第1章 第7話
理不尽をかみしめた昼休み。
上の空で授業を受けて、気づけば放課後。
バイトに向かう為に帰ろうとすると、昼休みから今まで教室にいなかった光一がこっちにやってくる。
「大和ー。昼休みどこいってたんだよ? ずっと探してたんだぞー」
拗ねたような声で俺を呼ぶ光一。
「? 昼休みなんかあったっけ?」
「ひどい! 俺との事は遊びだったんだね!」
大げさによよよと泣いたフリをする光一。
ちょっと気持ち悪い。
「男相手に真剣も遊びもあるか! ていうか誤解を招くような発言するな!」
ほら見ろ。
教室内の女子がひそひそ話しながらこっち見てるし、汚い物を見るような目で見るやつもいれば、なぜか目を輝かせてるやつがいるじゃねえか。
これから、女子の見る目が変わったらどうすんだよ。
「あとで、お前ちゃんと誤解解いておけよ。んで、昼休みなんかあったっけ?」
「俺と飯を食うって話してたじゃんかよー。忘れたのかー?」
……そういえば、そんな約束もしてた。
彩夏が挙動不審に俺を飯へと誘うから、そのことで頭がいっぱいになって約束なんてすっかり忘れていた。
「そういや約束してたな。悪い」
「本当だよー。俺今までずっと探してたんだぜ?」
「そ、そうか。本当にすまん」
「そのせいで5限と6限受けられなかったぜ」
「いや、それは嘘だろ」
なんで昼休み終わっても探してるんだよ。
「嘘じゃないって! 大和の身になにか起きたかもしれないって思って学校中探してたんだ」
「ただお前が授業サボりたかっただけだろ」
「親友を疑うのか!?」
「疑うも何も事実だろ。じゃあ、なんで携帯に連絡しないんだよ」
心配してたなら、携帯に電話して連絡がつくかつかないかで判断した方が探すよりよっぽど効率がいい。
「それは、俺が寝……」
「ね?」
言いかけた文章を必死に考える光一。
「……俺がネ、ネクロマンサーだからさ!」
「はあ?」
ごまかすにしても随分と素っ頓狂な事を言い出すな。
「なんで、ネクロマンサーだと携帯に連絡しないんだ?」
どんないいわけが飛び出すんだか、楽しみだ。
「ネクロマンサーは古の力を使うから文明の利器は使えないんだ!」
ネクロマンサー、ずいぶん不器用だな!
「なーにが、ネクロマンサーよ。寝てたんでしょ」
いつのまにか彩夏も近くに来ていて、光一の見え透いた嘘をつぶす。
「寝てなんかねーよ! ただ、なんか綺麗な花畑があったから歩いてただけだ!」
「それを寝てたって人は言うんだよ」
そもそも花畑とかこの真台学園にはないしな。
「絶対違うって! んで、花畑の奥の方でさー。死んだじいちゃんが手招きしてんだよ」「「臨死体験!?」」
俺と彩夏の声がハモる。
俺らが授業受けてる間に一体なにがあったんだ?
「じいちゃん、なんか川の近くにいて危なっかしくてさー。こっちに呼んでも手招きするだけでそこから動かねえの」
「お前! その川は三途の川だ!」
「んで、仕方ないからさー。じいちゃんの所に向かおうとしたんだよね」
「だめえええええええ」
「お? なんだよ彩夏。女の子がだめえええなんて卑猥だぞ」
「死ね」
「ストマック!?」
彩夏の抉るような拳の軌道。
そして光一の鳩尾を穿つ拳。
ストンと崩れ落ちる光一。
一連の流れが綺麗すぎてどこか芸術的だ。
そして、自分が食らわなくてよかったと思う。
どんどん彩夏の拳は鋭さを増していくな。
いつか、人を殺せるんじゃないか? っていう思いは伏せておく。
「んで、一体何があった」
「いや、わかんね。気づいたら花畑にいて、これまた気づいたら階段の踊り場だった」
階段から転げ落ちたのか……。
自称ネクロマンサーも自分が死んだらどうしようもないしな。
ともかく、大事がなくてよかった。
「もう、気をつけてよ。で、大丈夫なの?」
「おう! 頭も体も大丈夫だぜ」
「!?」
両手を口に当てて愕然とする彩夏。
「そんな……。光一の頭が大丈夫なんて……。大丈夫じゃないわね。病院行こう?」
「どういう意味だよ!」
「そのまんまの意味よ」
「まあ、光一の頭はおかしいからな」
「大和まで!?」
「さて、光一の頭以外が無事だっていうのが解った所でそろそろ帰ろうぜ」
わめく光一は置いといて、帰る支度を始める。
そろそろ帰らないとバイトの時間に間に合わない。
俺の声を聞いてみんな帰る支度をした。
夕暮れ始めた街を歩く俺と彩夏と光一。
幼なじみっていうのは、幼い頃からの知り合いって事で。
つまりは、全員の家が近いから学校からの帰る進行方向も同じ。
部活に入っていない彩夏と光一、そして俺で帰宅するのがいつもの流れだ。
他にも二人幼なじみがいるが、そいつらは生徒会、コーラス部に所属していて毎日帰りが遅く、俺らの帰宅時間と合う事が少ない。
だから、今日もいつも同じみのメンバーで。
「あー、今日は暇だ」
ダレながら言う光一。
「今日も。でしょ?」
つっこむ彩夏。
「今日も。だな」
追い打ちをかける俺。
「仕方ないだろー。俺別にバイトも部活もしてないしさ」
「働けばいいじゃない」
「働きたくないでござる」
「じゃあ、勉強しなさい」
「えー、勉強なんてつまんないじゃんかよー」
「つまんなくてもやるのよ。あんたと違って授業サボったりしない大和を少しは見習いなさいよ。ねえ?」
