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毒の月桂樹(仮)  作者: グラディス・ミッチェル
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第二章:三銃士たち

 一方、アセルスタン寮では件のしわくちゃの婆さんが茶の間の扉を閉じていた。

 「さてと」とデボラにたばこを渡しながら、ミセス・ブラッドリーは言った。「あんたと私はね、可愛い子、相互理解に至らないといけない。あんたはここにミス・マーチャンのアシスタントになるためにやってきた。それであんたは私に会った訳だけど、この変更について何か言うことはあるかね?」

 「いえ、でも私はミス・マーチャンのことを知りませんでしたし」とデボラは主張した。「要するに私にとってはどなたの下で働くことになっても、同じということです。ええと……」。彼女を見つめる抜け目のない黒い瞳、くちばしの形をした、いまは優しげなしわが寄っているけれど寸分の狂いもない判断を下すだろう(と彼女は感じた)小さな口。ミセス・ブラッドリーの前で、デボラは口ごもった。

 「気にしなさんな。重要なのは、私があんたの勇敢さについて報告しなければならないと言われたってことだよ」

 「私の勇敢さ? でも……」デボラは、自分はかけらも勇敢なんかじゃないと言い返したい衝動に駆られた。彼女が今の職にありつけたのは、素敵な証明書を持っていること、それから淑女にふさわしい筆跡で書けること、この二点の理由からであった。デボラはこの秘密をミセス・ブラッドリーに明かしたが、彼女は甲高い不愉快な笑い声を立てただけだった。ミセス・ブラッドリーは、スカートの大きなポケットからノートと万年筆を取りだすと、数ページめくり、ひどく読みにくい小さな文字をいくらか書きつけ、邪魔っけな手荷物を押しやると元気よくこう答えた。「私がここに来たのは、山脈をモグラ塚だと断定するためさね、可愛い子。あるいはその逆かもわからないけどね」

 デボラはミセス・ブラッドリーの魔女のような容貌をうかがった。黒い瞳は自分をじっと見つめている。さっき聞いた話は、まるで冗談のようにも聞こえる。彼女は椅子をまっすぐに向けてこう尋ねた。「それはどういう意味ですか、ミセス・ブラッドリー?」

 「厳密に言うとね、可愛い子。私がここに来たのは、ミス・デュー・ムーンの頼みでね、ミス・マーチャンを探してほしいということなのさ。この六月、カレッジのダンスパーティーから姿を消して以来、誰も連絡を受け取っていない。生徒たちには、彼女は腹膜炎か何かの病気になったんだと伝えて、学期の最後の二日間は校長自らアセルスタン寮の学寮長の役割を果たしたんだそうだ。というのが十週間前のことで、ミス・マーチャンの行方についての手がかりは皆目見つかっていない。面白くないかね? この事件にこれ以上警察も、新聞も介入させたくない、というのが校長の真剣な願いなんだよ」

 「よくわかりました」

 「よろしい。あんたの助けを得ようと思うなら、この事件について私が知っている限りの背景をあんたに伝えておくのが筋だろうね。このカレッジに赴任する二年前、ミス・マーチャンはキャディー・ベイと言うところにある公立の女子中学校で生物の教師をやっていたんだけど、彼女がこの学校を去る少し前にとてもいやらしい事件が起こってね。子供が学校の体育館の中で死んでしまったんだよ」

 「どのようにして?」

 「突っ張り棒を下げようとして引っ張ったらロープが切れて、その上の構造物が頭の上に落ちてきた、と見られる状況だね。事件は放課後に起こったんだけど、誰が彼女に体育館で練習する許可を出したのか証明できなかったので、陪審は事故死の評決を出し、学校は不名誉を被らずに済んだという訳なのさ」

 「ああ、それはよかったですね。子供って、規則に従わない小さな獣になりえますものね、私も経験あります」

 「そうさね。でも、その子供の祖父はもっと別の行動を起こしたがったんだ。彼は断固として、孫は体育館にいる許可を受けていた、陪審が判断したのとは違う状況下でそこにいて、教師も一緒にいたんだと主張し続けた。法廷に提出されたものより、もっと多くの証拠があるはずだと。最終的に、その男は精神病院に入れられ、すっかりおかしくなってしまった。可哀そうにね」

