7.ちょっと待って。セトリはどうしよう
そうなってくると何を弾くかが、かなり肝になってくる。ここでクラシックやら万人受けしそうなものを選ぶのは悪手だ。
絶対に私はアイドルを作りたいんだから、私がアイドル扱いされるのだって困る。
私はアイドルになりたいわけでも有名になりたい訳でも無い。基本的に地位も名誉も嫌いで、誰もやらないなら二次創作やファンアートを書く位だった。
けど作ったり、こうやって布教するなら絶対に広まって欲しい。というか、アイドル文化は広がってくれないと困る。私はアイドルが大好きなんだから。アイドル文化が広まって沢山のアイドルが誕生して、大きくなったらアイドルを目指したくなるこどもが増えるのが目標なんだ。
だからこそ、何を弾くのか悩む。ピアノ調の好きなアイドル曲なんか腐るほどある。けれど、一発目に失敗したくない。歌を歌うのも勿論したい。だけど、マイクが無いから声が通らないし、私がアイドルになりたくない。
あれ待って、歌う人必要じゃない?
そうなってくると話は早い。人を見つけよう。
どの道アイドルを作るんだから、人は集めるに越したことは無い。アイドルを今作る訳じゃないけれど、絶対にメンバーには入れる。どの道、明日からの歌には間に合わないし、メンバーにも入れるのなら慎重に選びたい。
本当なら、というか定番と言えば、じゃあ今から探しに行こう!となるけど、慎重に選びたいし間に合わないものを今から慌てても仕方ないから、今日はセトリを決めよう。
やることがいっぱいで、楽しくなってくる。結局、歌が無いと何のことか分からないだろう、と思い私が好きだったアイドルのオーバーチュアやイントロだけで流れてたものを詰め合わせたものにしようと思い、楽譜に書き出す。頭の中に譜面はあるし、自分の好きだったアイドルの曲は全部指が勝手に覚えるくらい弾いたし、楽譜だって破れるのが嫌だからと印刷したものが何度もボロボロになるくらいまで見返した。だから覚えてる。曖昧なところも多少はあったけれど、予備で作っていたピアノを弾けば思い出して、そこの音を書いて完成させた。
完成した楽譜を譜面台に置く。覚えてるとは言えど、不安だってあるし、何より久々に今書き出した音楽を弾きたい。予備のピアノを置き、遮音結界を張った後で椅子に深く腰掛け、ピアノの白鍵に両手の指を添える。そして明日弾くセトリを1通り弾く。
弾き終わると、ゆっくり息を吐く。弾いてる時に、何度も聞いた歌声や円盤の映像が流れたけど、やっぱり私はアイドルが好きなんだな、なんて楽譜を撫でる。
弾いてる感じも耳に入ってくる音も違和感が無かった。楽譜があってるかは正直、そんなに見ながら確認したわけじゃないけれど。
まあじゃあ何で楽譜にしたかと言われればロマンだ。
いつか私がピアノを誰かに教えた時、ピアノを弾ける人が増えたら、この楽譜で弾く人だって増えて欲しい。私の曲じゃないけど
紙は、演劇には台本、服には型紙、絵にも紙というように新しい文化や新しいことをするときには大切だろうと今世では貴重なのに譲ってくれた。
でも、お陰様で明日のセトリは決定したし完璧だ!と思わず笑みが零れる。




