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第1章 第6話

なんだか緊迫した空気の中、屋上へと向かう俺と彩夏。

屋上に向かう間もずっと無言だ。

最上階にたどり着く。

最上階は踊り場があり、その奧に屋上へと続く扉がある。

前を歩く彩夏が扉を押す。

軋んだ音を立てながら、扉は開いた。

屋上に出るとさんさんと照りつける太陽の陽射しが眩しくて暑かった。

「あっつい!」

と彩夏が愚痴る。

俺もそれには同感だ。

うだるような暑さっていうのはこういう事をいうんだろう。

真台学園の屋上は、開放されていて自由に出入り出来る。

そのため、昼食や休み時間にここまで足を運ぶ生徒は多い。

今も周りには昼食を取っている生徒達がベンチなどに座って談笑している。

なんでそんな笑顔なんだよ信じらんねぇ。

「あっつい!」

もう一度言う彩夏。

「暑い暑いいうなよ。余計暑く感じるだろ……」

「誰よ! ここで食事しようなんて言った奴は!」

憤慨する彩夏。

でもな、そんなこと言ったのは

「お前だよお前」

つっこみを入れつつも正直な所俺も彩夏と同感だった。

こんな暑い所で何かを食べようなんて気が起きない。

「なあ、今からでも教室に戻って食べないか? 冷房効いてて涼しいしさ」

と、彩夏に提案してみるが

「だ、だめ! 教室はダメなの!」

と、断固拒否の姿勢。

「なんで教室はダメなんだよ」

「なんでも!」

純粋な疑問を投げかけるが、教室が駄目な理由は教えてくれないらしい。

彩夏は強引に俺の手を取り、屋上の奧の方にある給水塔の下にあるベンチへと向かう。

「ここにしましょ」

俺を連れてきた彩夏が言う。

ここは日陰になっていて、この暑い場所でも幾分か涼しく食事をする事が出来そうだ。

俺と彩夏は、自分で持ってきた弁当を自分の膝元に広げる。

俺は、昨日の残り物の煮物と朝カレーを作る時に一緒に作った卵焼き。

それとバイト先の特売であったポテトサラダ。

彩夏は、まだ弁当箱を開けない。

「どうしたんだよ? 食べないのか?」

「あ、ううん。食べる事は食べるんだけど」

彩夏の返事は、どうも歯切れが悪い。

それを聞いて、さっきの彩夏の様子を意識してしまった。

「なあ、彩夏。さっきからどうしたんだ?」

「…………」

彩夏に訪ねるが無言のままだ。

「さっきからやたらと挙動不審だわ、口数少ないわ……。なにかあったのか?」

「…………」

彩夏は押し黙ったまま。

そんな彩夏を見て、箸に手をつける気もせず、俺も押し黙る。

他の生徒が笑っている空間の中、ベンチの上で黙ったままの俺と彩夏。

笑い声が遠くに聞こえる。

「あ、あのね」

おずおずと口を開く彩夏。

「…………」

俺は黙って聞く。

さっきからずっと言い出せなかったことを言おうとしてるんだから、口を挟むのは野暮だろう。

どんなことを聞いても、動じないで受け止める心構えをしよう。

「や、大和はさ、いつも私を助けてくれるじゃない?」

「…………」

「なんで助けてくれるの?」

「幼なじみなんだから当たり前だろ」

だから俺はあまり助けたとか言う考えは持っていない。

正直、彩夏が何を助けてくれたと言ってるのか解らない。

でも、きっと気づかない内に助けて、そして助けられてるんだろう。

「……じゃあさ、今回も助けてほしい事があるんだけど……」

「おう。俺が出来ることなら何だってやるよ」

「私さ、もう本当にどうしようもなくってさ……。今までこんな事なかったのに……。恥ずかしくって言葉に出来なくて……。でも私を助けてほしくて……」

せき止められていた感情が流れてくるような彩夏の言葉。

「でも、言わなきゃなにも始まらないよね。……だから、言うね」

「…………」

俺はおとなしく言葉を待つ。

彩夏から出てくる言葉はきっと俺が考えてるような言葉なんだろう。

俺はその言葉を受けて、どうするか決めなくてはいけない。

「大和……」

こちらを見る彩夏。

昼休みになってから初めて目が合う。

なんだか意識してしまって、その目を見ると心臓が早鐘をうつ。

彩夏の口がゆっくり動く。

「お願い! 私にお弁当のおかずを分けて!」

「……はい?」

……俺は今すごい間抜けな顔をしていると思う。

今なんて言った?

おかず?

なんで、おかず?

あれ? 告白とかではないのか?

え? なに俺の勘違い? これが話でよく聞く勘違い野郎?

頭の中で考えが巡ってる中、彩夏は罰が悪そうに言った。

「いやー、私お父さんと同じ弁当箱を使ってるんだけど、今日お父さんに間違えて私のお弁当渡しちゃったの」

といって、お弁当箱を開ける彩夏。

中を支配するのは白。

ぎっしりと米がつまっている。

おかずはない。

「お父さんこのお弁当箱をいつもふたつ持って行ってて、ひとつはお米だけ、ひとつはおかずだけって感じにつかってるんだ。それが今日は間違えちゃったから……」

手元にあるのはお米だけのお弁当箱。

まっしろだ。

一粒の赤すら存在しない。

ちなみに俺の頭もまっしろだ。

なんで、そんな事を考えてしまったのか……

恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

「なんで、そんな事を恥ずかしがってるんだよ……」

「え? だって恥ずかしいじゃない! 持ってきてるお弁当の中身がお米だけなんて。とてもじゃないけど、他の人になんて見せられないわよ」

だから、教室はダメだったのか。

ここなら、スペースも広いから他の人がなにしてようとみんな気づかないもんな。

「いままで、こんな間違いしたことなかったから私もうどうしていいか解らなくってさ。だから、大和に助けを求めたのよ」

本当、なんて紛らわしいんだろうか。

「そしたら大和ったら、出来る事ならなんでもしてくれるなんて。幼なじみっていいわよね。やっぱり持つべき者は幼なじみね」

彩夏は俺の弁当からひょいひょいとオカズを取っていく。

俺の弁当は彩夏のお箸に蹂躙されていく。

気づけば、おかずはなくなっていた。

「大和の手料理っていつたべてもおいしいねー」

そう言いながら俺のおかずをほおばる彩夏。

彩夏の弁当箱を見る。

おかずがあるからか、あんなにあったお米ももう残り少ない。

自分の弁当箱を見る。

米しかない。あんなにあったおかずは彩夏のお腹の中だ。

大和は、紛らわしいふりをされて勘違いしてしまった事とか少しはおかずを残してくれもよかったんじゃないかとか。

そんな世の中の理不尽をかみしめるように、自分のお弁当を食べ始めた。

読んでいただきありがとうございます。

今回で第1章 第6話になります。

いかがでしょうか?

今回後半の展開の為に前半の文章をくどくしてみたんですが、もしかしたら読みづらいかもですねw

精進します。

結局大和くんの勘違いということでしたね。

まあよくある話ですねw


次回は、大和、光一、彩夏が一緒に帰宅します。

今まで不思議と三人一緒じゃなかった幼なじみ達

こいつらは一体三人だとどんな事になるんでしょうかw

作者も正直予想出来ませんw

乞うご期待。


次回更新は近日予定です。


誤字、脱字訂正、感想、ご意見お待ちしています。

していただけるととても喜びます。


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