(14)
アファルトルは手を伸ばしてくる死者たちに杖を伸ばし、触れていく。途端に死者たちはその忌まわしい魔力から解き放たれ、行くべきところへ消え去った。
アスランは破邪の炎を火柱のように指先から吹き出させ、飛び交う魍鬼に浴びせかける。あっという間に炎の覆う部分が消失し、生ける死体は床に崩れ落ちる。
その横のマーリンは細身の剣を突くようにして、襲いかかる僧侶の体を連打する。横殴りに首をはね、両腕を激打すると、僧侶の体は半ば糜爛しているのか、たやすく折れる。
しかし、どこから湧き出てくるのか、生き死人たちは斃しても斃しても後から後から襲いかかってきた。先陣のサバナムは忌々しげに舌を鳴らす。まっすぐに回廊は一行を金神のもとへ導いているというのに
アスランは見かねて、自分の後ろで剣を振るっているマーリンに全てを任せ、先頭に踊りでた。
「客人、下がっておれ。死にたいのか!?」
サバナムは目を釣り上げ、叫ぶ。
「なんの、死ぬのはあちらだ」
アスランは手のひらから前方に向けて、ルーンを唱えると、轟然と手から渦巻く炎を生じ、回廊の行く手を聖なる炎で清め走らせた。爆風のような炎は生き死人たちを残さず燃える舌に絡めとっていき、燃やし尽くしていく。一瞬にして敵の大半を平らげた。その魔力に、サバナム以下は唖然とする。
伸びる回廊に怪しい人影はいなくなった。アファルトルは破邪のベールで回廊を覆う。追ってきた魍鬼どもがその光にあたり、叫びも発せず消滅していく。
一行は回廊をかけていく。そして、とうとう大神官の離宮の扉の前に辿り着いた。しかし、そこにも立ちふさがるものがいた。サバナムは斬り伏せようと剣をあげる。
「待て」
アファルトルはそれを制し、ひっそりと扉の前に立つ白き子に寄っていった。そして、試すように杖を白き子の胸につきつける。何の反応もない。
「なぜ阻むのだ。どけ」
白き子は悲しげに眉を曇らせ、「なりません。私の話を……私の願いを聞いてからお通りくださいませ」
「命乞いか……?」
アファルトルはつぶやく。
「いいえ……ただ、察して欲しいだけでございます。あの方の心をお察しいただきたいのです。
あの方を憎まず、理解し、赦して欲しいのでございます。あの方の子供の心を赦して欲しいのでございます。狂気を、苦しみを察して欲しいので欲しいのでございます。どうか、どうか……」
白き子はアファルトルの胸にすがる。それをサバナムがぐいと引き剥がし、アファルトルの決断を待つ。
「わたしに……あやつを赦せ、ろ申すのか? のぉ、それは無理というもの。あやつがどれほどのものを奪っていったか、お主が一番存じておろうが」
白き子の顔が悲しげにゆがむ。
「赦すことが、赦すことが最も要のこと。……どうか、ご理解を……!!」
サバナムは非常に白き子をひっとらえ、縄で縛り付ける。
「サバナム……このものは生かしておけ」
「はっ」
白き子の目が一同を見つめ、最後にアスランの上に止まった。
「要石はあなたです。どうかアファルトル様を……」
白き子はフット視線をそらし、マーリンを見つめる。その瞳の奥で何かが揺らぐ。
「哀れな……」
マーリンはつぶやく。白き子は悲しげに微笑む。そして、俯いてしまう。
アファルトルは扉に手をかけ開く。室内は暖かく、今までここに誰かがいたような気配があった。皆は奥の間へと入り込む。そして、ソファに深々と座る金髪の男をみとめた。男はヘーゼルの猫目を一同に向ける。見めぐらし、戸惑うように視線が止まったが、一体誰を見たか見当がつかない。
「ショウリーンか……?」
アファルトルはショウリーンの素顔を見たことがない。そこにいるものすべてそうであった。そして、だれもショウリーンの囲っている男のことなど知る由もない。
「いや……」
白い面の男は涼しげに答える。剣を携え、なおかつそれを鞘から引き抜いている男が四人もいるというのに、全く動じる様子もなく、ただ彼らを見つめていた。
「なにか?」
「何者なのだ。なぜこのようなところにいる?」
アファルトルは男を炯々と睨みつけ、言う。
「わたしはイヴリーン。ショウリーンの想い人だよ」
アファルトルの柳眉が吊り上がる。
「ならば、ショウリーンはどうしたのだ? いずこだ!?」
「……これは何の茶番だ……?」
イヴリーンはつぶやいたあと、不意に、「なるほど……」とつぶやき、「終幕とはこういうことか、ショウ……」
「言わぬならば斬る」
アファルトルは冷たく言い放ち、サバナムから剣を受け取る。しかし、その手をマーリンに取られる。
「わたしにおまかせを」
アファルトルは顔を見つめる。彼の顔はやや青ざめ、興奮している。
「うむ」
アファルトルは腕を下ろす。マーリンは彼女に例を述べ、イブリーんの正面に立ち、そして、剣をもった手を振り上げる。皆、固唾をのむ。
しかし、その腕は振り下ろされなかった。
「いかがしたのだ?」
アファルトルは訝しげに問う。マーリンは背を向けたままの格好で、剣をおろし、「ふっ……ふふふっ……」と、肩を小刻みに震わせつつ、笑った。
一同ははっとする。
「やはり、謀りおったな!? マーリン」
「大神官の手の内の貴様が必ず怪しいと思っておったわ!」
サバナムとリトリウムが叫ぶ。しかし、その言葉はマーリンの高笑いにかき消されていく。




