(13)
「それ、アタシ気に入ってるの。返してちょうだい」
かわいらしい両手をのばして、ミルトはせがむ。アファルトルは、そのかわいいおつむに指輪をのせる。そして、そろりとミルトを地上におろした。
小さな兄妹はヒシと抱き合うと、アスランとアファルトルを交互に眺めた。
「ボクたちも連れてって欲しいんだ」
タスクが口火を切った。バツの悪そうな顔をし、「勝手についてきたのは悪かったけどさっ」
「長老には伝えたのか?」
「ううん、家出みたいなもんさ」
「アタシたちね、ラ・ルマリアンがどんなとこかみてみたいの。だってアスランはなんでも出来るんでしょ?」
ミルトは恐る恐るアスランを見上げて言った。
「帰るんだ」アスランはむっつりとして言う。
「もう帰れないよ」
タスクは口を尖らせて、ぼやく。
「帰れないもんっ」
ミルトはそれを見て、真似をする。
「連れて行ってはどうか?」
アファルトルは、兄妹の可愛らしげな様子に見とれながらつぶやく。
「無責任なことを言うなっ!」
アスランは眉間にしわを寄せて、一喝する。
「ボクたち、役に立つさ。なんでもできるよ」
「この人、困ってるんでしょ? アタシたち助けてあげてもいいんだよ」
アスランは閉口した体で顔を片手で覆った。
「うるさいのはゴメンだからな」
兄妹の顔がパッと明るくなる。
「うんッ! ボク静かにしてるさ」
「アタシもお口閉じてるもん」
「お前たち、空腹ではないか? これはお口にあうかな?」
アファルトルは、にっこりと兄妹の前にぶどうをおいた。ミルトはわぁッとばかりにぶどうに無心にむしゃぶりつく。タスクはアファルトルを値踏みするようにながめ、「あんた、いいやつだな」というと、ミルトを小突きながら、一粒両手に抱え、食いついた。
ラ・ルーの森もあと少しで抜けることができるであろう。
アファルトルは、不本意な道程だが、仲間を得た。
アスランは厄介な荷物を三つも背負い込む羽目になった。
タスクとミルトの仔ネズミ兄妹はこれから起こる運命の大事に、まだその小さな心臓を戦かせていない。
彼らの進む運命の行く先を、まだ誰も知らない。




