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8.魔力眼

 そんなある日、シエル先生が特別なことを始めると言い出した。


「さて、本日はアネット様だけがお使いできるものをお教えしたいと思います。」

「私しか使えない・・・もの?」

 私が首をかしげるとシエル先生は頷いた。彼女は私の瞳を指さした。


「魔力眼の使い方です。」

「魔力・・・眼?」

「はい。正確にはセレナーデ侯爵が使われているものです。セレナーデ家に代々遺伝されているものとのことです。魔力を目で見る事ができるものです。」

「そんな便利なものが?」

 私は首をかしげる。そう言いつつも内心ではついにきたか!!と歓喜していた。アネットが持つ特別な力とはこれの事だ。ゲーム上では、魔力眼を使用することで魔力効率が段違いになっていた。魔力眼がないと発動しない魔法もあった。これを使いこなすことでアネットは最強に一歩近づくのだ。


「ええ。それは貴方にも受け継がれているはずです。セレナーデ侯爵に確認したところ、生まれた時に魔力眼を持っていたと。今回はその使い方を学びましょう。」

「ですが、セレナーデ家特有という事では先生は使えないのでは?先生はセレナーデ家に関する人だったのですか?」

「いえ。私ではお教える事ができませんので特別な方にお越しいただいています。」

「・・・ま、まさか。」

「そのまさかだよ。アネット。」

 扉の方から声が聞こえ、私が扉の方を見ると、そこにはセレナーデ侯爵がいた。


「セ・・・お父様。お仕事は大丈夫なのですか?」

「もちろんだとも!!我が最愛の娘のためならばいくらでも時間はとるとも!!」

「え・・と。無理はなさらずに。」

「そんなこといわないでおくれ!!」

「は・・・はあ。」

 セレナーデ侯爵のエネルギーに私はたじたじだった。よく考えてみると彼と会話するのはこれが初めてな気がする。娘として対応するのはなかなか難しい。

 セレナーデ侯爵はシエル先生に向き直ると頭をさげた。


「シエル殿。今までありがとう。娘がこれほどまでに成長したのは貴方のおかげだ。これからは魔力眼の授業になるから、私が教えることになる。」

「承知しました。こちらこそ優秀な生徒を持つことができて光栄ですわ。」

「シエル先生!!」

 私がシエル先生に近寄ると、彼女は優しそうな目でこちらを見て、私を力強く抱きしめた。


「アネット様。貴方は今まで教えてきた生徒の中で一番優秀でした。これからも基礎を忘れずに精進してください。いつか貴方が私の生徒だったのだと周りに自慢できるように。」

「はい。ありがとうございました。シエル先生が自慢できるように頑張ります!!」

 私もシエル先生を抱きしめる。厳しくもあったが優しい先生だった。泣きそうになるのを必死に堪えて笑う。彼女も嬉しそうに微笑んでいた。そして彼女は私達に一礼すると、部屋を出ていった。

 セレナーデ侯爵は私を見ていたが、優しく笑うと椅子を指さした。さされた椅子に座る。


「早速だけれど始めようか。」

「は、はい。お願いします。」

「うん。アネットは既に体内にある魔力を操ることができるんだよね?まずは目を閉じて。その魔力を自分の目に集中させてごらん。」

「は・・・はい。」

 目を閉じて自分の魔力を意識する。そしてそれを操作して目に集中させた。


「いいね。そうしたらその状態を保ちつつゆっくりと目をあけてごらん。」

 言われた通りに目をあけてみる。すると強い光がさし込んできた。目が開け続けられず、目を閉じた。目に集中させた魔力が霧散する。


「つぅ!!」

「いきなりは厳しいかな。無理はしないで。」

「いえ・・・。大丈夫です。」

 魔力を再び目に集め、少しずつ目をあける。再び強い光が目をさすが、我慢して少しずつ目をあける。無理矢理目をあける。目を開くと世界の景色が一変していた。


「これは・・・。」

「さすがだ。いきなり目を開けられるなんて素晴らしいね。」

 色眼鏡をかけたかのように世界が黄色で塗りつぶされていた。正確にはセレナーデ侯爵の色は変わっていない。ただ周りの光景がペンキで塗りつぶしたかのようになっていた。違和感で頭がくらくらする。


