほさんと呼ばせてもらうわ。」
「やったよ友達第一号は頂いた!」
元気だねえ……。
授業は簡単だった。というかすごいあてられた。全部答えてやった、どうだ。まほさんは頭に?が浮かんでたけど。
その後体育があって、バレーだった。バレーのルールは入ってないなあ、詳しくはわかんない。
「紫珠さん、よろしく!」
私にトスがきたけど、高い。……でも、要は打ってコートに入れればばいいんでしょ?
ジャンプして、打つ。ネットが胸の下まで来る。球はすごい勢いで相手のコートに入った。……ぽかーんとしてる、強すぎたか。
「す、すごいね、バレーやってたの?」
「いや、やってないね。ルールもよくわかんないし。」
「というかジャンプ高いね……。」
高すぎたか……。
そんなこんなでこっちに球が来ることが多くて、アタック量産機してた。
昼休み。まほさんと、近くの女子と机くっつけてご飯。コンビニ弁当ですがなにか。
「コンビニ弁当なんだ……。」
「色々そろってないのよ……。」
「一人暮らしなの?」
「ええ。とはいえ親戚が近くに住んでるけど。」
「いいなー独り暮らし。」
家族で暮らしてる方が羨ましいけどね。
「ならばさみしいご飯のナナちゃんに私の卵焼きを分けて進ぜよう!」
「いいの?」
「どーぞ!」
「でしたら私はハンバーグを一つあげますね。」
「私はトマトを……。」
「あ、ありがとう……。」
色々貰ってしまった。
その後しゃべってたら昼休みが終わりそうに。そんな時、電話が。
「ちょっと失礼するわ。」
「もうすぐ授業始まるからねー。」
「ええ。」
電話相手は、三吉。電話に出ながら、人気のない場所に。
『もしもし。』
『ナナさん、任務です。』
『ないんじゃなかったの?』
『今日はどうも魔法少女が足りてないようで。近くにも魔法少女が居ますが、実力が。一番近いのがナナさんなので、すみませんがよろしくお願いします。』
『わかった。座標を送って。』
『わかりました。また武装のゴーグルにもすでに送っております。』
『了解。』
学校のフェンスを飛び越える。……同じクラスの女子が学校を出たのを確認、作戦区域方面に走っている。あの子、ハンバーグをくれた子だ。たしか名前は如月玲那。ふむ。
『三吉。』
『なんでしょう。』
『魔法少女の可能性が高い者を確認した。』
『……同じ学校のですか。』
『同じクラスの奴。』
『ちょっとお待ちを。…………はい、その学校所属は数人いますが、移動中の者は一人。その中では一番実力が高い者ですね。魔法少女名はフタツキ。遠距離型です。ですが、それでも今回の敵は勝てる可能性は低いかと。』
『強いのか?』
『エネミーは3、二つコア有りです。』
『……そうか。』
『防弾タイプの可能性があります。ですので……。』
『全部斬り捨てればいいんだな。』
『そういうことです。』
『ではいくか。』
変身。
『では通信を切り替えます。』
電話が切れて、武装の通信に。ブースターで飛び、戦闘区域へ。
「……フタツキ、だったか。交戦中だな。」
やっぱり弾が効いてない。彼女の場合は魔法弓だが。ていうか、和服なのな。魔法弓も和弓っぽい。
「まあ、いいか。」
上空からエネミーの後ろに降下。久々の登場は最初と同じように行こうね。
「この登場……まさか。」
土煙を払う。ゴーグルを起動、紫の線を走らせる。
「ゼロ……セブン!」
「このエネミーは弾が効かないようだ。下がっていろ。」
「……っ!」
おとなしく下がったか。良い判断だよ。
「殲滅する。」
ブレードを二本抜き、ブースターで飛び突撃。
「這い蹲れ。」
切り刻む。バラバラの肉片にし、コアを尻尾で喰らう。うん、食後の運動にはいいな。
付近にエネミーの反応はなし。
「殲滅完了。」
ブレードを収める。
「すごい……。」
