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白き子  作者: 藍上央理
第二章 追放者
9/50

(1)

 ラ・ルマリアンより南方に五つの国がある。

 その五国迫りくる危機感からか、ラスグーの黒の王、サムリアン国王の名のもとに同盟を結び、その力を一つにすることを誓った。もうそれは今から十八年も昔のことである。二年前にサムリアンが崩御し、傀儡の王であったラグナロク王女は、晴れて正式な国王になることができた。

 当時の王、サムリアンの体を媒体にして復活した竜を封印し、二度と竜は蘇ることがなくなった。ラグナロクは、十六年ぶりに再会した双子の兄、アスランとその友人アシュトルーンとともに龍穴から生還した。その時からラグナロクは確信したのだ。愛すべき人は、アスランだと。


 アスランが旅に出ていないとき、ラグナロクは魔道師であるアシュトルーンのいる魔道の塔に行き、闇魔道を広めたマズラルによってできた魔道の傷をいやすための相談をしていた。

「魔道の塔の有志による清浄活動は進んでる?」

 古ぼけた机を挟んで、真向かいに座ったラグナロクが訊ねる。腰まであるしなやかな銀髪、灰がかった青い瞳。思慮深く落ち着いた顔は夜の月のように清楚で美しい。反対に双子の兄のアスランは髪も瞳も漆黒。二人は双子だが、血のつながりがない。

 アシュトルーンもまだ古の王の研究を始めたばかりで詳しくは分からない。が、二人ともその母、ラグナロク=ティトゥールにうり二つだった。研究書では母胎の中で似せて作るためだとも言われている。定義は難しいが、古の王の魂をもつものは人間ではなく、神に近いとされるため、魔法の力は無限にあり、人間ではできない技もなしえると言われる。

「進んでる。このあいだは、街中の邪気の漏れてるとこを封印した。穢れ束も聖別していったよ」

 アシュトルーンも整った顔をしている。栗毛に栗色の瞳。恐ろしく恥ずかしいため口にはしないが、闇魔道師マズラルの血を継ぐ息子である。しかし、彼の母親の父、リーアン候が養父となってくれ、今は魔道の塔で修行をつづける身だ。

「弱いものや敵対者を追い出すようなことになってない?」

「なってない。第三者も挟むようにしてるから。ぼくは顔を出さないようにして学徒を尋問してる。問答の内容はぼくも知らないんだ。おそらくぼくも受けることになるし。答えようによっちゃ、正規の魔道師でも免許剥奪処分だ。だいぶん一掃できたんじゃないかな」

「それならいいけど……」

 黒の王とマズラルが呼び起こした闇魔道は、ラスグーの街と城に多くの穢れや魔物を残した。アシュトルーンも勉学の傍ら、清浄活動に参加し、闇の力を払しょくする努力をしている。

 ラグナロクは頬杖をつき、右手の中指にはめた金の指輪を見つめている。アシュトルーンはその彼女に見入っていた。

 ラグナロクの右手の指輪はラスグー王家の証として、アスランとついに四大臣から受け取ったものであり、彼女はアスランに黙って彼の指輪とすり替えた。アスランはそうとも知らず、ラグナロクの銀の指輪をはめていることだろう。

 ラグナロクはアスランを自分の半身だと悟った。ラスグー王家には、ローバー——運命の片割れ人という言葉がある。例え肉親だろうと、その恋人の名のもとではあらゆるタブーが許されてしまうのだ。


 指輪をすり替えたことをラグナロクはアシュトルーンにだけ告白した。愛してやまない男の指輪を見ながらうれしそうに笑う。

「これね、アスランの指輪なのよ」

 そんなときの彼女は年相応のかわいい少女だった。

 ラグナロクから無二の親友と思われ、心を許されているとわかっているアシュトルーンは、複雑な心境だった。

 ラグナロクが好き。

 彼女を知れば知るほど、その輝くほどに美しい彼女に圧倒されていく。

「よ、よかったね……」

 無邪気な顔でアスランのことを語るラグナロクが、憎らしいくらいに彼女を避けているアスランをどう思ってるかなど、一目瞭然だった。ラグナロクはアスランが好きだ。

 二年前、実父マズラルに体を乗っ取られた時、アシュトルーンを護ってくれ体を取り戻してくれたアスランのことを、彼は感謝し好きでもある。その彼からはっきりと聞いたわけはないが、アスランがラグナロクをローバーとは思っていないことは確かだ。それでも多少ひかれているのだろう。わざと旅に頻繁に出ることで彼女を避けている。

 それとも、ラグナロクを目の前にすると自分を抑えられなくなるのだろうか……

 アシュトルーンは思い人の少女の前で軽く友人に嫉妬を感じた。

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