第1章 第2話
俺と光一は、始業ギリギリになって真台学園へとついた。
道中走ってきたため、俺の体からは汗が止めどなく流れている。
家から真台学園が遠いっていう訳ではない。
真台学園は徒歩圏内だし、家を出た時は、まだ余裕があって間違っても遅刻するような時間じゃなかった。
じゃあなんでこうなったのかと言えば、間違いなく光一のせいだ。
コンビニに行って、朝飯を買い食いするまではよかった。
光一が朝飯にしてはすごい買い込んでいて、買うのにも時間かかったが時間に余裕はあった。
光一が歩きながらじゃめんどくさいからここで座って食べるとか言い出したけど、それでも時間には余裕があった。
問題はその後だ。
全てを食べ終えた光一が
「お腹痛い」
と言い出した。
その言葉が全ての始まりにして元凶だった。
トイレに駆け込み、なかなかでない光一。
外で焦りながら、待つ俺。
そのときの冷や汗の量と行ったら半端ない事になっていたと思う。
置いて行こうとしたら、トイレの中で何か呪詛のような声が聞こえたのは焦った。そしてそのせいででとても置いて行く事が出来なかった。
結局、時間ギリギリになってようやく腹痛が治まった訳だが、俺と光一は走るしか余儀がなかった。
なんでこんな朝っぱらから疲れなきゃいけないんだろうか。
今度から、光一が朝家に来たら追い出そう。そうしよう。
つうか、当の本人はもうすでに机で寝息を立てている。
いい身分だな、ちくしょう。
俺は朝なのに疲れ果てている体を引きずりながら自分の席に座った。
「疲れた」
「なんで、そんな朝っぱらから疲れてるのよ? あんたは?」
体を起こすのもめんどくさいので、顔だけ声の方に向けるとポニーテールの女生徒。
スレンダーな体つきをしていてその腰に手を当てて、強気そうにした目をこちらに向けていた。
「なんだ……彩夏か」
俺の前に立っている人物は支倉彩夏。
こいつも光一と同じ、幼なじみだ。
そんな幼なじみでも応対するのがめんどくさいので、顔を伏せる。
「なんだ……ってなによ! なんだ……て!」
彩夏は、怒って俺を起こしにかかる。
「なんだよ。疲れてるんだよ」
めんどくさいながら体を起こす。
なんか彩夏の目が怖い。
「だから、何でそんな朝っぱらから! 疲れてるの!? って聞いてるじゃない!」
「じつはかくかくしかじかで」
「そんな省略して話されても解らないわよ」
「察してくれよ」
「ちゃんと言わないと解らないじゃない」
至極ご尤も。
「だが、断る」
「なんでよ!」
「いや、話すのがめんどくさくて」
ドグッ
「レバッ!?」
「殴るわよ?」
「いやもう殴ってるだろ!?」
しかもレバーにいい感じに!
机に伏せてるとはいえボディはがら空きなのをよく見てたか……。
「強くなったな…… ガクッ」
そしてまた机に伏せる俺。
「殴るわよ?」
声のトーンが重かった。
こいつ、殺る気だ。
「解ったよ。めんどくさいけど話すよ」
「解ればいいのよ。で、どうしたの?」
「朝から光一がやらかして、遅刻しそうになって走る羽目になった」
「短ッ!? めんどくさがった割には、短くない?」
「もう疲れてて話すのがめんどくさいんだよ」
「あんたに殺意を抱いたわ」
握り拳を作りながら怒りをあらわにする彩夏。
鬼のような形相で俺を見る彩夏だったが急に顔をしかめる。
「大和。あんたカレー臭い」
「え?」
不意に言われた言葉。
昔から知ってる旧知の仲とは言え、女子から言われると傷つく話題。臭い。
「そんなに臭うか?」
彩夏は鼻を押さえる仕草をしながら言う。
「うん。汗の臭いも混じってすごい臭い」
顔を近づけては余計顔をしかめる彩夏。
そんなに人を汚物のように扱われると気になって自分でも臭いをかいでみる。
……かいでみれば確かに臭い。
朝に作ったお手製カレーの臭いが制服にこびりついていた。
自分の体臭って意識しないとわからないもんなんだな……
というか制服で料理したのはまずかったな。
「どう?臭いでしょ?」
「確かに」
悔しいけど事実は事実。認めるしかない。
「早く帰って着替えてきなさいよ」
「!? お前は俺に今から帰ってまた来いっつーのか!?」
「だって、あんた自分の臭さわかってる?」
「別に、カレーの臭いくらいそんなひどくはないだろ?」
「酷いわよ! もう、酷いの通り過ぎて公害レベルよ」
そんなにひどいのか。少し傷ついた。
だが、ボロボロになりつつある自己の精神を奮い立たせて反論する。
「公害ってなんだよ? カレーの臭いでそこまで言うか?」
「汗の臭いもだけどね。カレーの臭いがすると私のお腹がすくじゃない」
「そんなの俺に関係ねえ!」
本当に身勝手な理由だな!