ふう。とりあえず、忠告しとくか。
「そこの魔法少女。」
「っ……なんでしょう。」
「弾が効かないと感じたらすぐに近接の応援を呼べ。もしくは近接攻撃を会得しろ。じゃないと死ぬぞ。」
「……は、はい。」
「以上。」
さて離脱しよう。
『貴女にしては珍しいですね、教えるなんて。』
『……私も教える時は教える。』
『いつも教える義理はない、とか言ってるじゃないですか。』
……たしかに。
『……目の前で死なれちゃ困るからね。』
それにとりあえず、知り合った人だし。
『まあ、そうですねえ。』
学校の屋上に着陸。
『さて、通信を切るよ。』
『ええ、お疲れ様です。』
変身解除。……授業始まってるんだよなあ。あ、如月さんが学校に戻ってきた。私は……不良生徒でも演じますか。
「ナナちゃん、どこいってたのさ!授業終わっちゃったよ!」
「電話長くなったからそのままサボってたわ。」
「サボリですか……。」
「ええ、屋上で寝てたわ。」
「屋上って……。」
「不良みたいな、って顔に書いてあるわ。」
「なぜばれたし!」
「ふふ……。」
「顔に出てますものね……。」
「うがー!」
おもしろいわこの子。あ、今四人で話してます。口数の少ない、メガネの子がいるんです。昼にトマトくれた子。名前は明山静。名が体を表す感じ。口数少ないけど明るくて、かわいい。
「そういえば授業どんなだったの、如月さん。」
「えっと……。」
「ノートは、これ。」
明山さんが見せてくれた。……三人とも、一瞬焦ってたな。ふむ。
「ふふ、ごめんね。屋上から如月さんが見えたから、つい。いじわるだったかな?」
「あら……。」
また焦った顔。ふむ、どうやらこの二人は如月さんが魔法少女なのを知っている、と。
「家の用事かな。いいとこのお嬢様みたいな雰囲気があるからね、如月さん。」
「そ、そうなんです。」
「玲那の家はおっきいんだよ!なんとかっていう会社やってるんだって!」
「貿易会社だよ……。」
「そうなの、これはこれは失礼しました、お嬢様。」
執事のように礼をしてみたり。
「おお、かっこいい!」
「にあってる……。」
マジかよ。
「すごいですね……。」
次の授業の鐘が鳴った。ごまかせたかな、って顔してる。面白い。
放課後です。
「遊びにいこう!」
「いいよ。」
というわけで四人で遊びに。街を案内してもらったり、カフェに入ったり、色々。途中、買い物にも付き合ってもらった。割愛。
「ごめん、つき合わせちゃって。」
「いいんだよ!」
ほんとありがたい。
「それじゃあ私、そろそろ……。」
「私あっち……。」
「わかった、また明日ね!」
「なら私も。今日はありがとう。」
「はい、また明日。」
「またね。」
「ばいばーい!」
帰宅。
「学校、か。」
とりあえず面白い子たちを確保したからなんとかなるかな。
それから任務もなく、三か月。学校は普通。友達もなんだかんだ増えた。ついでにちょいサボリの生徒っていうのも定着した。テストは満点ですけどね。
あと、告白された回数がヤバイ。回数数えると全校の男子の半分は振ったことになる。エグい。何回もしてくる猛者もいた。なんか百人斬りって称号をつけられた。それ以上斬ったけど。
家は色々揃えて、自炊したりしてる。服も結構増えた。隣の研究所にはちょいちょい顔出してる。任務ないからそんなに検査することもないし。データは毎日取ってて、人に紛れて日常生活がしっかり送れるか、なんてことしてるらしい。
……なんの変哲もない日常。けれど、前とは違う日常。非日常はすぐそばにあることを私は知っている。
最近、玲那……魔法少女フタツキの活動が増えてる。気付かないふりしてるけど、大変だねえ。私は、任務がない。