 「ひどいことになってしまったんですね。でも、もし証拠が完全だったのなら……」

 「そうじゃなかったかもしれない、一抹の疑念があるんだ」とミセス・ブラッドリーは言った。「検死審問の一月後、警察はミス・マーチャンが決定的な情報を提示できる立場にあることを告発する匿名の手紙を受け取っている。その女は、面倒事に巻き込まれるなら保護してほしいと書いてきたんだけど」

 「女?」

 「筆跡鑑定人たちは、この手紙は女性が書いたもので、それについて奇妙な関心を持っているようだ。この手紙を元に、警察がミス・マーチャンに質問に行くと、彼女は手紙の内容についてあらゆる情報の開示を拒んだだけではなく、即座に州当局に辞表を提出してしまった。私が直接質問した校長のミス・パルドレッドによると、学校は、彼女が突然いなくなってしまったことに限って興味を持っていたようだね。彼女はどこに行くかを誰にも語らなかった。このカレッジからの失踪が報告されて初めて、警察は彼女がこの学校に在籍していたことを発見したくらいだ」

 「つまり、あなたは死んでしまった生徒のおじいさんが彼女がどこにいるかを探し当ててそれで……」

 「その可能性はあるね、もちろん」

 「でも、あなたはそれが真実ではないと考えている?」

 「あんたは?」

 「私には分かりません」

 「他に質問はあるかね?」

 「ええ、ミス・マーチャンは警察に何かを告白しに行こうとして、結局おじけづいたのではないかと、そう思うのですが」

 「本当にそんな風に考えているのかい?」

 「分かりません。だって十分な証拠もないんですから、これ以上は私にはどんな仮説も思いつきません、そうでしょう? ミス・マーチャンは生物の先生をしていたと言っていましたね。とすると、彼女が体育館で何をしていたのかが疑問です。彼女は確かに体育の先生ではなかったんですね?」

 「そう、でも彼女は球技の補助は担当していてね。体育の教師は二人いた。とても大きな学校なんでね。偶然にも、その体育教師は検死審問のすぐあとに、学校を退職している」

 「彼女は、その事故が起こった時に建物の中にいたんでしょうか?」

 「午後五時以降にその建物の中にいたと告白した人は誰もいないね。医学上の証拠によれば、子供は七時より前に死んだということはないとのことだよ」

 「死体が発見されたのはいつ?」

 「翌朝、体育の授業のクラスが体育館に入った時だね」

 「修繕や掃除の人は入らなかったんですか?」

 「それについては、私が話を聞きに行ったときに確認してきたよ。体育館の床はその学校では特別製の聖域になっているんだ。塗料、ばね、ワックス。それを乱さないように、規定のゴム底靴を履いていない限り、体育館に入ることは禁ずる、と校長が厳命している。若い女の体育教師で、偶然にもミス・マーチャンの異母姉妹のミス・ペインター・ツリーはさらに先を行っていてね。彼女は修繕人や清掃人が、ゴム底であろうとなかろうと一切体育館には入れず、自分自身の手で清掃を行っていたそうだ。たまに、生徒に掃除を無理やりやらせたりもしていたようだけど。だから、あんたも分かると思うけれど、子供が一人きりで体育館に行ったのなら、彼女の死体が朝まで発見されなかったのは不思議でもなんでもない」

 「なるほど、分かりました。あなたがミス・マーチャンについて言ったこともよくわかりました。でも何も証明されなかったんですよね。つまり、誰かが誰かに何かを言ったということしか、証明されなかった」

 「そうだね」とミセス・ブラッドリーは賛同した。「あともう一つ。ミス・マーチャンの義理の姉妹は賛成しないかもしれないけれど、ミス・ペインター・ツリーが警察に匿名の手紙を書いたというその可能性は心理学的には非常に高い蓋然性がある。彼女たち両方が検死審問のあとであんな風に辞職するなんていうのは確かに妙だ。それから、子供は祖父母と暮らしていたようだけど、両親については私は見つけることができなかった」