「あんたから出てる臭いのせいでしょ!?なんとかしなさいよ」
「確かにそうだけど…… 知るか!」
「じゃあ、せめてジャージに着替えなさいよ!今すぐ!早く!」
彩夏は急かしながら俺を脱がせかかってきた。
「やめろよ!教室でなにすんだよ!」
彩夏を手で振り払う。
さすがに教室の中、公衆の面前で脱ぐわけにいかない。
「むー、じゃあ早く自分で着替えてよ」
「なんで、そんなめんどくさいことしなきゃいけないんだよ」
「私のお腹の平和のためよ」
「飯くらい昼まで我慢しろよ」
「ああもう、埒が明かない。少し待ってなさい」
そういって廊下にでる彩夏。
なにやら走っている。
なにかいやな予感がする。
彩夏が帰ってくる足音がする。
お目当ての物を見つけたのか彩夏がこちら側に来る。
手は後ろに回して何かを持っている。
なにかいやな予感がするとかじゃない。いやな予感しかしない。
なんてったって、さっきまでしかめっ面だった彩夏の顔がやたら笑顔なのだ。
「お待たせ」
「……俺は何を待っていたんだ?」
不安になりながら、質問する俺。
「これをかければ万事解決よ」
「?」
と言って自分の背後から取り出したるは
ファ○リーズ ~やさしいフローラルの香り~
底面に『2F 女子トイレ』という書かれた文字がいやに哀愁を誘った。
こいつ…
どこ行ってんのかと思ったらトイレまでこれを取りに行ったのか。
「これを、俺につけろと?」
「うん」
満面の笑みでなにを言ってやがるこいつは。
「よかったね。これをつければ、大和もやさしくなれるよ」
「なれるかーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
反論空しく、俺にかけようとする彩夏。
「え、ちょっと待て。なんでふた外してんだ?」
「なんでってあんたにかけるためじゃない」
「ちょ、ちょっと待て。原液そのままっておかしいって。絶対そのかけ方は間違ってるって。ほら普通にシュッシュッってやろうぜ! それなら俺も甘んじて受けるから」
「よし、取れた」
「取れたじゃねえよ!? だから、そのかけ方は間違ってるって! ちょ、ちょっと待ってって、待ってって…… 」
「じゃあかけるよ」
「いや待って待って…… ギャーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
俺の悲鳴はチャイムにかき消された。
そして去り際に、汗用の臭い消しとかいいながらエイト○ォーをかけていく彩夏。
……なにこれいじめ?
ホームルームが始まり全員着席するクラスの生徒。
光一はいまだ寝ている。
起立と言われて立ってないのはあいつだけだ。
俺の臭いの元凶の彩夏の方をふと見る。
ポニーテールがさらっと肩まで流れていて、その顔は学校でもかわいい部類に入ると思う。
小顔に目は少し幼めのどんぐりまなこ。
体つきはスレンダーな感じ。悪く言えばあまり成長できていないけど、そういうのが好みの男子もいるしな。
だが、天は二物を与えずとはよく言ったもので、容姿がいい代わりに口が悪い。
思ったことは包み隠さず言うし、言葉を選ぶということを知らない。
容姿をいいと思って近づく男が、喋った途端に苦笑いして帰っていくなんてことは珍しくはない。
黙っていれば可愛いのになぁ……
ホームルーム中だから静かに座っている彩夏を見てそんな事を考えていたら授業が始まった。
読んでいただきありがとうございます。
前回に引き続き新キャラ彩夏の登場です。
彩夏、光一、大和達はどういう感じでつるんでいるのか。
今後の展開で書いていきます。
稚拙な文で申し訳ないですが、感想、ご意見、お待ちしています。