サンタ少女とプレゼント
「あぁ~寒い...」
白い息を吐きながら暗い夜道の中を俺は帰宅していた。辺りには電柱等無く、携帯の充電も切れそうなため星の明かりを頼りに歩しかなかった。
内心でいい加減明かりぐらいつけろよ と愚痴りながら星がよく見える夜空を見上げてみる。
(今年も後少しで終わりか~~)
高校に入ってまだ一年しか経っていないのに入学式があった四月が懐かしく思えた。進学してから友人もそれなりにできており。そこそこ楽しめていたのだが、何故か最近あるのものが増えておりそれが、俺の悩みにもなっていた。
「リア充が~~」
悩みの種の正体を呟く。そう、なぜだか俺のクラスだけでもかなりの数がカップルができ、非リア充の奴が俺を含め片手で数え切れる程しかいなかった。
夏が終わる頃からか、最初は二、三人ぐらいが付き合い始めて秋になる頃には大半が先輩やら、別の学校の奴らやらと付き合い始めた。
おかげで、教室でも図書館でもいちゃいちゃし始めて居場所がなく奴らの話しがどうしても耳に入り。クリスマスはどこでデートするか、どこに泊まろうか等最近よく聞くようになった。
「クリスマスか...あぁ~~サンタ~~彼女くれ~~」
誰にも聞こえないように呟く。子共の頃、サンタに変装した父の姿を思い出し笑っていたらーー
ドン
「あう...」
突然、足に何かがぶつかった。しかも何かの声がしたため足元を見ると、小さくて赤い何かが見えた。その赤い何かは「い、痛い~~」と小さな声を出し起き上がるって...!?
「お、女の子?」
赤い服ーーサンタの格好をして少し長い黒髪をした女の子が赤くなった鼻を小さな手でさする。見た目は中学生もしくは小学生高学年ぐらいでおそらく、クリスマスが近づきでテンションが上がってサンタのコスプレして友達とでも遊んでいたのか? と考えて込んでしまい、地面に座り込んでいる女の子が俺を見ている事に気づき我にかえる。
「ごめん!! だ、大丈夫?」
「あ、いえこちらこそすみません...」
手を伸ばして、彼女も俺の手を掴んで立ちあがる。柔らかい手に何故か顔が熱くなったのを感じ、なるべく彼女の目と合わないように顔をそらす。何ドキドキしてんだ俺?
「だ、大丈夫だったかな?」
「はい、私は大丈夫です」
彼女が言い終わるとその場が沈黙になってしまった。一応怪我はしていないようで安心したが、そこからどうすればいいのか必死で考えるが浮かばず、「あの...」と小さな声をかけられ慌てて女の子を見た。
「この辺で、小さな鈴を見かけませんでした?」
「鈴?」
「はい、少し用事があってこの辺を通っていたんですが、うっかり落としてしまいまして...」
ずっと無表情だった彼女の顔が困ったようにうつむく。
わざわざこんな夜道で探さなくても明日日が登ってから探せば? と伝えるが...
「それじゃ、ダメなんです」と 首を横に振り否定された。
「とにかく、イブ前には鈴は必要なんです」
そう言うと、道の端っこに行き星の明かりを頼りにして地面を見渡す女の子。どうやら、何を言っても聞く様子じゃないなこりゃ...
携帯を開き足元を照らそうとするが、そこで電池が切れかかっていたのを思い出し舌打ちした。
(かかわらない方がいいか?)
下手に関わって変出者と間違われると面倒だ。どうせ見つからなくても明日になってから探せばいいんだだし、それに遅くなったら家の人が探すだろう...