放課後にエネミーが現れて、急用ができたとか言って戦いに行くこともある。近接攻撃も会得して、少しづつ強くなってる。
……なぜ私に任務が来ないんだろ。
三吉が、上のゴタゴタが酷くなってるとか言ってた。
今日も今日とて、四人で街に。今日は大型ショッピングセンターに来てたり。
「服買ったー!」
「買いましたねー。」
「コーヒーおいしい。」
コーヒーブレイク中。
「にしても最近寒いねー。」
「雪振ってるからね。」
「銀世界、ってやつですね。」
「あったまる……。」
静がコーヒーの事しか言ってないんだが。
コーヒー一杯で駄弁る事一時間。お喋りは楽しいのです。
「キャァーーーーッ!」
そんな平穏を切り裂く、突然の悲鳴。
「何?」
ホールにいるのは、エネミーか。玲那が、行くか、と迷い。こちらをみて、どうしよう、と悩んでいる。
まほと静の二人は、どうしよう、という顔。
はぁ。
「行って来い。」
「……え?」
「気付いてないとでも思ったかな。魔法少女なんだろ、早くしないと被害が増えるよ。」
「……ナナちゃん、いつから。」
「かなり前だよ。それより、早く行きなよ、フタツキ。大丈夫、他言はしないわ。」
「魔法少女名まで……。」
「……ありがとうございます!」
そう言うと変身し、弓を放つ。その直後、向かっていった。
「はあ。さて、私たちは避難と行こうか。ここは邪魔になる。」
「……そ、そうだね。」
「落ち着いてるね……。」
そりゃあ、そうだろうとも。
周りの人と一緒に、避難する。その途中で、三吉に電話。
『どうしました?』
『目の前でエネミーが出た。』
『……そうですか。ですが……。』
『任務外の戦闘は許可できないと?』
『ええ。貴女でなければ許可したのですが……。』
『だが苦戦している。どうやら防弾タイプ、戦闘しているのは遠距離タイプだ。近接攻撃も持ってはいるのだが……。』
『……ですが、変身はダメです。これは上層部の決定です。』
『なら変身しなければいいんだな?』
『生身で戦うつもりですか!?』
『なに、私だよ?問題ない、いいデータが取れそうじゃあないか。』
『……。』
『ふふ、面白いことになりそう。』
『……帰ったら始末書書いてくださいね。それと、無事に帰ってきてください。ご武運を。』
『行ってくる。』
電話を切る。
「まほ、静。」
「どうしたの?」
「先に避難しててくれ。」
「え?」
「どこ行くの。」
「ちょっと花を摘みにね。」
そう言い、駆け出す。
「えっ、ちょっと!」
途中で木の鉢植えを拾い、武器とする。すぐ壊れるだろうけど、しょうがない。壊れたら素手だ。
ホールではフタツキとエネミーが戦っていた。近接戦闘、あれは矢の鏃を長くして、剣のようにしてるのか。うん、まあまあできるじゃないか。だが、斬り方が甘い。
では加勢といこうじゃないか。
エネミーが向こうを向いている隙に接近、鉢を頭に振り落す。鉢が壊れた、脆いか。
「な、ナナさん!?」
エネミーがこちらを振り向きざまに斬ってくる。それを、しゃがんで回避。低空の回し蹴りで蹴り飛ばす。
「加勢だよ、剣二本貸してくれないかな?」
「なにを言って……避難してください!」
「奴さんは許しちゃくれなさそうだけどね?」
立ち上がったエネミーは私を狙ってきた。飛びのき避けて、フタツキのほうへ。
「はやく剣貸して。そんな斬り方じゃ斬れないと思うよ。」
「……貴女は魔法少女なのですか?とりあえず、わかりました。」
剣を二本出して、渡してきた。
「それじゃ、援護するから止めさしてね。」
では突撃。
すれ違いざまにエネミーの脇腹を切り裂く。こちらを向いたら、腹を十字に。そして一旦離脱し、もう一度突撃。フタツキが斬りかかるのに合わせて、後ろから斬る。
「フタツキ!斬った跡を狙い撃て!」
「わかりましたわ!」
