第八話
部屋に戻った。
実際のところ、艦長さんから聞いた国際情勢の話は明るいものではなかった。でも、まだ俺はこの世界のことは関係ないと思う心が強いらしくそこまで気落ちすることもなかった。だが、この世界においてはとても恐ろしい出来事であるそうだ。なぜか。
現在、ラウド帝国とフィボナ王国は戦争状態にあり、俺が乗り込んだこの戦艦「フリーダム」は、そのどちらでもないジャハル共和国の物である。どうして関係のない国の軍艦が単独で行動しているか。それは、ある戦争の記録を残した書物の一節から説明しなくてはならない。それは大昔、人間が今よりもすぐれた魔法技術によって栄えていた時代のこと。驚くことにこの世界は魔法が俺の住む(住んでいたの方が正しいかな)世界で言う科学に当たるもののようだ。まぁ、そんなことは置いといて。その書物にはこう書いてある。
「それは突然のことだった。強い光が辺りを覆ったと思うと、それが光ったと思った瞬間、激しい爆風が私を襲った。私は気を失っていたのか目を覚ました時には廃墟となった知らない街に吹き飛ばされていた。とても恐ろしい体験だった。」
この後、地上は原形を失くしてしまうほどの異常気象に襲われたそうだ。地上の生物の大半が死滅し、生き残った者もそのほとんどが原因不明の病で亡くなったらしい。そのせいで、今は広大な海の中に小さな島が浮かぶだけとなったのだろうか・・・。
その光、爆風、異常気象によって世界を破滅に追いやったものは最近の調査で、掌で包み込むことができるほど小さな超高純度の魔法エネルギーの結晶体だと分かった、それを爆波動結晶と呼ぶそうだが、なぜそんなことが分かったか。それはそれを開発していた国の研究資料が発掘されたためある。良く見つけたもんだ。随分骨の折れる仕事だったに違いない。
話はかなり脱線したが、その爆波動結晶と思われるものをラウド帝国が開発しているという情報が入ってきたために、「フリーダム」はそれを確認するため中立国としてラウド帝国へ派遣されたらしい。今はラウド帝国へ移動している最中だそうだ。
ちなみにこの戦艦「フリーダム」はジャハル共和国唯一の戦艦で、国の英知を集結させて完成されたのが、この戦艦だという。なんかすごいな。しかしながら、なぜ一隻しか造ることが出来なかったかというと、単純に資源の問題だ。この世界のどの国も小さな島々で(ジャハル共和国は大きい方らしい)構成されており、戦艦を造るほどの資源はないという。
ところで、「フリーダム」の動力はやはり魔法エネルギーらしい。魔法学者たちが開発した魔法石製造機が船の動力となる魔法石を生産している。原料となる魔法力は人の活動エネルギーから生まれるため、船員が戦闘訓練をする部屋に魔法石製造機が設備されている。なんて都合がいいんだ。クリーン過ぎるよ本当に。
あと、もうひとつ言っておかなければならない重大なことがある。それは、この世界には飛行機がないことだ。だったら偵察とか出来ないじゃないか!と思うかもしれないが、心配ご無用。その代わりにドラゴンがいるそうだ。この船にも30頭ほどが乗っている。それを聞いた時は俺と同じ種か?と思って艦長にどんなのか聞いてみたら。
「大きさは馬くらいで腹側は白、背中側は緑色だ。馬ほどの大きさであることからホースドラゴンと呼ばれている。まったくもってそのままの名前だ。」
そうですね、ははは。とか言いながら落胆していたが、ついでに自分のことについてもばれないように聞いてみた。
「あの、もうひとつ質問したいのですが、全身が深い青色のドラゴンってご存知ありませんか?」
艦長は驚いた顔をして、それはどこで知ったかと聞いてきた。俺は母から聞いたと嘘をついたが、重要なのはここからなんです。
「うむ、それは恐らくエルデドラゴンと呼ばれる君の言うとおり深い青色の鱗を持ったドラゴンのことだろう。しかし、そのドラゴンは太古の昔、戦いの歴史の中人知れず現れ去っていく、自分が信じる正義の道を突き進んだドラゴンだといわれている。そして、そのドラゴンがついた側は必ず勝利したそうだ。だがそれはあまりにも古い話で、今では伝説として語り継がれている。」
・・・俺、そんな凄いドラゴンなのですか、そうですか・・・。なんてふざけてらんねぇ!どうしてそんなドラゴンに俺が・・・いや、まだ決まった訳じゃない。まだ決まったわけじゃ・・・。
「他にはいないのですか?」
焦り過ぎて、怪しい質問しちゃいました。あらら。
「あぁ、だがなぜそんなことを?」
ああぁぁぁぁぁ!やばい。これはやばい!なんて思いつつ一生懸命嘘をついて艦長を納得させました。はい。このままじゃ嘘つきになってしまいそうで怖いです・・・。
こうして俺はたくさんの知識を身につけることが出来た。俺以外の種類のドラゴンとか見てみたいし、いつかヴァイスさんに竜舎まで連れて行ってもらおうかな、いや迷惑かけたくないから一人で行ってみるかな。なんて思いつつ俺はメモ帳をポケットにしまった。そういえば学生服を着てたんだっけ、なんだかこっちに来た時よりも前にいた世界のことが薄れてきている気がする。もしかして俺、全て忘れちゃうのかな・・・。
ただ自分が通っていた高校の学生服が、俺に前の世界のことを思い出させた。思い出は一切頭の中に残っちゃいないけど。友達と思われる人間の顔を思い出すたびに、こいつとはどんな関係だったんだろうとか想像してみたりする。なぜだか涙が俺のほほを伝った。押しとどめていた発生源の不明な恐怖と寂しさがあふれてきた。
しばらくして、心配そうにファズが俺に寄り添ってきた。
「どうしたの?ユウト。」
「ううん、なんでもない。」
ファズ、心配してくれてありがとうな。お前がいるから俺は今まで孤独じゃなくて済んだんだ。
俺の心が落ち着くまで、ファズはそうしていてくれた。