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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

last Night

作者: もち。


昨夜のことだ。

除夜の鐘が鳴る中、私は道に光る自販機のボタンを押す。ガコンッという音と共に暖かいコーヒーの缶が出され、お釣りが帰ってきた。私がその飲み物を持った途端後ろから声をかけられた。

「きみ、おふだは買ったか?」

その声の主は汚いホームレスで、小瓶とたった一枚の小さな紙切れを握りしめている。気温は冷えてきているからその紙切れはどうやら手汗でびしょびしょというわけではない。

私は振り向き、プシュッと缶を開け、答えた。

「いいえ。」

するとそのホームレスは少し微笑んで、

「それでいい。私は…この紙切れ一枚のために家を売ったんだ。不確定な未来のためにな。」という。

「周りの人達もみんなそうだ。」

見ると周りには同じように薄汚く汚れたホームレスが幾人と転がっている。青白い街灯に照らされて影の濃淡が強くなって、どこか悲しげがある雰囲気で満ちている。

私は

「なんか大変らしいですよね。」

とホームレスに言う。すると彼は

「ああ。でも私はまだあの予言を信じられてないんだ。私の周りの人たちはみんな信じていたんだがみんな死んでしまった。」と言った。

私は

「自殺ですか。」と聞いた。すると彼はまた微笑んで

「ああ。そうだ。」そう言って彼は私に一枚の紙を見せ、続けてこう言った。

「これはその直前に私にくれたんだよ。それでこの小瓶も。」

そう言ってもう片方の手に握られていた、褐色の小瓶を見せた。

そして続けて彼は

「あの時私も本当は死ぬはずだったんだ。でも怖かったんだ、それで今はこのザマさ。この紙切れは予言上での死の執行者による地球滅亡の時、つまりもつあと30分もないな、要は来年が来た瞬間に破るとその効果があるらしい。あの世で救われるんだとよ。そんなへんてこな予言にもこの紙切れにも期待はしてないが、こうなってしまったからにはこれを信じるほかないだろう。」と言った。

私はそれをコーヒーを飲みながら聞き、また、それを聞き終わる頃にはすでに缶の中身はもとの半分ほどになっていた。

そして私は答えた。「そうなんですね。」

彼はそれに「ああ。まだ君のように楽しく生きられるのには憧れるよ。もうあの時から私の人生は詰んでたのかもな。ほんと…身勝手な愛情を受けたもんだよ。」と話した。

私は「生活保護とかは受けないんですか?」と聞く。すると彼はこう言った。「受けてもあんまり大した金はもらえないさ。労働者もここ100年で大幅に減って国もカツカツなんだよきっと。それに私はもうどうでもいいと思ってるんだ。生きたいとか死にたいとか。でも憧れちゃうよね、また君みたいに好きに生きられるのは。」

私はまたコーヒーを飲む。

彼は続けた。「また君みたいに、自由に生きて死にとらわれずに生きて、死んでくんだ、希望を持ってね。でも私が生きる為の希望はどうやらこの世にはないみたいだ。私は…私達は死ぬために生きるのか?」

そう言って彼はため息をついた。その息は冷たい空気にさらされ、白い煙となって消える。

私はまたコーヒーを口に運び、気がつけば中身は空になっていた。「どうなんでしょう。私個人としては楽しく生きて死んでいった方がいいと思いますけどね。死んだ後の世界があればそこでまた一から始めればいいだけの話でしょう。生きている間に死後の準備はいらないと思いますよ。」私がそう言うと彼は「そうだな。」と答えた。私達は微笑んで、「それじゃ」と別れの挨拶を軽く交わし私はまた道を進んだ。私は空き缶を投げ捨てる。それは道の端までカラカラと音を立てて転がり、電柱の下あたりで止まった。

しばらく歩いていると人の騒ぎ声が聞こえてきた。ギャハハと笑い、ガードレールに座って酒を飲む若者の声、新年へのカウントダウンを待ち広場に集まる人々の声、未だにキッチンカーで営業する昔ながらの店の店主と客の声、などなど。そのあたりから一気に周りが明るくなり、立体構造の線路も見える。そこらへんを少しうろうろしていると若者が1人話しかけてきた。

「なぁ、にいちゃん。」

私は咄嗟に「なんですか?」と聞く。

すると彼は話す。「クラトム知ってるよなぁ」

私は言う。「ええ、あの最近合法化された薬物でしょう。」

彼はそれに対して「おお!知ってんのか!なら話は早い」と私に対して商売を持ちかけてきた。その時いきなり線路の上をリニアモーターカーが走った。轟音が鳴り、私は一瞬その方を見た。しかし私が見た時にはその姿はなく、音を残して消えていた。

私は再び彼の方を見た。彼は「どうだ一袋7000円。今流行ってる予言のグッズを買うより断然安く断然楽しめるぜ。それに副作用は他のものと比べてもものすごく少ない」と話し、私の方に小袋を差し出した。内容量は30g。大体普通に使って5回とか10回分くらいだ。