フタツキが離れる。私はエネミーに接近し、惹き付ける。
「撃ちます!」
咄嗟に離れ、射線を空ける。そこに魔法矢が放たれ、傷から突き刺さり、そのまま貫き反対側の装甲で止まる。どうやらコアを撃ち抜いたようだ。倒れ、動かなくなった。
「……停止確認、と。」
ふー……。
「ナナさん、大丈夫ですか!」
「なんともないよ。」
手をヒラヒラと振る。
「貴女、魔法少女なんですか?」
「それだったら変身してるでしょ?」
人の形した人工のエネミーに近い魔法少女ですけど。
「なら生身で……危険ですよ!」
「そんなことはわかってるよ。ま、勝てたからいいじゃない。」
「そういう問題じゃ……。」
「あ、剣ありがと。んじゃ、後は任せた!」
「あっちょっと!」
警察とかが来る前に離脱しとかないと面倒なのです。
その後事後処理を警察に任せた玲那が帰ってきた。
「お帰りー。」
「ナナさん。」
はい。
「まずは加勢ありがとうございました。」
「え、ナナちゃん戦ってたの!?」
「うん。」
「ですが、ナナさん。貴女は生身なんですよ。エネミーの攻撃を一撃でも受けたら死にます。」
「うん、知ってる。」
「……なら、なぜ。」
「ふふ。」
「答えてください。」
「あはは、答える義務はない、なんてね!だって楽しいじゃないか!」
「ナナさん!」
「冗談。うん、悪かったよ。苦戦してるのを見てほっとけなくてね。」
「はあ。……ほんと、もうこういうことはやめてくださいね……。」
「はは、次は気をつけるよ。」
疲れたしね。……おっと電話。
「ちょっと失礼。」
三吉か。離れて通話。
『お疲れ様です。状態はどうですか。』
『無傷かな。あと戦ってた魔法少女に怒られた。』
『まあ、そうなりますよね。なにはともあれ、無事でよかったです。』
『ええ。……生身だとちょっと疲れる。』
『そうなのですか。データ上もどうやら負荷が大きいようで。』
『やっぱ武装無いと戦いにくいわ。』
『……ナックルでも持ちますか?』
『いやそこまでは……。』
『ですよね。』
『うん。……そろそろ切る。』
『ええ。……帰ったら始末書よろしくお願いします。』
『……はーい。』
電話終了。
「待たせた。」
「待ちました。」
玲那さんまだ怒ってますか。
「もう怒ってませんわ。」
「悪かったよ、ほんと。」
その後、クレープおごったりして機嫌直してもらった。んで、帰宅。
帰宅早々三吉に始末書書かされた。
それからまたしばらく普通の日常。ちょっと変わったのは、玲那に近接を教え始めた事か。放課後たまに玲那の家で教える。玲那の家はまあ、豪邸。まほと静は何回か来たことがあるみたいいだけど、慣れないらしい。
「何度来てもおっきいよねー。」
「そう簡単に変わらないでしょ……。」
庭で木刀もって、打ち合いしたり。その後皆でお茶したり。まったりした時間。
「なかなか近接は大変です……。」
「接近するから危険だしね。だが防弾タイプも確実にやれる。覚えて損はないよ。」
「ですよねえ……。」
「ま、実戦で試してみるのが一番だけどね。」
ま、がんばれ。
「ナナちゃんなんでそんなに強いのー?」
「……いろいろあるんだよ。」
「秘密ってやつかな。」
「そう、秘密。」
教えたら始末書ものですかね。
「そういえば最近玲那、忙しいよね。」
「はい、最近は魔法少女として呼び出される事も多くて。……どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね。最近強いって有名な魔法少女が動いてるって話聞かないし。」
三吉の言うゴタゴタが関係ある気がする。私に任務がないことも含めて。
「そういやそうだねえー。サボってるんじゃないのかな、ナナちゃんみたいに!」
「……私?」
……表情には出さないが警戒を。バレたか?
