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第1章 第5話

昼下がり。

世間一般的には、昼食の時間であり、住宅街の各家庭では料理の匂いが立込めている。

そこを歩く一人の少女。

足取りはとぼとぼとしていて、傍目から見ても元気があるようには思えない。

その目は、どこを見ているのか。ただ虚ろにさまよっていた。

ふらふらとただ街を行く。

きっと、家の中ではお母さんが家族のために食事を作ってるに違いない。

と、今街を行く少女は思った。

きっと、おいしい料理にちがいない。

と、今街を行く少女は思った。

この匂いをかいだ家族の人は、ご飯の事を考えながら嬉しそうに帰宅するんだろうな。

そう思うと、少女は泣きそうだった。

最早、料理の匂いが充満しているこの場所が少女には地獄にしか見えなかった。

ぐるるるる。

少女のお腹が狼の様に鳴いた。泣いた。

「お腹……空きました……」

誰に言うでもなく立ち止まり、少女はつぶやく。

家庭料理っていうのは、どうしてこんなにも匂いだけでもおいしくて、空いたお腹を容赦なくいじめるのか。

手をお腹に当ててみても、空腹感が紛れることもなく。

少女のお腹の狼は泣き続ける。

だが、少女にはそれを止める術がなく、ただ立ち尽くすだけだ。

やがて、体力の限界を迎えたのか、頭はうなだれ、そのまま道の隅でうずくまってしまった。

最初はノリノリだった。

初めて、夜を外で過ごした時は興奮した。

野宿というのも初めてやった。

だが、時間が経ち夜が明けてお昼ぐらいになったらこのザマだった。

少女の家はこの近くにはない。

そして、この近くに頼るべき親戚はいない。

お金なんて持っていない。

そもそも、荷物を持っていない。

お金を100円でも持っていれば、テレビでやっていたパンの耳を買って飢えを凌げたかもしれないと少女は思う。

そうじゃなくても何か荷物を持っていれば売ったりして、少しはお金になったかもしれないとも少女は思ったが、少女はあのときそんな持ち物に気遣う余裕がなかった。ただ必死だった。

そう考えたら仕方がないと少女の心は納得した。

こんな時、頼るべきは己の身一つなのに、この身体はもうこれ以上歩けそうにない。

八方塞がりな状況。

少女の頭の中には色々な考えが巡る。

ご飯が道に落ちてないかな。

どこか家に入って、ご飯をご馳走してもらえないかな。

テレビでやってたようにゴミを漁るしかないのかな。

コンビニとかに行って、余った食べ物を分けてもらえないかな。

それとも、道行く人からお金を奪ってしまおうか。

と、考えて少女はそのどれもが現実的ではなくて、出来そうにない事に気づく。

そして、そんな状況になってしまった自分の今を思うと涙が出た。

しんしんと泣く。お腹の音が止らないと思ったら今度は涙が止らなくなった少女。

どうしてこうなってしまったのか。少女は問う。

決まっている。少女は答える。

どうしようもない事をどうにかするために動いたのだ。手遅れになる前に。

だが、これでどうにかなるのかと言われたら口をつぐむしかない。

それは少女が、一人で考え、一人で実行した事だ。

これが答えとしてあってるかなんて解らない。

でも、あのままでいるのはよくないのは解った。

あのとき取った行動に間違いはない。

後悔もしていないし、反省もしていない。むしろ、誇ってすらいる。

だが、間違っていて、後悔していて、反省している事は後先を何も考えなかった事だ。

お金もなく、なにもなく、一人の人間が生きていけるわけがない。

……生きていけるわけがない……。



――私は、ここでこのまま死んじゃうのかな……。



そう思うと、また涙が出た。

こんな所で、死にたくない。

まだやりたいことがたくさんある。

だが、どうしようもないという事実が少女に重くのしかかった。




…………どれほどそうしていたのか。

ずっとうずくまり、生きると言うことを半ば諦め始めた少女。

ふと鼻腔をとある匂いがくすぐった。

おいしそうな匂い。

少女はもう動かない筈の体を無意識なまま、おぼつかない足取りでその匂いを辿った。

辿った先には、一階建ての家だった。

ぐるぐると家の周りを回る。

中には誰もいないようだ。

窓から家の中をのぞく。

そこにあるものは少女の目を輝かせた。

「カレーだぁぁ!」

その家の台所のコンロに置かれている鍋。

なぜかふたがしまっていないその鍋にはカレーがぎっしりと詰まっていた。

あれを食べたい。そう思った少女はどこか入れる所はないかくまなく探した。

もう、人の家に勝手に入ってはいけないとか、人の物を勝手に食べてはいけないとかそんな考えはもうふっとんでいた。

少女の頭の中はその空腹を満たす事が全てになっていた。

玄関……はもちろんカギが閉まっている。

窓……ももちろんカギが閉まっている。

裏口は……


ガチャ


裏口のドアが開く。


どうやらカギをかけ忘れていたようだ。

少女は遠慮なく人の家に入っていく。

目指すは、台所。

一直線に向かい、カレーの鍋を前にして、少女は突然理性を取り戻す。


どどどどどどどどうしましょう?

これって不法侵入ですよね?

悪い事ですよね!?

しかも、人の物を勝手に食べるなんて!?

そんな事はいけません!


自分を律しようとする少女。

だが。

少女は、ふとカレーを見る。

とてもおいしそうだ。

そんなカレーに、抗う、術なんて、少女は、持っていなかった。


「神様、ここの家主さんごめんなさい!」


といって少女はカレーを貪り食べ始めた。




――15分後――

全てを平らげた少女。

満腹感を感じながら、罪悪感を感じていた。

どうしよう。

お腹はいっぱいになったけど、勝手に人の家に入ってご飯食べるなんて……。

お腹が空いてたからとは言え、許される事……じゃないよね?

どうしよう……。

どうしよう……。

どうし……よう……。

どう……し……よ……。

ど……う…………し………………よ。




少女は船を漕ぐ。

安心して、長い長い船旅へと向かってしまった。

見ず知らずの他人の家で。


読んでいただきありがとうございます。

宿なし娘と貧乏少年 第1章 第5話です。

ついに第1章後半戦です。

前回のあとがきで、第1章は8話構成を予定していると書きましたが、数字の数え間違いをしていて全7回構成予定でしたw

すいません。

なのであと2話で第1章終了です。

第2章書き始めるときは少し時間がかかりそうなのでそれまでは早めに更新していきたいです。はい。

今回また出てきましたね。新キャラ。

……最初からてんぱってますねw

まあなにか重そうな事情があるようですが、それはおいおい。

さて今回お楽しみいただけたでしょうか?

今回は三人称でお送りしたわけですが、あまり笑いとか挟んでないですねw

コメディーとしてはあるまじき事だw

まあ、いつもも笑いを無理に入れたりとかはしてないんですけど(マテ


そんなこんなの第5話。

お楽しみいただければ幸いです。


誤字、脱字訂正、感想、ご意見お待ちしています。

していただけると、筆者である自分が跳ねて喜びます。


それでは、次回お会いしましょう。

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