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7.魔法の授業

 アネットと作戦会議をした翌日。彼女は両親に魔法の家庭教師のお願いをしてくれた。心身共に強くありたいからという理由で告げたところ、彼女の両親は大賛成してくれ、すぐに家庭教師を手配してくれた。そして手配して1週間後には授業が始まった。授業の時に初めて教師と顔合わせをした。教師の人は30代前半といったところだろうか。眼鏡をかけて落ち着いた雰囲気の人のように見えた。


「お初にお目にかかります。この度お嬢様の家庭教師をさせていただきますシエルと申します。」

「初めまして。私はアネット・セレナーデと申します。アネットとお呼びください。この度は私のためにお時間をいただきありがとうございます。」

「わかりました。アネット様と呼ばせていただきます。その年齢から魔法に興味があるのは素晴らしい事です。半年間と限られた時間ではありますが、できる限りお教えいたします。」

 シエル先生の第1印象は好印象だった。魔法を学ぶことを貴族の道楽と馬鹿にすることもなく、教える事にも抵抗がないようだった。1人の教師と生徒として向き合う意思が感じられた。

 授業はアネットの部屋で行う事になった。アネット用の机と椅子を用意し、シエル先生が書くようの紙も用意してもらった。さっそくシエル先生が紙に図を書き始める。


「早速ですが始めましょう。まず、魔法の基礎からお教えますね。魔法には様々な種類があり、自分が持っている魔力を使う事で様々なことが実現可能です。ですが人によって使える魔法が異なります。」

「人によって魔法の特性があるという事ですか?」

「正確には違います。どんな魔法も理論上では使えます。ただ魔法を発動させるには、魔力を使う時点で本人のイメージが大事です。本人のイメージが明確であれば魔法は発動させやすく、抽象的だとどれだけ魔力を使っても魔法は発動しません。イメージのしやすさは人によって異なるため、人によって使える魔法が異なるのです。」

「なるほど・・・。」

 これは納得がいく説明だった。ゲーム上では、アネット・セレナーデは多種多様な魔法を使用していたが、使える魔法の種類はそれぞれの属性にステータスを振る形で実現していた。この世界ではイメージができればどんな魔法でも発動できるという事を反映させていたのかもしれない。ステータスというものがない以上、イメージを明確に持つことができれば多種多様な魔法を使えるのはゲームと同じだ。


「例えば・・・人を癒すことも可能という事でしょうか?」

「そうですね。理論上は可能です。ただ人を癒すということはかなり難しいでしょう。自分の身体ならまだしも、他人の病状を理解したうえでそれを取り除く、傷ついた箇所を把握しそれを元に戻すというのは、イメージするだけでもかなり難しいです。そのため治療師は専門性が高い上に、かなり貴重な存在です。本当に誰でも治せるよう人がいるとすれば、その人は物語とかに出てくる聖人や聖女と呼ばれるでしょうね。」

「わかりました。」

「いきなり難しいものに挑戦することはやめておくべきです。」

 私も同意するように頷く。別に癒しの力が欲しかったわけではなく、興味本位で聞いただけだ。私に必要なのは力だ。しかしこの身体に入ってから魔力を感じたことはなかった。当然だ。私の世界には魔法などなかったからだ。


「申し訳ないのですが、私には魔力がわかりません。」

「はい。最初は皆そうです。なので、アネット様には最初に魔力を認識していただきます。」

「魔力を・・・認識?」

「こちらに来ていただけますか?そして私の両手を握ってください。」

 シエル先生が手招きをするので、私は立ち上がり彼女の前に歩いて行った。彼女が私に向かって両手を差し出した。私はその両手を握る。


「私から貴方に向けて魔力を流します。力を抜いて楽にしてください。」

「は・・・はい。」

 緊張するが、できる限りリラックスした状態を保ち、目を閉じた。


「いきますよ。」

 彼女が呟いた直後、彼女の手を通して何か熱いものが流れてきた。火傷する程ではないが、身体がかなり熱くなる。そしてそれに共鳴するように私の身体の中から熱いものが感じられた。