「だってよく授業サボってるじゃん!それで成績はいいってどうなってるのさ!」
……ああ、授業か。
「頭良くて運動も玲那に教えるほどできる、ヤバいよね……。」
「小説とかにいる人みたいだよね!」
「ラノベ的な?」
「ラノベ的な。」
ラノベ……。
「……。」
「今度勉強教えてよ!」
「今度ね、うん。」
「絶対だよ!テスト前とか特に!」
「なら勉強会とかやってみましょうか。」
「それいい……ナナの家で。」
「う、うちか……。」
大丈夫かな。
「ダメ?」
「たぶん大丈夫だと思う……考えとく。」
三吉に確認取っておくか。
「大丈夫なら教えてね!」
その後少し喋って、時間的に解散。
帰る途中、三吉に電話してみるも……繋がらない。初めての事だ。
「……どうしたんだろう。」
とりあえずスーパー寄って、帰宅。
帰宅したら、なにやら研究所が騒がしい。
「どうしたの?」
「ああ、よかった!研究所から非常時アラートが来てから連絡が取れないんです!」
「……は?」
なにがあった。
「確認のためヘリで向かいます、念のため変身の用意を!」
「了解。」
急いでヘリに。そのまま研究所へ。何があったんだろうね。
山奥にある研究所。その地上施設には沢山のヘリが。
「なんだ……?」
ヘリを着陸させると、銃を構え警戒しつつ近寄ってくる。
「……こいつら、過激派じゃないですか……?」
入口辺りを見ると、倒れた衛兵と、血の跡。
「……襲撃か。」
「……みたいですね。」
変身。
「なにを!?」
「……ここは私の家だ。荒らされるのは嫌でね。」
「……わかりました。私たちは離脱しておきます。」
「そうして。行ってくる。」
ヘリから飛び出し、囲む奴らを薙ぎ払う。
「行け!」
ヘリが飛び立つ。落とそうとするやつをミサイルで撃つ。
「博士、無事だといいけど。」
エレベーターをぶち抜き、シャフト内を降下する。地下の施設の扉を開けると、そこには。
「……っ!」
研究員の死体。血で濡れた壁、廊下。
「ふざけんな……。」
奥に急ぐ。途中で出てきた敵は撃ち殺す。
奥の部屋、研究の中核の部屋。そこに飛び込む。
「博士!」
「誰だ!」
……敵兵多数。その奥にいるのは、膝をついた三吉と、血まみれで倒れた博士。
「……博士、三吉。」
「お逃げを……。」
は、ふざけんな。
「ゼロセブンだと……!?」
テメエらか。
「……三吉。」
「なんでしょう。」
「こいつらが?」
「……ええ。」
そうか。そうかそうかそうかそうかァ!!!
「全員……」
ブッ殺す。
「死ねやァ!」
ミサイルを散布。
「げ、迎げ……」
「死ね。」
敵を全て壊す、全て全て全て!
ミサイルで肉片、ガトリングで蜂の巣、砲で大穴、ブレードで細切れ、尻尾で喰らい尽くす!
「た、助け……!」
テメエらは肉片がお似合いだ。
部屋の敵を全て倒したら、他の部屋。
「生きて帰れると思うなよ……!」
研究所内を全部殺す。外の敵も全部殺す。壁ごと撃ち抜き、レーザーで消し飛ばす。一つの命も残さない。
「アハ、ハハハハハハ!!!」
全部消したら、博士のいる部屋へ。
「ナナさん……。」
「……博士は。」
「まだ意識がかろうじてありますが……。」
三吉は首を横に振った。
「博士……。」
「ナナ、か……。」
すでに息もか細い。
「ナナ……。」
「はい、ナナです……。」
視界が滲んできた。
「ナナ……。お前は……。魔法少女を……」
「……博士?」
問いかけるも、答えはない。
「博士!」
茫然とする。
「……死亡、確認です……。」
なんで……。
「なんで、博士は……。」
「……上の争いが、こちらにまで回ったそうです。少数の過激派と、大多数の穏便派。過激派の暴走が、原因です。」
「そう……。」
そんなことで……。
「上は今回の襲撃事件で、一掃するそうです。……ここは囮に使われたわけです。」
「なんでここが。」
