第六話
さっきまで自分のことで頭がいっぱいでファズの方を気にしていなかったから気付かなかったけど、ファズは恐ろしいものでも見ているかのように震えている。どうしたんだろう、俺みたいに緊張しているのか・・・?
「ファズどうしたのそんなに震えて。」
「え!?いや・・・。今まで忘れてたんだけど、この島に流されて来る前のことを思い出したんだ。」
!?なんだって?ファズもこの島に来る前の記憶を失っていたのか!
「何か恐ろしい体験でもしたの?」
「うん、実は僕ラウド帝国の軍艦に乗せられていたんだ。僕は何の話も聞いていなかったからどこに連れて行かれるのかは知らなかったけど・・・。」
「それで、何があったの?」
ファズは普通の記憶喪失らしい。ラウド帝国とか知らない単語が出てきたけど、そのままファズの話を聞くことにした。
「それで・・・その船は順調に航海を進めてたんだけど、ある晩大きな嵐に襲われて、そんなに大きな船じゃなかったから簡単に転覆しちゃったんだ。人間たちは僕らのことを放って緊急時用のボートですぐに逃げちゃったから、僕は取り残されてしまって・・・。その時は仲間も一緒だったけど、どうにかして生き延びようと必死に泳いでたらいつの間にか気を失ってて・・・。」
仲間と離れ離れになったうえに、果てのない海を泳ぐ恐怖で、この島に流れ着いた時にはショックのあまり記憶を失っていたんだと思う。とファズは付け加えた。
「怖い思いをしたんだね。」
「うん・・・。あのときは本当に死を覚悟したよ。」
無情にも、小さなボートはすぐそこまで近づいてきていた。
そのボートには二人の男が乗っていた。陸に上がって俺たちの前まで来てこう切り出した。
「私の名はヴァイスそしてこいつはハルクだ、よろしく頼む。」
ヴァイスという名の男はがっちりした体型でとにかく腕っ節が強そうな感じがする。赤い髪が特徴的な人物だ。それに比べハルクという男は逆に俺より背が低くやせ形で弱そうなイメージだが、とても賢そうな顔をしている。
「こちらこそ。僕はユウト、こいつは親友のファズ・・・で、あなた達は何をしに来られたのです?」
「突然あんな軍艦で訪れて驚かせてしまってすまない。実際はこの島に人がいることを知った我々の方が驚いたのだが・・・。」
ヴァイスは頭を掻きながら言った。人間が(本当はドラゴンだけど)いることはそんなに珍しいことなのだろうか。
「まぁ・・・本題に入らせてもらおう。」
どんなことを言い始めるかな?俺とファズはヴァイスを無意識にじっと見つめた。
「そんなに見つめないでくれ、話ずらいから!ちょっとこの島の食料をもらえないか頼もうとしてるだけだ。この島を制圧しようとかそういう野蛮なことは一つもするつもりはない。安心してくれ。」
「分かりました、食糧は持って行ってもらって構いません。ただ・・・。」
「ただ・・・?」
ここから今朝ファズと一緒に考えたシナリオの出番だ。
「実は・・・僕、先日両親を亡くしたばかりで身寄りがないんです。だから、あなたたちのあの船に僕らも一緒に乗せてもらえませんでしょうか・・・?」
完全なる作り話だし、役者じゃないから涙は出せなかったけど、顔を伏せてなるべく悲しそうな演出をして見せたつもりだ。
「!?」
二人が息をのむ声が聞こえた。
しばらくして、ヴァイスさんが語りかけてきた。
「そう・・・だったのか。寂しかったろう?これからは俺たちが面倒を見てやるから・・・。」
え!?・・・明らかに涙声だ。
「でも、艦長が・・・!」
ハルクが止めたが、
「うるせぇ!じゃあお前はこんな少年をひとりでこんな孤島にほっとけっていうのか?艦長には俺が後から話をつけておくから。・・・ユウトといったな、少年。顔をあげてくれ。」
顔を上げると、そこには目に涙を浮かべたヴァイスさんがいた。完全な嘘でこんなにも人の感情を左右してしまうと、なんだかすごく罪悪感を感じる。
唐突にがしっと腕を掴まれて握手をさせられた。
「これから君は俺たちの仲間だ!俺が乗船を許可する!」
「ありがとうございます!」
あまりにも上手く行きすぎてやばい。ただ、ファズは不安そうな笑みを浮かべていたが、僕もユウトが行くならついていくよ。って言ってくれた。
船員たちが島から食糧を調達し始めた頃、俺とファズは軍艦の甲板の上に立っていた。遠くからでは実感がわかなかったが、近くで見ると超巨大な戦艦であることが分かった。まるで戦艦大和みたいだ。まぁ写真とかでしか見たことないけれど。巨大な主砲を3基搭載している。なんというか、たのもしいなぁ。
でもなんでこんな戦艦を作る必要があったんだ?まぁいいか、後で誰かに聞いてみよう。
俺たちはハルクさんの案内でこれからの生活に必要なことを全て教えてもらった。まずトイレの位置、船があまりにもでかいため迷子になってトイレにたどり着けない例もあるそうで、これは要注意だ。次に食堂、どの部屋へ行くにも迷子になる可能性があるため結局どれも要注意なのだが、食堂は船室への入り口から少し入ったところだから大丈夫だろう。それらいろいろなことを教えてもらい、最後にこれからお世話になる居住スペースである船室に案内された。乗組員が少ないため個室だし、まだまだたくさん空き部屋があるらしい。その辺考えて作れよ!とか思ったりもしたが、自分たちが寝泊まりできるスペースがあっただけでも感謝しなきゃね。
「分からないことがあったらまた訪ねてくれ。俺の部屋は101号室だ。間違えるなよ?」
ハルクさんはそう言ってほほ笑むと、部屋から出て行った。
「ファズ、怖くない?」
「う~ん、怖いけど・・・。今はユウトがいるもの!ユウトは僕のこと見捨てて逃げたりしないでしょ?」
「もちろん!ファズのことは絶対に、何があっても守って見せる!」
ファズは半端ない恐怖を顧みずに俺についてきてくれたんだ。俺が見捨てるなんてことは絶対にあり得ない。
「だから安心して。」
ファズを思いっきり抱いてやった。