 デボラは震えた。彼女は黒い瞳が彼女をじっと見つめて、査定し続けていることに気付いたのだ。彼女はミセス・ブラッドリーから目をそらして、言葉を絞り出した。

 「あの……この寮の副学寮長はいなかったんですか? 彼女に何があったんです?」

 「カーという名前の若い女性が副学寮長だった。でも、彼女は二学期に結婚退職してしまったんだ。ミス・マーチャンが、夏季休暇まで一人で管理できると主張したので、誰も配属されなかったそうだ。あんたが、このポストに申し込んだのはいつだね?」

 「イースターです」

 「なるほど。ミス・カーが四旬節の終わりに辞表を提出したので、カレッジもすぐに広告を打ったんじゃないかと、私は思うね。面接に来た候補者は多かったかね?」

 「八人だったと思います」

 「全員、あんたより年上だった?」

 「はい、何人かは私よりもずっと年を取っていました。私は、受かるとは思っていなかったんです」

 「若さは重要だよ、可愛い子。古めかしいけど、真実。特にいまどきはね。最後の選考が行われたのはいつだい?」

 「六月の第二週くらいでした」 と、デボラは目を大きく見開いた。「あの面接に、何か関係を持っておられたんですか?」

 「そうだよ、可愛い子。実際に見てはいないけれど、面接の内容は全部聴かせてもらったよ」

 「じゃあ、あなたが……」

 「そう、私が選んだのよ。可愛い子」

 「ああ、本当に、本当にありがとうございます。でも……」

 「それこそ、こんな挑戦的な会話を今ここでしている理由なんだよ」と、デボラにとって状況的に避けられなかった観察を切り上げながら、ミセス・ブラッドリーは言った。「あんたが神経質なままでいるのなら、ここにいてもらっては困る。あんたがなんでそんなにびくびくしているのかは知らない。でも結局、M・Rジェイムズの小説を読んでいるような人間を拒否できる人間はいないだろうね」

 「私は恐ろしく神経質になっています」と話が横道にそれるのを知りつつ、でもこの話が全体にも関わっているのを感じながら、デボラは答えた。「でも、私はこの仕事に就きたかったですし、今もそれは変わりません。私は何をすればいいですか? つまり、どうしてあなたは私に決めたんですか?」

 「それはあんたが若いからだよ、可愛い子。だからあんたを上手く使うことができる。私がこんな風に言うのに、気を悪くしたりしないだろうね。私には若くて、自分の仕事をこなしつつ私の秘密を守ることができる人間が必要なんだ。年を取った女性は、たとえ最良の人選であっても、時にその両方ができるとは限らない。この寮の副学寮長は、この寮に関することを上手く処理するだけじゃなく、私のもう一つの仕事、ここで本当にしなければならない仕事についても私の部下であってくれなくては困るんだ。言いたいこと、分かるね?」

 「はい、そう思います――私は、あなたが何者であるかを知っていますから、勿論」

 「よろしい。今夜は終わりにしよう。明日の朝、また報告をしておくれ。そうそう、もう言ったかもしれないけれど、あんたがここの前に勤めていたポストは、いつでも戻ることができるからね。それは保障する。うちの息子は理事長を知ってるんでね」

 「他に何かおっしゃることはありますか。つまり、ミス・マーチャンについて、のことですが」

 「他にはないと思うね、可愛い子」

 ちょうどその時、電話が鳴った。

 「あんたにだよ」とミセス・ブラッドリーは電話に答えながら言った。「ミス・デュー・ムーンがあんたに会いたいそうだ」


***


 ミス・デュー・ムーンは中年でにこやかな、半白の女性だが、顔を合わせるやデボラは彼女のことを特に理由もなく好きではなくなった。

 デスクの上にもピアノの上にも花が置かれていた。とても大きく生き生きとした木々ととても小さな取るに足らない人々を描いたコローの絵の複製画と、そしてもちろんカレッジのスタッフが映った写真が掛けられていた。複製画はピアノの横の壁に、もう一方はマントルピースの真ん中に据えてあった。

 「ミス・クラウドですね?」とミス・デュー・ムーンは言った。「カートレットにようこそ。アセルスタン寮の新しい学寮長、ミセス・ブラッドリーには会いましたね?」

 「はい」

 「分かっていると思うけれど……あなたの面接は若干特殊な状況下で行われたんですよ、ミス・クラウド」

 「私は……はい、伺いました」

 「よろしい。私は、今と違った状況であれば、あなたでない他の誰かが合格していたと思ってもらいたくはないのです。ミス・クラウド、あなたの選考はたくさんあった応募のひとり目に行われたもので、たとえ何があろうとも――ミセス・ブラッドリーのお仕事とは全く無関係に――あなたを合格させただろうということは知っていてもらいたいの」