「この研究が人道に反していると、斬り捨てられた。生命を冒涜している、だそうで。……ふざけるなって話ですよ。ほんと……。」
「……そう。」
ああ、馬鹿馬鹿しい。なんだそれは。なら私は生命を冒涜する者か。
「……ひとまずここを離れましょう。さあ、立って。」
三吉に引きずられるようにして研究所を離脱。マンションへ。事後処理を三吉に頼んで、ベッドへ。そのまま意識を失う。
……博士は、最後何を言おうとしていたんだろう。
あの後、家に引きこもって、沈んでた。学校は、休んだ。涙は、結局少ししか出なかった。
一週間経って三吉が上と話し合った結果を伝えてきた。どうやら私とその部隊は上でも一部の者しか知らず、その者も襲撃されて死んだらしい。博士と三吉は襲撃を予見して、回避しようとしてたみたい。けど、隙を突かれた。
他にもこの事件で指揮系統等が一新されたらしくて、魔法少女が混乱してるとかも聞かされた。
私の部隊はそれから外れて、宙ぶらりんな存在になる。
「ナナさん、これからの事なんですが……。二つ選択肢があります。まずは一つ、新しい指揮系統のなかで魔法少女として登録、戦いを続ける事。新しい指揮系統に入っても所属が変わるだけです。他の魔法少女と共闘したり、応援に呼ばれることもあるかと思いますが。基本、部隊ごとの移動になります。これを選ぶと、忙しくなりますね。何かに巻き込まれる事もあるでしょう。ついでに貴女の友達にはばれると思いますね。」
「二つ目は、戦いをやめること。所属が外れた今が辞めるチャンスです。力を隠して一般人となるわけですね。これを選ぶと、この三か月と同じ生活になります収入はなくなりますが。」
……どんな二択だ。わかって聞いてるだろこいつ。
「私がずっとばれずに一般人に紛れられると思ってんの?生身でも戦いに行くんだよ?」
「ええ、まあそうですよね。形式的なものですよ。」
でしょうね。
「……ただ、ちょっとしばらくは休ませてほしいかな。」
学校には行けそうだけど、戦闘はもう少し後になりそう。まだ折り合いがついてない。
「わかりました。所属だけして、療養中という事にしておきます。そういや登録名、紫珠ナナの状態ですけど……。変えられますけど、どうします?」
「……そう、だね。」
どうしようか。
「……ゼロセブン。」
「おや、それでいくので?」
「せっかく付いてるわけだしね。」
考えるのがめんどうになったともいう。
「わかりました、ではそれで申請しておきます。」
「よろしく。」
「では、私はこれで。……学校、行ってくださいね?」
……心配されてしまった。まあ、一か月籠ってたらそうなるか。
明日から学校いこ。
「久しぶりナナちゃん!とうとう学校もサボったのかと思ったよ!」
盛大にずっこけた。
「冗談だよ!おじいちゃんが大変だからちょっと戻ったんだよね。」
なるほどそういうことになってるのね。
「これ、いない時のプリントとノートです。」
「ナナには必要なさそうだけど。」
「ありがとう、助かるよ。」
「いーんだよ!私とナナちゃんの仲じゃん!」
「そんな仲になった覚えはないけど。」
「がーーーん!」
「ナナの容赦ないばっさりがまほを襲う……。」
「冗談だよ。ふふ。……これからもよろしくね。」
「よろしく!」
「ええ。」
「うん。」
この日常が心地いい。
それから一週間。学校へ行き、駄弁り、友達と遊ぶ。なんてことはない日常。
今日も今日とて街へ遊びに。平和な日常。だが、そんな中にもエネミーの影。
「……すいません、ちょっと急用が。」
「わかった。気をつけてね。」
「怪我はしないで。」
「ええ、心得ております。」
エネミーか。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
玲那はエネミーの討伐に行った。
私たちは、近くのカフェへ。
「最近魔法少女、忙しいよね。」
「確かに。」
「なんか、魔法少女が減ったらしいよ。」
……減った?