「あつ!!」

「落ち着いて。貴方に害を与えるものではありません。身体の中に熱いものが来たと思います。そしてそれに呼応して貴方の中からも似たようなものが感じられたと思います。それが魔力です。身体の中の魔力を認識し、魔力をゆっくり循環させてみせてください。」

 シリル先生の言葉通り、身体の中で魔力を循環させるように働きかけてみる。最初は全く反応しなかったが、働きかけ続けると徐々に動かせるようになってきた。集中して少しずつ動かしてみる。すると、ゆっくりとだが、魔力を移動させられるようになった。


「素晴らしい。流石はセレナーデ侯爵のご令嬢ですね。魔力操作は素晴らしいです。」

「本当ですか?」

「ええ。普通の人なら魔力を認知するだけで最低1カ月。循環させるために最低3カ月はかかります。当日にそこまでできるのは素晴らしい才能です。一度手を放しますが、魔力を循環させ続けてください。」

 彼女が手を離すと、魔力が外に出て行かず、私の中で動いている。暴走しないようにゆっくりとコントロールする。自分の中に何かがあるのは気持ち悪かったが、循環させ続けていると徐々にそれにも慣れてきた。


「本当に素晴らしい。天才とは貴方のような方を言うのでしょうね。」

「いえ。先生の教え方が素晴らしいからです。」

「ふふ。慢心されないように、そういうことにしておきましょう。」

 シエル先生は、魔力を制御している私の目の前にしゃがみこみ、私に視線を合わせてから口を開いた。


「そのまま聞いてください。これから余裕がある時は魔力を意識して循環させてください。魔法はイメージに直結しますが、魔力は日々の訓練で増加します。」

「どうやったら増えるのですか?」

「呼吸をする際に魔力を取り込むことを意識してください。この世界には魔力があふれています。人は呼吸をする際に魔力も取り込んでいるのです。何も意識しなければ息を吐いた時に魔力は吐き出されてしまいますが、息を吸った時に取り込んだ魔力を留まるようにできれば、少しずつですが魔力は増えていきます。」

「む、難しいです。」

「もちろん。一朝一夕で魔力は増えません。どんな魔法使いも少しずつ少しずつ自身に留まる魔力を増やしていくのです。」

 私は息をする際に魔力を取り込もうとしたが、うまく魔力を取り込むことができなかった。身体の中に魔力も意識しつつ、呼吸も意識するのは中々に難しい。呼吸を意識しすぎてむせてしまった。そのせいで感じていた魔力も霧散してしまった。それを見てシエル先生が微笑む。


「ごめんなさい。ちょっと早かったですね。貴方があまりに優秀だったのでつい教えるのを焦ってしまいました。魔力の増やすのはまたの機会にして今回は魔力を循環させることに集中しましょう。もう一度手を。」

「はい。」

 私は再びシエル先生から魔力を送ってもらい魔力を感じ取る。今度はすぐに循環させることができた。

 残りの時間は魔力を制御しながらお茶をすることにした。授業が終わる頃には意識せずに魔力を循環させるようになった。ちなみに眠った後、いつもの場所でアネットにも魔力制御をやらせてみたが、時戻り前の知識のおかげかあっさりとできていた。まあ元々はアネットの身体なのだから、私ができたのであれば彼女にもできて当然だ。

 それから3日に1度、シリル先生が授業に訪れた。そこから魔力を取り込む方法、魔力を魔法に昇華する方法、世界にいる有名な魔法使いのお話、そして実践演習等様々な事を学んだ。ゲームでしか知らない魔法を自分で実現できるのは心が躍った。私は魔法にのめりこみ、先生が来ない時も、時々アネットにお願いして身体の主導権を借りて魔法の練習をした。そして3か月たつ頃には私は抵抗なく魔法を発動させられるようになった。


作品の励みになりますので、評価・リアクション等をいただけると幸いです。また他短編なども投稿しておりますので、お暇がありましたら読んでいただけると幸いです。

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