 校長はここで言葉を切り、あからさまに感謝を期待して顔を輝かせた。デボラはいらいらしながらそれをくれてやった。

 「じゃあ、これで万全ね」と校長は言った。「あなたがここで幸せに、そして快適に過ごしてくれることを期待しているわ。副校長のミス・バンドが、あなたの授業の時間割表を渡してくれるでしょう。仕事を楽しんでくれるといいのだけれど。こう言えるのは光栄だけど、うちに来るのはとてもいい生徒ばかりなの。教育水準は高いし、私はそれを常に保っているわ。それじゃあ、さようなら、ミス・クラウド。もし何か不都合があれば、私のところに来て頂戴。ミセス・ブラッドリーのお手伝いを頼まなくてはならないのは心苦しいけれど、出来ることは何でもやってあげて。特に「仕出し」と「振る舞い」については入念に。ここだけの話にしてほしいのだけど……確かに彼女は素晴らしい女性だけど、食事については変わった考え方を持っていて、私が生徒たちから要求されている「マナー」について、彼女が理解してくれているかどうか、さっぱりわからないのよ」

 ミセス・ブラッドリーが出してくれたお茶のことを考えるに、デボラは、校長の言うことに全面的には賛同しかねた。最初の「仕出し」という点については特に。彼女はごにょごにょと不明瞭な声を出してこの場を立ち去ろうとしたが、デボラが会話を終わらせようとしているのを見てとって、ミス・デュー・ムーンは唐突に一つ付け加えた。

 「ところで生徒たちは「何も」知りません」 デボラのあっけにとられた顔を見た校長は急いでもう一言付け加えた。「私が言いたいのは、勿論、ミス・マーチャンの失踪のことですよ」

 「ああ、そうですね。勿論そうですよね」とデボラは言った。

 「警察はもちろんとても慎重に動いてくれています。でもミセス・ブラッドリーが事件解決のために動き出すと、何かが暴かれてしまうのは間違いありません」

 「はい、厳に。きっちり理解しています。そうならないように最善を尽くします」

 「そうしてくれると信じていますよ。では、さようなら。ミス・クラウド。どんな些細な問題でも、相談してくださいね。それから彼女たちの「帽子箱」の定期検査も忘れずに。私が何を言っているのかはすぐわかるわ」

 デボラは、校長の部屋に複雑な感情のまま取り残された。自分でも驚いていたが、今自分の中にあるのはミセス・ブラッドリーのごちゃごちゃして矛盾だらけの部屋に戻りたいという気持ちであることを自覚した。ずけずけと物を言うミス・トパーズは、「校長なんて最悪よ」なんて言っていたっけ。

 今回デボラはカレッジの裏手を回りながら歩き、アセルスタン寮に直接つながっている道を行くことにした。左側には灌木が、そして他の道と交わるところには果樹が植えられていた。右側は芝のテニスコートが広がっている。アセルスタン寮の正面に広がっている岩石庭園は、段を上がるとすべての寮につながる砂利道に通じている。この三つが、彼女の領域を形作る線だった。

 「家、か」と彼女は思わず考えた。その瞬間、驚くべきことに藪の中からローラ・メンジーズが飛び出してきた。

 「こんちは!」と彼女は元気いっぱいの声音で言った。彼女は怖がりで自信なさげなミス・ボアマンの腕をひっつかんでいた。「一緒に談話室に行きましょうよ。それとも、お偉いさんと一緒に行きたい口?」

 デボラが控えめに既に先約があることを伝えると、ローラはすぐに「老キティ」の運命についてみんな知っておいた方がいいと思っていることを述べた。この提案は、物語の主人公自身が悲嘆にくれた表情でアセルスタン寮の正面扉から出てきたことで現実のものとなった。曰く、彼女は「合格」したのだとか。校長の部屋に入ってわずかに二秒半のうちに被収監者の長いリストの末尾に加えられることが決定したのだという。