一生懸命に鈴を探す彼女から目をそらし、心の中でがんばれ と勝手なエールを送りながら早足にその場を去る。
女の子との出会いから数分後、寒さに耐え切れずコンビニの中に退避し雑誌を立ち読みしていた。店内には俺のほかにも立ち読みする人もおり、そこにもひと組のカップルがいるせいで気まずいまま雑誌を読む。
雑誌の漫画に目を通すが内容がまったく頭に入らず、さっきからあの女の子の事しかなかった。これじゃ俺単なるロリコンじゃねぇか と思いつつ携帯を開くと一件のメールがあり送り主は中学からの知り合いで...告白した相手だった。
ごく と喉を鳴らし震える指でメールを開くと
「ごめんね...私、あなたの事友達としてしか思ってなくて...」
そんな事が書かれており思わず大きなため息をつく。隣りにいる人が俺を見ている事に気づき慌てて雑誌を置いて飲み物のコーナに逃げる。
「あぁ、これで俺もぼっちの仲間入か...」
中学の頃から気になっていた相手からの返事がショックで思わず目の前にある酒に手を伸ばしかかるが、すぐに手を引っ込める。これ以上ここにいたらなんかと間違えられそうとだなと思い、店から出ると
「あ、雪...」
小さな雪が俺の顔に張り付き水になる。ちらちらと、風に乗り雪が振っておりそこでさっきの女の子の事が頭がよぎった。まさか、まだ探してるのか...?
店内の時計を見ると既に九時は過ぎており、周りは空は雲で覆われて星が隠れていた。もし、暗く雪が振る寒い中でまだ探し物をしているとしたら...
「たくっ!!」
急いで店内に戻り、暖かい茶と懐中電灯と電池を手にレジに向かう。財布の中身が薄くなって痛いが、気にする暇もなくすぐに電池を入れて店を後にした。
懐中電池の明かりを頼りに足元を照らしながら走る。さっきより風が冷たくなり耳が痛いがそれでも走る。
(頼むからいるなよ!!)
内心でそんな事を思い、数分かけてさっきの道に戻ってきた。懐中電灯で道を照らしつつ注意深く辺りを探す。
歩いて十分ぐらいは過ぎた頃、物音がして看板の方に光を当てると...いた。
「あ、今晩」
無表情でのんきに挨拶する彼女に、俺は無言で光を当てながら熱い茶を彼女の顔に押し当てる。
「あったかい」
そう言いつつ、俺から茶を奪い温める小さな手は汚れており、俺が去ってからもずっと探していた様子だった。と、俺の視線に気づいた彼女はサンタ衣装のポケットを探り、どこか気まずそうに顔を伏せたまま口を開く。
「すみません、今お金なくて...」
一文無しなのを伝え茶を俺に返そうとするが、俺は受け取らない。
「ずっと、探してたのか?」
「え? はい、何しろ私の家で大切な物なので...」
「だからこんな寒い中探してたのか?」
こくこく と無言で頷く彼女。このままじゃ朝になってまでもこの子は落とし物である鈴を探し続ける、だったら...
光をあちこちの地面に当て目を凝らし探す。数歩いたところで女の子に「何をしているのか?」と聞かれ、俺は振り向かないまま「鈴、さがしてる」と短く答える。
「で、でもこのままじゃ風を引きますし...」
「だったら早く見つけるだけだ」
どうせ家に帰っても告白が振られた事で頭が一杯になるだけだし、気分転換になる事は言わないまま捜索を続ける。
俺の持つ懐中電灯を頼りに二人で探し、道中で人と出会わないまま進む。もともとこの道は電灯なんてなく夜道は誰も通らないので今の状況では、それが助かっていた。小学生? みたいなサンタ衣装を着た女の子と夜道を歩いていたら通報物だ。
(さっさと見つかってくれよ...)
内心で焦りつつ二人で探すこと数分。時折、光で反射したガラスの破片等で何度も抜か喜びし、捜索が続き流石に疲れてきた時、突然彼女が走りだし道端に小さな何かが光り彼女が拾う。
「見つかりました」
そう言い手に小さな銀色の鈴を持ち俺に見せて来る少女。顔はほころびわずかに笑顔が見え、俺も思わず喜んでしまった。
そこから、彼女は今度何かお礼をしますと言い深いお辞儀をしてからその場から急いで立ち去ってしまった。まるで、さっきまでの二人でいた時間が無くなったような感覚がしてしまい俺は暫らくその場に経ち尽くすしかなかったーー
やがて少女との出会いから数日経ち、冬休みに入り俺は適当に過ごしていた。
その日はクリスマス・イブで親が用意していたケーキを家族で食べ、俺と同じ非リア充である弟がら「彼女いないの」と言われ思わず弟の分のケーキを食べてやった。すねた弟を見て仕方なく、別のケーキを買うハメになりカップルだらけの町で虚しく一人でケーキを買い、帰り道であの暗い道を歩いていたらーー
「この間はありがとうございました」
サンタ衣装のあの子が、大きな袋を乗せたそりにつないであるトナカイと共に俺の前に現れたのだった...は?
