6.再びあの場所へ
「眠ったと思ったら、ここに戻ってくるとは・・・。」
「あ、ノゾミさん!!」
寝たと思ったら、アネットと初めて出会った場所にいた。目の前にはアネットがいて私も佐々木望の姿に戻っていた。アネットが私を見て嬉しそうに笑う。とりあえず彼女の前に座り、彼女も座らせる。
「まあいいわ。ここでおさらいと作戦会議をしましょう。」
「作戦会議?」
「ええ。貴方も前を向けるようになったし、これから学園が始まるでしょう。」
「学園・・・。」
アネットの身体が震える。ゲーム上では特に虐められるなどはなかったはずだが、時が戻る前はあまりいい思い出がなかったのだろうか。確かにゲーム内ではレグルス殿下ルートに入ると、彼に振り回され、学園生活は一気に面倒になるのだ。
「安心して。基本学園では私が行動するわ。ただ授業の時と貴方が話してみたい人の前では表に出てくるといいわ。」
「授業も・・・ですか?」
「ええ。それには理由があるの。最初貴方の身体で目が覚めた時気がついたのよ。私、貴方の世界の文字が読めないわ。」
「ええっ!?」
アネットが驚く。私も想定外だった。最初起きた時に本を開いてみたが、文字が全く読めなかった。会話はできているので言葉は大丈夫のようだが、どうせなら文字も日本語にしてほしかった。
「だから、授業は貴方に任せるわ。時が戻る前の記憶が残っているでしょう?だから学ばなくても問題ないと思うわ。」
「そうですね。授業は問題ないです。」
「ただ、魔法演習や運動は私に任せてくれる?」
「別にいいですけど・・・。どうしてです?」
「これからの人生で貴方に求められるのは2つ。1つは幸せになること。もう1つは生き抜くこと。せっかく幸せになってもすぐ死んでも意味ないわ。だから力は必要よ。」
「確かに・・・。」
アネットには言わないが、時戻りにあたって1つ懸念事項がある。できれば当たってほしくはないが、アネットを幸せにすると決めた私にはあらゆる可能性を考慮しなければいけない。
「この場所が使えるならちょうどいいわ。眠った後はここで魔法練習しましょう。貴方も魔法を使いこなす必要があるわ。」
「ええ!?無理ですよ。私、時戻る前の授業では全然だめで。」
「大丈夫。貴方は最強になれるわ。ただその力を使いこなせないだけ。」
「本当ですか・・・?」
アネットは信じられないようで自分の両手を見る。だがゲームをやり込んだ私はわかる。彼女は特殊な力を両親から引き継いでいるのだ。言葉通り鍛えれば世界最強になれる可能性を持つ。
「まあ、それは追々ね。」
「わかりました!!それなら私はノゾミさんに文字を教えますね!!」
「ええ・・・。別にいいわよ。」
「いけません!!文字、ダンス、文化や歴史等は知っておいて損はありませんから!!」
アネットが手を握りしめて力説する。最初は拒否しようと思ったが、何故か彼女が楽しそうなので、私が我慢すればいいかと思い頷いた。
「わかったわ。ただし魔法演習が優先だからね。それを忘れないで。」
「はい!!」
アネットが嬉しそうに頷く。彼女の教え方次第だが、教える事が楽しいのであれば教師も向いてそうだ。色々な事を経験し、自分の可能性を知ってもらうのはいい事だ。
「あ、それにあたって1つお願いがあるの。」
「なんでしょう?」
「学園が始まるまで後半年あるでしょう?それまでに魔法を学びたいの。だから貴方の両親に家庭教師を呼んでもらえないかをお願いできないかしら。」
「それは構わないですけど・・・。」
「お願いね。」
漫画やゲームで時戻りの話はたくさんあり、楽しんでいたが、アネットを幸せに生きるという目標がある以上、のんびり楽しむわけにはいかない。彼女には今世を楽しんでもらいつつ、露払いは私がするのだ。
「さて、作戦会議はここまで!!後はおさらいをしつつお話をしましょう!!」
「お話?」
「ええ。いわゆる女子トークというやつよ。私やってみたかったの。」
「女子トーク。」
「嫌?」
アネットは勢いよく首を横に振った。
「ぜひしたいです!!」
「じゃあまずはね・・・。」
それから謎の空間から追い出されるまで、2人で雑談をして盛り上がった。
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