4,ちょっと待って。楽器を作ろう
家族にお願いして、魔物は居ないらしい森へと木を取りに来た。最初は難色を示していた家族だったけれど、私が収納魔法が使えるということで、普段より多くの薪や木が運べるということで連れて行ってくれることになった。
家族が木を斧で切っているのを見て、親孝行というと違うかもしれないけれど、魔法を使って大木を切る。
平民やスラム街に住んでいる人も魔法は使えるけれど、こどもでそんな魔法が使えることは有り得ないらしく家族は魔力切れの心配をしてくれた。
その説明をしている家族を見て、気味悪がられたり、最悪自分を家族だと思ってくれないかもなんて思ったけれど、そんなことは無かった。それがただ純粋に嬉しかった。
想像より断然早く終わった薪集めに家族は、森の恵みを取りに行った。
今のうちに、とピアノ分に取っておいた木をバラバラにパーツを作り、所謂アップライトピアノを組み立てる。確か、ここはこういう役割だったよなと主にペダル3つに付与魔法を施す。本来のピアノの作りとは明らかに違う訳で、上手く行くだろうかと不安になりながらも白鍵と黒鍵を本来のピアノの音を付与しながら本来の位置に埋めていく。
絶対音感は無いけれど、どこがどんな音かだけは覚えている。昔ピアノを習ってたのが役に立つんだな、なんて前世の親にも感謝しながら付与をしていく。
出来上がったピアノがちゃんと出来ているか弾いて確認しても良いけれど、音楽が無い世界で音楽を作ろうものなら家族はさっきの魔法の件もあるからこそ慎重にしたい。
そこで出来上がったピアノに鑑定魔法を使ってみる事にした。
ピアノ:この異世界で初めて出来たアップライトピアノ。基本的な音楽であれば鳴らす事が可能。白鍵と黒鍵の形こそ違うものの元来のピアノと同じように弾く事が可能。
「やったああ!!」
完成したピアノに思わず歓喜の声をあげると、家族がなんだなんだと言うように走ってきて、ピアノが見つかることになった。
家族は見たことが無い形のそれをマジマジと見つめている。この世界に音楽は無いらしいし、流石に前のセレナと違うと思われるだろうか、なんて不安になる。
「これは、どうやって使うんだ?」
「え?」
「セレナはこれが作りたくて森に行きたがったのね。」
「俺にはこれをどう使うのか、どう言った用途なのかが分からない。どうやって使うんだ?」
そこじゃなくない?と我が家族に思いながらも、その場で即興で椅子を作る。そして、その椅子に深呼吸をした後、腰をかけてピアノの感覚を確かめるように1度指を添える。
心の中は緊張と不安でいっぱいだったのに、それが一気に消えたような感覚に陥る。
そして、自分が1番好きで必死で覚えたアイドル曲を演奏する。セレナは当然弾いたことが無いが、経験は魂に結びついているのか初めてでも何度も練習して、大好きだった曲だからか、自然に手が動く。頭の中で亡くなる前に何度も何度も見た円盤のアイドルたちと歌声を思い出しながら、1曲弾き終えた。
頭で思い浮かべた円盤の映像とアイドルの歌声に、それを諦めることなんて出来ない。もう1度見たい、と強く思った。弾いている間から家族は不思議そうな顔をしていたものの終わった後には、顔が優しくなった。
「俺には、なんて表現したら良いか表現は出来ないが、セレナが好きな事は伝わって来た」
「そうね。お貴族様の文化かもしれないけど」
「こんな珍妙な形をしたものも音も聞いたことが無い。」
流石におかしいと思っただろうし、そんな雰囲気も流れていた。当たり前だ、無い文化を作り出した挙句、ないものを私がかなり好きというのもおかしな話だ。それでも、家族は顔を見合わせてそのことについて触れないでくれた。気味悪がる事も無く、音楽というこの世界には無いものを好きな自分を、ただのセレナとして見てくれてる、そんな気がした。その事実に、どうしようもなく申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちが押し寄せる。
「これをスラムや庶民街でやってみても良いかもしれないな」
「それは良いわね、劇もお祭りのときなんかは無料でやっているもの」
家族からそんな提案がされたのは衝撃的だった。前世では確かにお金を貰わずに駅などに置かれたピアノを自由に弾くというものがあった。けれど、その文化を知らないはずの家族が意味は違えど、発想として出てくると思わなかった。何より、音楽が無い文化で、それをしても問題ないと思えるくらい受け入れてくれている、受け入れられる可能性があるという事実が嬉しくて仕方なかった。
「ただセレナにこのような才能があるのがバレたら、誘拐されたり犯罪に巻き込まれるかもしれないな」
「それなら私が魔法で結界張ったら大丈夫だと思うけど」
「そんなことまで出来るのか」
「多分」
「それなら安心ね。セレナが好きなことをしたらいいわ」
「でも」
「お前の言いたいことも分かる。確かにうちは貧しいが、セレナはまだ5歳なんだ。好きなことをしなさい。それでも不安なら、繰り返して言って領主様やお貴族様が気に入ってくれてお金に繋がるかもしれないだろう」
「そうねぇ。でも、嫌なことは嫌って言わないとダメよ」
「言っても良いの?」
「そりゃ本来はダメだが、俺らはスラムだからな。自分たちが見放したやつが何を言おうが聞く権利なんざ無い。」
本当にいい家族を持ったと思う。この家族に恩返しがしたい、自分の中でもう一つの目標が起った瞬間だった。それを聞いて、心から込み上げてくる感情が制御できなくて転生して初めてわんわんと大泣きした。
家族を出す予定は無かったんですが、出さない事には話進まないやんとなり、しゃーなし出しました。
ちなみにプロローグのアイドル達に家族は居ません。ただ、セレナの家族(兄弟姉妹)あたりがアイドルになるのも書きたくなって来てるので、新チームが第二章辺りで追加されるかも?です。




