第五話
俺は見てはいけないものを見てしまったかもしれない。俺の目の前に広がっていたのは海、ただそれだけ。島1つ無いまっさらな海だった。何この半端ない孤独感は。ファズが流れ着いたくらいだから、近くに島でもあると思ってたのに・・・。
他の島には人間がいるのではないかと期待していたが、島自体見当たらないのだ。
「いつかファズを連れて島探しの旅にでも出るか。」
なんとなく少しの希望を残しておきたくて、それ以上高く飛ぶのはやめた。
ファズのもとに戻ると、ファズは既に魚を食べ終わっていた。
「美味しかった?」
「もちろん!捕ってきてくれてありがと。」
「いつでも頼んでくれたら捕りにいくから、また食べたくなったら教えて。」
「分かった!」
俺のこれからの日常はこんな感じで過ぎていくのか。まぁこれも悪くないかな。なんだか前の世界では忙しい生活送ってた感じが強いし・・・。たまに少しだけ前の世界のことを思い出す。どんな世界に住んでいたかは分かるのに、そこで生きていた思い出は一つもない。
ファズとの生活が始まっておよそ3か月が過ぎたある朝、俺たちの日常を揺るがす大きな出来事が起こった。島の近くで船の汽笛が聞こえたのだ。ドラゴンになって聴力が上がっていたため本当に近くかはさだかじゃないけど。
早速空高く上がってその方向を向いたが、船が近づいてきていることよりその船の形に驚いた。・・・
なんとどう見ても戦艦だ。主砲、副砲、艦橋、どう見てもあれは戦艦にしか見えない。それに、でかい!ここに来た時からファンタジーの世界ばかり想像してたから、木造かなんかだと勝手に思ってました・・・。
その船は、どんどんこちらに近づいてくる。まずい、何がまずいかわからないけどまずい気がしてきた。ファ、ファズを起こしに行かなきゃ!
「ファズ!起きて!」
「な~に~。」
いつも呑気なところがかわいい・・・なんて思ってる場合じゃない!
「なんか船が近づいて来てるんだ。どうしよう。」
「船?なんで?」
「分からないけど、さっき汽笛が聞こえたと思って空から見てみたらでっかい船だった。」
「ユウトやばいんじゃない?人間に見つかったら何されるかわからないよ!」
人間・・・なんだかその単語に懐かしさを感じる。会ってみたい気もあるが、ファズの言うとおり何をされるかわからないのが怖かった。
「どうすればいい?その船この島に近づいてるの。」
「う~ん。」
ファズも眉間にしわを寄せて考えている。超表情が豊かなオオカミだなぁ。いや、そんなこと考えてる暇はない!集中集中。
俺が人間に見つからないようにする方法・・・。何があるだろう。小さくなる・・・いや、出来ない。もしも見つかって攻撃されたときに抵抗のしようがないし、俺小さくなれるのか?洞穴に静かに隠れている・・・いや、駄目だ。見つかる可能性がある。どうすればいい・・・。
数分考えたあげく、俺は一つの結論に達した。ドラゴンは魔法を使えるとどこかで聞いたことがある・・・。それを今から初めて試すわけだが上手くいくだろうか。
俺は目を閉じた。精神を統一して、頭の中の想像を現実と思うほどまでリアルにする・・・。
だんだんと、俺の体が変わっていく感覚があった。上手くいっているのかもしれない!それが止まって、俺は目を開くと、ぽかんと口を開けたファズがいた。
「ユウト・・・変身できるの?」
「上手くいってる?」
「うん・・・でも、ニンゲンになってどうするの?」
「俺がドラゴンだとばれないように、人間の中に隠れるのさ!いい考えでしょ?」
「う~ん、そうかなぁ~。」
ファズはあまり納得できない様子だ。
「でもそれ以外策は思いつかないからそれでいいや。ところでどんな人間を想像したの?思った通りになてるか教えてあげる!」
「え!?いいよ~。どんなのでもファズが人間に見えたならそれで。」
以前の俺を想像したなんて口が裂けても言えない・・・。
「でも、服が上下ともまっ黒だよ?」
ファズに言われて初めて気付いた・・・これは、俺の高校の制服じゃないか!まぁ・・・別に誰に見られようとそんなこと相手は知る由もないが。ただ、一日中この格好は過ごしにくい気がする。
そのあと海岸に出て船の動きを観察した。警戒するように島を一周したその船は、俺たちのいる近くに止まって、重そうな錨をおろした。
しばらくして船から小舟が一艘出てきて、俺たちの方にまっすぐ向かってきた。
こうなることは分かっていたが、現実になるとめちゃくちゃ緊張してきた。大丈夫だ、ファズと何を聞かれてもいいように言い訳を考えたじゃないか。
俺たちはその小舟が島に着くのを待った。