「うん。なにかが変わったらしくて、この機会に辞めるーって人が多かったみたい。」
「戦いたくないって人、多いんだろうなあ。」
「それで人手が足りてないのか。」
「魔法少女募集中、なんていう事も最近よく言ってるみたいだよ。」
……そう。私は……。
「……ねえ、なんか外、騒がしくない?」
たしかに、騒がしい。なんだ?
「……人逃げてない?」
「ちょっと見てくる?」
「そうだね。」
三人で外に出て、確認する。その瞬間。
「っきゃあっ!」
「れ、玲那!?」
フタツキが飛ばされてきた。……エネミーにやられたか。
「まほ……逃げて!」
「大丈夫?」
エネミーが見える。
「ナナさん、二人を連れて逃げてください!こいつ、私の攻撃が効かないんです!」
「応援は呼んだ?」
「通信機が……。」
壊されたか。……このままでは玲那が。
どうする。私は。
「私は……。」
「ナナちゃん、逃げるよ!」
私は……!
電話をかける。
『三吉……。』
『どうされましたか?』
『エネミーが。魔法少女は、攻撃が効かない。通信機も壊されたみたい。』
『……では。』
『ええ。』
『わかりました。お待ちしておりましたよ。ええ。武装はいつでもいけます。』
『助かる。』
『ええ、ええ!ゼロセブンの復活です、盛大にいきましょう!』
『ふふ。そうだね。』
『ええ、ご武運を!』
電話を切る。
「ナナさん……?」
「フタツキ、下がってて。」
「駄目です!あれは生身では……!」
「ナナちゃん、前!」
エネミーが飛びかかってくる。
「っそらァ!」
空中にいるエネミーを蹴り飛ばす。おお、よく飛ぶ。
「大丈夫だ。だから下がって。」
「ですが!」
警官が囲み始めた。カメラは、来てる。私たちを見てるな。
「……一つ、騙していたことがある。」
一歩踏み出し、間を空ける。エネミーが立ち上がった。
「私はな。」
エネミーを睨む。
「魔法少女なんだ。」
変身。
足元から紫の閃光が昇り、私を包む。服が変わり、武装が付く。ゴーグルがつき、紫の光を放つ。
光りを払い、息を吸う。
「N-07、魔法少女、ゼロセブン。これよりエネミーを殲滅する!」
「な……。」
「ゼロセブン……」
ざわめきを感じつつ、ニヤリと嗤う。
「さあ。」
エネミーが近づいてくる。
「始めようか。」
全武装展開。
「フルバースト!」
スカートのミサイルが、ガトリングの弾丸が、砲の砲弾が、エネミーに降り注ぐ。
「すご……。」
エネミーは、顕在か。土煙が払われた。
「GRAHHHHH!」
「ひっ……。」
吠えるか。後ろから悲鳴が聞こえるが、私はそんなものでは怯まない。
「フン、吼えるなら。」
息を吸い込む。尻尾で地面が叩かれる。
「これくらいしてみろ。」
街に響き渡るが如く。
「GRRRRRRRAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」
エネミーが怯んで、後ずさり。ハン、なんだそりゃあ。……警官も怯んでたのはご愛嬌。
ブレードを抜く。砲、弾種変更。弾種、散弾。
「行くぞ。」
ブースター点火、突撃。エネミーの横をすり抜け様に斬る。
「遅い。」
後ろを取り、散弾で体制を崩す。そして回りながら、斬りつけ、散弾。
エネミーが攻撃してくるも、体制が崩れ、当たらない。
「遅いと言っている!」
さらに斬りつけ、隙間に尻尾を突き入れ、装甲を剥がす。
「さて。」
散弾で体制を崩し、蹴り飛ばす。これでいいか。
「つまらない、そろそろ終わりにしよう。」
砲、弾種変更。弾種、魔法レーザー。チャージ。
「さあ。」
ミサイルを発射。狙うは足元。さらにチャージ。
「飛べ。」
爆発でエネミーが撃ちあがる。さらにチャージ。
「終わりだ。」
チャージ完了。構え。尻尾を地面に突き立て、支えにする。
「消え失せろ!」
