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第九話

 俺が「フリーダム」に搭乗した日は、船員さんたちと食堂で晩飯を頂いた後、部屋のベッドで眠りについた。





 次の朝、俺は物凄い空腹感を覚えつつ目覚めた。またうつ伏せに寝ていたようだ。首を起こして辺りを見回す。・・・って、体が元に戻ってるんですけど!!

 俺は焦って起き上がろうとして天井にゴツンと頭をぶつけた。ちなみに、俺は四足歩行の方が得意なタイプのドラゴンである。一応二足歩行もできるんだけどね。四足歩行時に頭をもたげるとだいたい3メートルくらいの高さがある・・・多分。実際自分の眼分量だから確かじゃないんだけど。

 これはやばいことになった・・・どうしよう。俺は前にやったように人間だったころの自分を想像した。

しかし、いくら想像しても力が出ないというかなんというか。空腹だし・・・。ん?魔法を使えないこととこの空腹感がつながっているとしたら、俺は魔力を補てんするために魚を食べていたのかもしれない。昨日の晩飯で魔力が補てん出来なかったということは、魔力のもととなる生物の活動エネルギーは、生きているものからしか摂取できないのか?俺鋭い!・・・じゃない!今俺はこの部屋から出られないじゃないか!出たら確実にばれるし、第一あんな小さなドアでは翼がつっかえて出ることすらままならない。

 

 どうする・・・俺・・・。




 そうだ!ファズに魔法石を取ってきてもらおう!まだ朝が早いことが唯一の救いだ。


 「ファズ、起きて!」

 軽く尻尾でゆすってみる。

 「あれれ?どうしたの?」

 俺が元の姿ドラゴンに戻っていることに驚いているようだ。俺は今自分が考えたことと、その解決策をファズに伝えた。

 「お願いできる?」

 「いいよ!なるべく早く戻ってくるから待ってて。」

 「分かった。ごめんね、迷惑掛けて」

 「ううん、じゃあ言ってくる。」

 ファズは器用にドアを開けると、風のような速さで部屋から出て行った。訓練所で生成された魔法石が流れてくるのはボイラー室の手前の魔法石貯蔵庫だそうだ。貯蔵庫といっても、すぐにボイラー室に運べるよう巨大なシャッターは開けてあるらしい。なぜわかるかというと、昨日艦長さんからこの船のどこに何の部屋があるか詳しく記してある図を貰ったからだ。ただし、紛失防止に一週間だけ。まさかこんなことに使うこととなるとは思いもしなかった。助かった・・・。

 



 5分もしないうちに、部屋を出る前に渡した袋を魔法石でいっぱいにしてファズは戻ってきた。図で見る限り5分で帰ってこれるような距離じゃないが・・・。凄いな・・・。

 「ありがとうファズ!」

 「ハァ、ハァ・・・僕もうへとへと。」

 あり得ない早さで帰ってきたんだから仕方あるまい。

 「大丈夫?」

 「うん!大丈夫。それよりユウト、それをどおするの?」

 「うん・・・食ってみる。」

 「え!?そんなもの食べて大丈夫なの?」

 ファズがめちゃくちゃ驚いている。

 「でも、他にどうもできないから・・・。理屈では上手くいくと思うんだけど。」

 俺は魔法石に鼻を近づけてみた。魔法石は真黒で、まるで石炭のようだ。しかし、別にこれといって匂いはない。俺の敏感になった嗅覚でさえ分からないほど無臭。そのまま山ほどある石の一つを口にくわえた。そして、そのまま呑み込んだ。正直、味わってみたいとかそういうのは一切なかった。まるで石を呑み込む感覚。石なんて呑み込んだことないけど・・・まぁこんな感じだろう。


 しばらくして、まだひとつ食べただけなのに魔力が回復した感じがしたので早速変身してみると、いとも簡単に成功した。あぁ良かった。

 変身後の服装は昨日寝る前に着換えた寝間着だった。ファズと一緒にまたベッドに入って、決められた起床時間まで寝なおすことにした。起床時間は午前9時だ。随分遅いと感じたが、臨戦状態でないときはこれが普通らしい。







 俺は、8時ごろに激しい腹痛に襲われて目ざめた。これはもうたまらないくらいの。あまりにも急な展開で申し訳ないが、俺にとっても急なことで吃驚だ。

 ファズの言うとおり食って大丈夫なシロモノじゃなかった!まぁ他になすすべはなかったけれども・・・。

 

 

 結局、朝礼に出席することはかなわず、俺が寝坊していると思って部屋に来たヴァイスさんに事情を伝えた。

 「おいおい、来て早々大丈夫か?まぁ早く元気になれよ。」

 はい、と俺は力なく答えた。すぐ直るといいな。

 「あと、お前に伝えておかなきゃならんことがある。」

 「なんですか?」

 「そろそろこの船はまた移動を始める。だから、故郷の島も見納めだということ。もうひとつは、お前の配属のことだ。この船に乗った限りは、客としてではなく船員として立派に働いてもらう。ただ、それは調子が治ってからゆっくり話そう。隊長が良くなったら教えてくれ。」

 「分かりました。僕もただで乗せてもらおうなんて思っちゃいませんよ。」

 「おう!その意気だ!頑張れよ。」

 


 ヴァイスさんは、しっかり自分の故郷を目に焼き付けておくんだぞ。というと、軽くほほ笑んでから部屋を出て行った。

 「ファズ、あの島も見納めだって。目的地に向かうために長居は出来ないみたい。」

 「そう・・・なんだか寂しい気はしないでもないけど、これから何が起こるかわくわくしてるよ!」

 「俺も。」

 だいぶ腹痛も楽になってきたかも・・・。


 俺・・・どの部署に配属になるかな。


 

 船は汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き始めた。

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