「あの鈴が無かったら私、トナカイを呼ぶ事ができなくてプレゼントが配る事ができなかったんですよ、でも。おかげで私の初仕事何とか無事に終わる事ができそうです」
「あ、そう...よかったね」
力のない俺の返事に頷いて「また後で」と短く言い、彼女はそりに乗ってトナカイが走りどこかに行ってしまった。後に残された俺は今のは彼女の幻覚だな と無理やり思いつつ家に帰る事にした。
弟にケーキを渡しさっさと自分の部屋に戻り着替えて寝る事にした。さっきの事は俺がもう一度彼女と会いたい気持ちが幻覚として現れたんだな、きっと。
「だって、サンタマジでいるわけないだろ...」
「いえ、ちゃんといますけど」
突然、どこかで聞いた声がし起き上がるとさっき見た少女が俺の前でたっていた。窓は空いており、おこからトナカイが頭を入れて俺を見ていた。つか、ここ二階なんだけど、外見られてないか? とずれた
事を考えていると、彼女は手帳を取り出し何か困ったような顔をして俺を見る。
「そのですね、この間のお礼としてクリスマスプレゼントをと、思ってたんですけど...どうしたらいいでしょうか?」
「な、何がだ?」
「私、こう見えて見習いですが一応サンタなので。人の願いとかが見れるんですよ? あ、これ全てのサンタに共通する事なので内緒ですよ...それで」
自称サンタ? の少女が手帳を俺に見せそこには「彼女」と二文字が太く書かれていた。あ~それは困るはなって~~ って、おい!?
「生き物はサンタ法により禁じられてまして、どうしましょう?」
「いや、どうしましょうって...あ」
そこで、ある事が思いつき彼女を真剣に見つめる。これは流石にダメだろうという思いと、はやる気持ちにはさまれながら、俺は思った事を...告げる
「その、迷惑じゃ無かったら...俺の彼女になってください」
布団から出て、彼女に頭をさげる。内心で知らない女の子に告ってんだ俺 と後悔が生まれ、どう言い訳しようかよ顔をあげると
「いいですよ」
少しだけ笑顔を表してくれた彼女が俺に手を差し伸べるのだった。
「え? マジ?」
「はい、本当ですよ」
暫らく呆然となってしまい、OKをもらった事に頭が追いつかないせいで喜ぶ事ができなかった。無意識に彼女の手を取り握手し互に目が合う。まだ幼く、可愛らしい顔が間近で見え髪からはいい匂いがして頭が呆然となり、自分の胸の鼓動が早くなり落ち着かない。
「あの~~私なんかで良いんですか? 私、これからもサンタの試験とかあって二度と会えないかもしれないですよ?」
変わらない無表情でそう言う彼女を見て、俺は思わず彼女の体を引き寄せ抱きしめていた。彼女のぬくもりを感じながら俺は...
「...だったら、クリスマスのたびに頼んでやるさ、彼女と会えますようにって。靴下用意して待つよ、俺は ずっと、ずっと」
耳元でささやき、そう誓った。そうさ、こんな可愛らしい彼女の為だったらいつまでも待ってやるよ。
「分かった。私、何とかしてみせるよ」
うんうんと俺は頷きながら暫らく二人で抱き合う。そして気がつけば何時の間にか俺は布団の中で眠っていたのであったーー
やがて、年が開け冬休みが終わり。今年始めの登校日の事ーー
「はじめまして、今日からこのクラスでお世話になるーー」
前の方で学校の制服を着た彼女が自己紹介し、俺の隣りの席に座って
「サンタ、やめちゃって彼女になったから、よろしくね?」
笑顔を見せ、俺も思わず笑顔になり「よろしく」とそう答えるのだったーー