発射。極太、紫の閃光がエネミーを飲み込む。反動で、少し下がり、尻尾を突き立てた地面が抉れる。
エネミーの姿は、塵もなく消え去った。
「フン……。」
チャージしすぎたか。砲が熱を持っている。
排熱。蒸気が噴き出す。
「エネミーの反応は……無し。任務、完了。」
「つよ……。」
「なんと……。」
ふう。振り返り、フタツキのほうへ。
「怪我は。」
「……少々やられました。」
ふむ。
『三吉。』
『流石です。救護班ですよね、もうすぐ到着します。』
『助かる。』
「救護班がもうすぐ到着する。それまで待て。」
「わかりました。……あの。」
「なんだ。」
「ナナさん、ですよね……?」
……目の前で変身したよね。
ゴーグルを取り、顔を近づける。
「それ以外に見えるか?」
「いえ、見えません……近いです。」
「ならいいんだよ。」
救護班が来たか。私を見て驚いてるな。
「驚くのはいいが、怪我人がいる。そっちを優先しろ。」
「は、はい!」
運ばれるフタツキ。
『それにしても。』
『何。』
『ああ、ひとまず、復活おめでとうございます。素晴らしいですね、ええ。』
『ありがとう。』
『これから忙しくなりますよ。腕が鳴りますね、ええ。』
『そうなるよね……。』
『それにしても、かっこよかったですね、ええ。今日の戦闘は録画ですね、永久保存版ですよ!』
『え……。』
『ええ、ええ!かっこよかったですよ!では通信終了しますね、お疲れ様です!』
……切りやがった。ま、いいか。
「さて、と。」
二人の方に。
「帰るよ、二人とも。」
路地裏に入り、変身を解除。
「……ねえ。」
「ああそうだ、言い忘れてた。」
「なに……?」
振り向き、笑顔で。
「クラスの皆には、内緒ね!」
「え、うん。」
「……チッ、外したか。」
「いや今のはスベると思う……。」
ま、そうなるよね。
「……いつものナナちゃんだ。」
「いつものかは知らないけど、ナナちゃんだ。」
どうした。
「だってゼロセブンだよ、超有名だよ!」
「そうなの?」
「……公式グッズがないから有志が非公式で作って、大量に作ったそれがすぐに完売する程度には。最近出てこないけど、未だ人気は上がってるくらいには。」
「……マジで?」
「マジで。」
そんなことになってたのね……。
「でもいつものナナちゃんでよかったよー。」
「そうだね。」
「……そうかい。」
なにはともあれ、帰ろう。
それから戻ってきた玲那に問い詰められたり、まほにサインがどうとか言われたり、静に魔法少女姿で写真撮って、と言われたり。なんだかんだと受け入れてくれた。
魔法少女として任務が増えたけど、玲那と一緒に戦ったり、結構充実してる。
すこし間が空いたけど、戻ってきた。久しぶりの戦場。久しぶりの遣り取り。ああ。
おかえり、ただいま。私の日常。
さて、これで私の話は終わりだ。……そうだな、あれから五年もたったのか。早いものだ。
あれからどうなったって?そうだな。
玲那は今も魔法少女をしながら、新人達を相手に教官をしている。百戦錬磨のフタツキ、知らないとは言わせんよ?
まほ、静の二人は魔法少女をサポートする、って言ってな。大学卒業して、今はまほはオペレーター、静は担当官をしてるよ。
私か?今は魔法少女しながら、後輩の育成をしている。玲那とはよく会うんだ。たまに一緒に出撃してるよ。
今の生活はどうか?……そうだな。大変ではあるが、充実してるよ。こんな生活も悪くない。これが私の、今の日常だ。
……さて、そろそろ時間だ。ああ、かまわないよ。私も久々に思い出したしな。なに、どうせ検閲されるんだ。ハハハ。
それじゃあ、さようならだ。また何か聞きたかったら、国防省を通してアポを取ってくれ。じゃあな。
ハッハ、こういうのが好きだ、大好きだ!銃弾をばらまく魔法少女など絶頂すら(ry
えー、閲覧ありがとうございました。ええ。