「俺は授業料がもったいないから出てるだけだ。勉強なんてつまんないからな」
こっちが予め払ってるお金をドブに捨てるような行為はしたくない。
もったいないし、元が取れないからな。
「解ってるじゃんかー。さすが大和。俺の同士」
光一が仲間を見つけたといった感じで、腕を俺の肩に置いてくる。
「ちょっと大和。光一をあまり調子に乗らせないでよ」
仲間はずれになった彩夏がむくれながら言う。
そんな事言っても、勉強はつまらないしな……。
「はいはい。大和ー。こんな真面目っこは置いといて俺と遊びに行こうぜ」
「悪い。今日はバイトだ」
「マジかー。今日もストアバレーかー」
ストアバレー。
英語で書くとstore valley。
俺たちが住む卯谷市に出来たショッピングモール。
名前の由来は、卯谷市から漢字一つを取り、それと店という単語を英語にしてくっつけたっていうのと、入り口から入ると両サイドに1階から4階までお店が建ち並んでいるのが文字通り店の谷に見えるからというのがあるらしい。
街おこしを目的に最近出来た複合商業施設で、スーパーなどの食品関係からドラッグストアなどの薬品関係など。他にも若者向けの服飾関係のお店や漫画喫茶やダーツバー、ゲームセンターなどの娯楽施設などがある。
正直な話、ここに来れば大体の物がそろう。
卯谷市は、栄えている街と街に挟まれた場所で、卯谷市自身はそこまで栄えていなかった。
それが最近になって、栄えている街と街に挟まれている為、交通の便が悪くない事や人口の多さに一つの企業に目をつけられたらしい。
詳しい事は解らないが、便利になることはいいことだ。
今までは、場合によっては隣町まで行かなきゃ行けなかったのが全部ストアバレーで済むようになった。
便利になったよなあ。
そして、このストアバレー内にあるスーパーが俺のバイト先である。
「大和も毎日大変ね」
「生活の為だからな。きりきり働かないと生きていけない」
こんなにきりきり働いても生活は楽にならないんだから、世の中ってのは本当に辛く出来てる。
「でも、明日はちゃんと休みなんでしょ?」
「ああ、休みはしっかりと取ってある」
明日は今日いないやつも合わせて幼なじみ5人でうちに来て遊ぶ予定だ。
突発的に日にちが決まるが、最低でも一ヶ月に一回はみんなで遊んでいる。
「明日はいいんだよ明日は! 明日より今日だ! くそー。大和はだめかー」
刹那的な言葉を放つ光一。
「悪いな。帰って勉強でもしてろよ」
今日授業サボった事を置いといたってお前の成績はいつも赤いんだから。
「仕方ない……」
お? 光一が珍しく勉強するのか?
これは明日は空にオーロラが出るんじゃないか?
「じゃあ、彩夏! 遊びに行こうぜ!」
そんなことはなかった。
明日も晴れだ。
「え? 勉強はしないの?」
「明日から本気出す!」
「おいおい……。それはダメ人間のセリフだぞ」
「そうと決まったら彩夏行こう!」
彩夏の手を強引に取り、走り始める光一。
「ちょ!? ちょっと!? 私一言も行くなんて行ってなあああああああああああああああああい!」
そして引きずられる彩夏。
「じゃあな大和! 後で遊びにいくー!」
なんかダメ人間のセリフを言った後で走り出すとダメ人間街道を突っ走ってるような錯覚に陥るな。
そしてそれに巻き込まれる彩夏。
面白い図だな。
そんな事を思いながら俺はバイトへと向かった。
読んでいただきありがとうございます。
宿なし娘と貧乏少年 第1章 第7話いかがだったでしょうか?
今まで毎日0時ぐらいに更新していたのについに日が空いてしまいました。
少し忙しくて書けませんでした。
。゜(゜´Д`゜)゜。
第1章の間は毎日更新したかったのになあ……。
まだ忙しくはあるんですがこれ以上は日が空くのはいやだと思って早起きして書きましたw
もし、お待ちいただいてる方がいたらすいませんでした。
今回は大和、光一、彩夏が三人いるシーンを初めて書いたわけですが、こいつらの話はいつまで続くんだと戸惑うこともあったりしましたw
今回字数が今までで一番多いです。
もしかしたら読みづらいかもですね。
すいません。
さて、前々回の後書きで第1章は7話構成と言いましたが実は違いました。
数え間違えしていてやっぱり8話構成でした。
紛らわしくてすいません。
なので第1章は残すところあと1話になります。
次回はついに宿なし娘と貧乏少年が出会います。
どういう会い方をして、どういう関係になるのか。
乞うご期待。
誤字、脱字訂正、感想、ご意見お待ちしています。
していただけるととても喜びますのでよろしくお願いします。
以下、感謝の言葉。
PV数(アクセス数)が1000を超えました!
そして大体の閲覧者数が200人超えました!
皆様ありがとうございます!
『小説家になろう勝手にランキング』コメディー部門42位になりました!
びっくりしました。
正直信じられませんでした。
もう、本当にありがとうございます!
ここまでがんばってこられるのもひとえに皆様のおかげです。
これからもがんばって行きますのでよろしくお願いします。
次回更新は近日を予定しています。
出来れば明日の0時ぐらい……に更新したいと思ってます。
現状だと少し厳しいですがw
それでは次回、お会いしましょう。