 「私ら、ここで何してるの、ドッグ?」とキティはミス・ボアマンに優しいまなざしを向けながら問いかけた。

 「いわゆる緩衝国って奴ね」 ローラは謎めいた、しかし知的な返答を返した。キティは、じっくり思慮深い観察の末、ミス・ボアマンのことが好きになっていた。

 「ヘイヘイ」と満足げな笑みを浮かべながらキティは言った。「なかなかの手腕ね、ドッグ」

 「相も変わらずね」と彼女の友達は丁寧に返答し、「ミス・クラウドについては」と続けた。「今日以降、私らが集まっている時に、一緒にいるところを見られると恥ずかしいだろうから、仲間を作って、ここでどうふるまったらいいかを学んで、それから獄舎の影によって、成長期の男の子から締め出されるって訳だ。」

 「問題は」と四人全員がアセルスタン寮に入ったところでデボラは言った。「カレッジへの入学を認められるにあたって、ミス・メンジーズ、あなたにいったいどんな問題があったのかということなのだけど。ようするにあなたは……」

 「私みたいなおバカには見えないって? うん、確かにそうだよね」とキティは言った。

 「学校で破目外し過ぎたことで悪評が立ってしまったみたいで」といつになくしおらしげにローラは答えた。「実際、ここではああいうことをするな、ってあのデュー・ムーンの婆さんから釘を刺されてきたところよ、あーあ。「第一の墓掘り人」の直接介入がなかったら、私は放り出されてたところだったな」

 「ミセス・ブラッドリーがあなたを欲しがったの?」

 「ホントにさ!」とローラは眉根を寄せて賛同した。「私が何考えてるか分かる?」とデボラの緊急アラームに向かって続けた。「交差点の汚れ仕事があるに違いないよ。なんだって「第三の魔女」がこの学校に学寮長を偽装して現れる? この事件には裏がある。そうは思わんかね、同志ボアマン」

 「いいえ」とアリス・ボアマンは言った。「何が?」

 「何が?ってねえ」とローラは誠意をもって返答した。「愛しのキティ、あなたは何か気が付いた?」

 「いーや、なーんも。ただ、ミス・デュー・ムーンが自分はあなたのために役立ちますよとか述べ立て始めてすぐ、私ここに逃げ戻ってきたんだけど、三階を隅から隅までこんにちはした結果、リストと物品を管理している例のミス・マシューズからも守られている、完璧で素敵で小さなダンジョンを三つ見つけたんだよね。思ったんだけど、私ら三人、一緒にいた方がいいんじゃないかな。」

 「そのとおりね!」とローラは興奮しながら言った。「よーし、小さなアリス、汝いずこぞ! あんた第三の銃士になる?ならない?」

 「アリス、汝、あの何とか言う人を、名前を知らないあの人と結婚する時に捕えるや?」と、キティはトンチンカンなことを言った。

 「そうするわ」と嬉しそうな、でもかすかに不安そうな声で青ざめたアリスは答えた。「でも私たち、ここに勉強しに来てるのよね、忘れてない?」

 「子山羊ちゃんたち、二人してメーメー言ってると虎が襲ってくるわよ」と、三人目の銃士に腕をからめながらローラは言った。デボラはアリスが賢いのか否か、決めかねている自分に気が付いた。四人が学生用の談話室に入っていった30分後、デボラは荷物を解きたいから、と断って別れを告げ、メイドの一人に連れられて寝室に行き、自分の居間を見せられた。学寮長と副学寮長は、同じようにもてなされることになっており、デボラは嬉しくなった。電話がかかってきたとき、彼女は、急がなくていい余りの時間を、大きな窓の付いた真四角な自分の地所を大喜びで眺めていた。その過程で、この部屋がミセス・ブラッドリーの居間とつながっていることを発見した。

 デボラは、「ヨークまでディナーを食べに行きましょう」と学寮長から誘いを受けた。「あの子供たちも、今から真夜中までの間では十分な悪さをすることはできないでしょ。ミス・メンジーズは、カレッジの中に閉じ込められた、押し込められた、幽閉されたと不平を結うだろうから、私もそうならないようにしようと思ってね。ぼやぼやしなさんな。ジョージがドアのところに車をつけているよ」


続く

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