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第七話

 しばらくファズを思い切り抱いていた。これでファズの恐怖がやわらぐなら、いくらでも抱いてやる。かわいいから。なんて・・・。そんなことを考えていたとき、ファズが話しかけてきた。

 「それに・・・。」

 「何?」

 「もしかしたら・・・離れ離れになってしまった仲間も探すことができるかもしれないでしょ?」

 こんなに仲間思いの強いやつです。それに、ファズは優しいやつです。こっちに来た時の寂しさを吹き飛ばしてくれた。

 「きっと、会えるよ。俺、ファズが仲間と会えるの願ってる。」

 ファズが俺の言葉に返事を言おうと口を開いた瞬間、入り口のドアがゆっくり、ギィィィときしむ音とともに開いた。

 入ってきたのはヴァイスさんだった。

 「ユウト、お前をこの船に乗せることが正式に許可された。だから、もう一度言わせてもらおう・・・よろしくな!」

 何回目だろう。でも、何度言っても新鮮に感じるのはなぜだろう。

 「ではこちらも・・・何度目か忘れましたが、よろしくお願いします!」

 また握手を交わした。

 ところでファズはというと、何のことか分からないというように首をかしげている。

 「どうしたの?おじさんが何を言ったか教えて!」

 今になって気付いたけどファズと話せるのってもしかして俺だけ!?

 「えっと・・・正式にこの船の乗船を許可してくれるって。」

 「やったねユウト!」

 「うん、やったよ!」

 あまりにもファズが嬉しそうだったので、ヴァイスさんを気にすることをすっかり忘れていた。

 「ユウト、お前・・・オオカミとしゃべれるのか?」

 ヴァイスさんが目を丸くしてこちらを見ている。しまった、これは本当にまずい。なるべく自分が人間とは違う存在であることを隠さねばならないのに。

 「い、いえ。なんとなくファズが思ってることを推測して話してただけであってそんな。ハハハ。」

 最後は笑いでごまかそうとした。どうか怪しまれませんように!っていうかこの時点で十分怪しいか・・・。

 「ガハハハ、そうだよな!人間が動物と話せたら苦労しないもんな。」

 盛大に笑ってヴァイスさんは返してきた。そうです、それでいいんです。

 一瞬背筋凍ったし。危ないところだった。今度からマジで気をつけよ。

 「ところで、艦長さんにお礼を言いたいのですが、どこが艦長室ですか?」

 こういうときは早めに話を変えるべきでしょ。

 「うーん、説明しずらいな。仕方ないから俺が送ってやるよ。」

 なんて優しくて気さくな方なんだ、本当に。

 「助かります。」

 俺は一礼した。





 艦長室は第一艦橋の司令室の下にあった。扉の前まで来たところで、ヴァイスさんが、

 「俺はここで待っててやるから、艦長にしっかり礼をいってきな。」

 「は、はい。ありがとうございます。」

 正直ものすごく緊張してます、俺。ヴァイスさんはそれを察したのか、艦長は別に怖い人間じゃないから安心しろ。と言ってくれた。でも、緊張するもんは緊張するんです。

 ヴァイスさんに背中を押されながら俺は艦長室の扉をノックした。

 「今日からこの船に乗せていただくことになったものです。そのことでお礼を言いたく存じますので、にゅ、入室の許可を願います!」

 これは正しい言葉なのだろうか・・・、なんとなくそれらしく言ってみたつもりだが、噛んでしまった。恥ずかしい。

 「どうぞ、入りなさい。」

 おじいさんの声が聞こえてきた。たぶんこれは艦長のものだろう。

 俺は重い扉を開けた。

 

 「失礼します。」

 「はいはい。そこの椅子に座りなさい。」

 「ありがとうございます。」

 艦長の座る椅子から大きな机をはさんだ艦長の正面の椅子に座った。

 中に入った時の印象は艦長室と聞くほど物々しい雰囲気ではなく、なんというか普通の乗組員用の船室を少しだけ広くしたような部屋だった。艦長は、白髪に白髭、艦長を示す帽子をかぶっている以外はその辺にいるおっさん・・・失礼しました。優しそうなおじさんです。はい。

 「名前は?」

 「ユウトと言います、こいつはファズって言います。よろしくお願いします。」

 「私の名はガルス、この船、「フリーダム」の艦長だ。よろしく頼む。ところで、君はオオカミを狩っているのかね、珍しいねぇ。」

 「そうなのでしょうか、僕はあの島から出たことがないので。」

 実際にそうだ。俺がこっちに来てからは。

 「しつけがよくできているんだね、君の横に静かに座っていることから伝わってくるよ。」

 「ありがとうございます!でも、ファズにしつけをした覚えはありません。ファズは僕の友達です。」

 「ふぅん、自分とは違う種の動物を友達と言うか。いいなぁ。ところで、オオカミを狩っているところから見て動物は嫌いではないだろう?」

 「はい、というより、動物は好きです。」

 「そうか、私も動物が大好きでな、君とそのオオカミのような関係を見るとついうらやましくなるんだ。」


 

 そのあといろいろな話題で盛り上がった。艦長はヴァイスさんの言うとおり怖い人ではなく、話しが上手で面白い人だ。時折見せる笑顔が、なんというかかわいらしい。船に乗ること選んでよかった。

 



 艦長さんとの話が終わるころには1時間が過ぎていた。話に夢中で時間の経過をすっかり忘れていた。でも、「島から出たことない」を口実にこの世界の話がたくさん聞けて良かった。俺の無知さにたまに驚かれたりしたけど。部屋に帰ってメモしたこと見直そう、実際、話し上手な艦長の話をメモするのに一生懸命で、あまり真剣に話が聞けてない。何とか帝国やらなんやらいろいろ知らない単語ばっかりだったし。

 艦長室を出ると、ヴァイスさんは扉の横であぐらをかいて寝ていた。長々と待たせてしまってごめんなさい。そう言ってヴァイスさんを起こした。怒られるだろうか・・・。

 「おぉユウト、いろいろ話聞けたか?艦長の話は長いから、これくらいのことは覚悟してたから大丈夫だぜ。」

 「おかげさまでいろいろな面白い話も聞かせて頂けましたし。」

 「それはよかった。じゃあ部屋に戻ろうぜ。」

 「はい。」

 「ユウト~。部屋に戻ったら艦長とした話聞かせてね~。」

 ファズが俺の足に寄りかかって来た。ヴァイスさんに気づかれないよう、俺は小さく微笑んでうなずいた。

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