「そうか。じゃあ一つもらうよ。」と私が言うと、彼は「おお!本当に!?」とまんざらでも無い顔をする。私は、それに「ああ。」と答え、7000円を払った。彼は小袋を私に渡し、2人で握手をした。私が他のところへ行こうとすると、「ちょとまって。」と彼が懐から紙タバコらしきものを取り出す。「タバコなんて持ってるのか。」と私が聞くと彼はクスッと笑い、「タバコなんていつの時代の話してるんだよ。」と答える。彼は私に一本渡し、「これもさっきのそれと同じやつさ。それを紙に詰めたんだ。ちょうどいいしそこで吸ってこうぜ。」と言った。私はそのクラトムを指に挟み、もう少し見晴らしのいいところへ移動し、もう使われていないような建物の敷地と道を遮るブロック塀に寄りかかった。彼は口にクラトムを咥え、ライターをつける。ジジジジという音が響き、彼のクラトムの先端は赤く光り始めた。私も自前のライターを点火した。シュバッという音と共に火花が散り、灯油を染み込ませた紐に引火する。私の方は彼のプラズマライターより旧式だが火力が高く、クラトムへは簡単に着火した。彼はそれを見て言った。「灯油式ライターか!?」私は「ああ。」と答える。彼は言った。「灯油なんてどこで手に入るんだ?」私は「家で微生物を培養しててね。趣味でつくってるんだ。」と話す。彼はそれに「へぇー、すごい人にあっちゃったな」と言った。

彼は空の星を見上げながら「もう直ぐ2135年だな」と言った。

私はそれに「そうだな」と答える。

すると彼は「こんな星空をさ、100年前の人も見てたのかな。」と私に問いかけた。

私は「そうなんじゃ無いか?」と答えた。

彼は続けて「そうだよな。100年前も200年前ももっと昔だってきっとあの星は変わらず光り続けてたんだろうな。」と言った。

私はそれにこう言った。「だな。でもなんでいきなり星の話なんかするんだ?」

彼は「なんか、一年振り返ってたらさ、ハレー彗星ってあったじゃん。あれが今年の前に現れたのが70年くらい前らしいじゃん。なんかそんなの思い出しちゃって。」と話した。

続けて「俺たちの人生ってさ、あの宇宙からしたらちっぽけなものなのかもな。悩み事も、今回の予言でもし俺たちが本当に滅亡したとしても」そこで私が遮る。「ちょっと待ってくれ君もあの予言を信じてるのか?」

彼はそれに対して言った。「信じてなんか無いさ。でももしもの話、それが本当でも嘘でも、その予言によって人生を狂わされた人が何人いたとしても、あの宇宙全体で見たら…。我々はあのちっぽけな星のように輝くことすらできない。」

私は答える。「そうだな。」

彼はいつの間にか少し涙を流し、その涙は月光に照らされ輝いていた。

彼は「俺たちの人生ってなんなんだろうな…何のために生きて何のために死んでくんだろうな…俺には未だにわかんねんだよ…」と答える。私は「まあ、意味なんて考えず好きに生きたらいいのさ。こんな国に生まれたんだから。」と話した。彼は柔らかい顔ながらも「ごめん」と言ってその場で泣き出してしまった。

私はいつも通り薬物の効果は出ておらず、彼のことを抱きしめ「大丈夫。」と声をかけ続けた。しばらくして彼は落ち着いたようで、私は彼を離した。その時に彼の腕時計を見ると年越しまで後5分を切っていた。

私は彼の手を引き、「ほら!もう直ぐ年越しだよ!もう少し見晴らしのいいところへ移ろう!」と言う。彼は何が何だかわからないまま私の手に引かれ、わたしたちが寄りかかっていた建物の敷地内に入り、建物内に入り階段を駆け上がった。私は彼の時計を見る。時刻は11時58分、あと2分で年越しだ。私達は急いで一番上まで駆け上がった。屋上の扉は案の定錆びていて簡単に開けられた。まぁ、鍵を簡単に壊せた、と言うのが正しいのだが。そして私達は屋上に出て、年越しカウントダウンを上から俯瞰した。屋上の柵は一部錆びて今にも壊れそうであり、私達はその柵の寸前に立って上から見下ろした。残り1分で皆がカウントダウを開始する。59.58.57…と続く。

彼は言った。「また一年が終わっちまうな。」私は答える「ああ。」

彼は言った。「また来年もお互い頑張ろうな!」

私は言った。「あぁ!頑張ろうな。」

27.26…

ここから見ると私が今まで歩いてきた道もよく見える。先ほどリニアモーターカーの走った線路も、ホームレスのいたあの道も。

10.9.8…

私は後ろを振り向く。

7.6.5…

私は彼の背後に立つ。彼はとても感傷的な、それでいて、薬の効果か幸せそうな表情を浮かべ、年越しのカウトダウンで集まる人々を見、声を聞いていた。

4.3.2.1


0


私はその瞬間彼を突き飛ばした。錆びてボロボロになっていた柵はその力で崩れ、「うわっ」と声を出し、彼は真っ逆さまに落ちていった。ゴーン…という鐘がなった。彼が地面と衝突する音は鐘の音がかき消した。その途端に鐘がぴたりと止まり、私は急いで下に降りていった。そこに落ちた人の死骸のコートのポケットからは私に売ったのと同じパッケージがいくつか露出している。私はそれをいくつか拾ってパッケージを開け、ライターに火をつけ、彼の体と一緒にクラトムごと火をつけ燃やした。しっかり火がついたのを確認して私はその場から去り、新年を祝う人々を横目にまた同じ道を歩いて行った。

その帰り道にはボロボロのちぎられた紙切れが多く散乱し、風に踊っていた。私がまた同じ自販機の前までつくと、そのホームレスはもういなかった。そこにあるのは彼がそれまで座っていたダンボールと、そこに置かれた、ずっと手に握っていた白い粉末の入った未開封の褐色瓶のみだった。


私はそれを見て舌打ちした。



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