「どう見える?」

「世界が黄色く見えます。お父様はいつも通りですが・・・。」

「そうだろう。世界の色が変わっているのは魔力のせいだ。」

「これが・・・魔力のせい?」

「そう。魔力眼は文字通り通り魔力を見る目だ。世界には魔力があふれている。色が変わっているのはそこに魔力があることを意味する。普通の人が魔力を目に集めても特に何も変わらないが、我々は違う。魔力眼で世界を見る事によって世界に魔力を認識することができる。」

 黄色くなっているのは魔力の色なのか。自分の魔力だけでなく世界の魔力も認識できるという事は、その魔力を使える可能性があるという事だ。自分以外の魔力を使えるとなればいったいどれだけの事ができるのだろう。私はその恐ろしさで身体が震えた。セレナーデ侯爵は真剣な表情で頷く。


「気がついたようだね。基本魔法を使う際は自分の魔力を使用する。だから魔法は自身の周辺に展開する。だが、魔力眼を使いこなせば自分以外の魔力を使うことができる。さらに遠くにある魔力を使って魔法を発動させることができる。他者には脅威だね。いきなり自分の前で魔法が展開されるのだから。」

「遠隔魔法・・・。」

 ゲーム上では属性のパラメータをあげることで、使える魔法の種類が増えた。だが今は現実だ。パラメータを割り振ればいいものではない。その分魔法は想像力とそれに基づいた知識が必要だ。前世の知識を魔法に転用すれば様々な事ができるはずだ。既にいくつか思いついている。

 あれができるだろうか、これはできるだろうか等色々考える。はっと気がつくとセレナーデ侯爵がじっとこちらを見ていた。


「ご・・・ごめんなさいお父様。集中してしまって。」

「・・・いいや。既にいくつか応用を考えているようだからね。魔法において想像力は大事だ。」

「ありがとうございます。」

「ではまず魔力眼になれる事から始めていこう。最後には遠距離で魔法を使えるようになろう。」

「はい!!」

 その日からセレナーデ侯爵の授業が始まった。魔力眼に慣れる訓練。魔力眼を利用して世界に漂っている魔力を使う特訓。苦戦はしたが楽しかった。遠隔魔法などを聞くだけで心躍った。眠った後にアネットにもやらせてみたが、やはり彼女も魔力眼を維持するのにかなり苦戦をしていた。


 そんな訓練が続いたある日。私はセレナーデ侯爵を待っていた。魔力眼の使用にも慣れ、遠隔の魔法も少しずつだが使えるようになっていた。だが今日は私の部屋ではなく、来客時に使われる客室で待つように言われた。

少し待つとセレナーデ侯爵が入ってきた。何故だろう。いつもと雰囲気が違う。いつもは娘大好きオーラが溢れ出ていて、授業でも厳しくしきれていなかった。だが今の彼は真剣そのものだ。まるで娘ではない人と会うかのように見えた。彼は席に着くと深いため息をついた。


「今日は授業じゃなく話をさせてもらいたくてね。悪いけど2人きりで話がしたいんだがいいかい?」

「!!・・・はい。」

 私は嫌な予感で冷や汗が止まらなかった。元々授業は2人しかいない。たまにメイドがいる事もあるが、魔法を扱う上で危ないので基本的には退出してもらっている。それなのにわざわざ言うという事は意味があるという事だ。私を通してこの光景を見ているアネットに声をかける。


(アネット。申し訳ないけど奥に引っ込んでいてくれる?これからの話を聞かないでほしいの。)

(・・・別に構わないですけど。何かあったんですか?お父様の様子もいつもと違う気がしますが・・・。)

(いいから。内容は後で共有するから。)

(は・・・はい。わかりました。)

 有無を言わせない私の言い方に、アネットも何かを感じたのだろう。アネットはそれ以上言わずに奥に引っ込んだ。出てこないのを何度も確認して、意識をセレナーデ侯爵に向ける。


「お待たせしました。もう大丈夫です。」

「うん。ありがとう。」

 セレナーデ侯爵はじっと私の目を見つめる。私も何も言い返さず彼を見つめ返す。やがて彼は何かを決意した表情で口を開いた。


「単刀直入に聞こう。・・・君は誰だい?」

「!!」

 嫌な予感が当たってしまい、私は息をのんだ。


作品の励みになりますので、評価・リアクション等をいただけると幸いです。また他短編なども投稿しておりますので、お暇がありましたら読んでいただけると幸いです。

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