2.憤怒 ~レグルス・シルフィール 視点~
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
「許せない許せない許せない許せない!!」
俺は怒り狂いながら学園を歩いていた。今は放課後。周りには誰もいない。
「アネットが告白を受けただと!!しかも複数から!?あれは俺のものなのに!!」
俺は近くに落ちていた石を蹴飛ばす。石は壁にぶつかって明後日の方向に飛んで行った。
俺の怒りの原因は先日から噂になっているアネットの告白騒ぎだ。彼女は衆人環視の中、告白をされたらしい。その場は逃げだしたらしいが、うかうかしていると告白した相手と婚約する可能性がある。アネットの両親は、入学式でおきた婚約者騒ぎ程度で王家に文句の手紙を送りつけてくる親バカだ。娘が望めば、望んだ相手と婚約を結ぶだろう。逆に言えば、娘さえ言いなりにできれば親は問題ではないということだ。
「くそっ!!まだアネットに触れることはできていないのに!!」
城に閉じ込められている間に洗脳魔法は完成済みだ。人によっては呪いと呼ばれるものだ。この魔法は相手の意思を捻じ曲げ言う事をきかせることができる。普段生活している間は何も変わらないが、俺が命じた瞬間、疑うことなく、その命令を最優先に動く。強制モードにすれば、ただの傀儡になりさがる。それを使った結果、城にいる人間の3割は俺の支配下だ。
だがこの魔法には欠点が2つある。1つは魔法がかかるまで相手に触れ続ける必要があるのだ。どうしても離れた相手に自分の魔力を流し込むイメージが出来なかった。ただし触れる場所は手でなくても構わない。相手に触れ続けさえすればいい。この魔法をかけるには、相手に触れて3秒近く魔力を流し続けないといけない。
もう1つは相手が油断しているか、魔力の抵抗が低い状態、例えば睡眠中や気絶中等の状態でなければいけない。警戒されていると、魔力を流し込んでもすぐに気付かれ排除されてしまう。
アネットはこちらを完全に警戒している。謝罪して、握手をするついでに魔力を流し込もうとしたが、見抜かれてしまった。それから事あるごとに近づこうとしたが、すぐにこちらに気付き、距離を取られてしまう。
生徒を使っておびき寄せることも考えたが、初日の騒ぎで俺に近寄ろうとする人間は少ない。近寄った奴らは全員洗脳状態にしたし、そいつらを利用して、洗脳状態の人間を少しずつ増やしてはいるが、まだ圧倒的に数が足りないし、そいつらはアネットと接点がない。今あいつらをけしかけても、アネットに蹴散らされてしまうだろう。時間さえかければ学園を支配下にすることも可能だが、その前に誰かと婚約されてしまったら手遅れだ。
王族にも盾突く家族なら、王族が命令しようとも無視するだろう。相手は生徒会のメンバーとのことだが、生徒会に伝手がないから、告白した相手を洗脳して無かったことにするのも難しい。
「くそっ。忌々しい!!時戻り前のように大人しく弱々しい女であればいいものを!!」
俺はイライラして指先を噛む。何か手はないか。アネットと知り合いで俺が洗脳できる相手さえいれば・・・。
「あら。誰かと思えばレグルス殿下ですか。」
「キャリー・クラーク・・・!!」
そんな時、鉢合わせたのはキャリー・クラーク男爵令嬢だった。時戻り前は彼女に運命を感じ、婚約者を彼女にすると宣言した。だが彼女は浪費家で我が儘な女だった。アネットを幽閉した後は、王家の仕事など一切せず、自分を着飾る事、自分が綺麗になることしか考えていなかった。結果、王家は没落し、市民で暴動が起きてしまった。こいつがきっちり仕事をしていれば何の問題もなかったのに・・・!!俺は彼女を忌々しく睨みつける。
「何の用だ。こんなところに。」
「別に。誰かが喚いているから、何か起きたのかと思って来ただけですわ。殿下の1人劇場でしたか。お邪魔しました。」
「何だと!!元はといえば、貴様が時戻り前にきちんと仕事をしていれば何の問題もなかったのに!!」
「・・・何の話をしていらっしゃるんですの?」
「くそ・・・。こいつにも記憶が無いのか・・・。」
アネットもそうだったが、こいつにも時戻り前の記憶がないらしい。俺だけが選ばれた存在だという証明にもなるが、あの時の事を無かったこととして、平然と生活しているのは忌々しい。こいつにも処刑される時の恐怖を思い出させて・・・。待て。
俺は慌てて周りを見回すが、周りには誰もいない。ここは学園の少し外れた場所だ。悲鳴をあげさせず、不意をついて触れることさえできれば・・・。
「おい。1つ聞かせろ。」
「な、なんですの。こちらに近寄ってこないで下さい。」
俺が彼女に近寄ると彼女は後ずさるが、すぐに逃げ出そうとはしない。学園で変なことはしないだろうと考えているのだろう。これはチャンスだ。
「お前、アネットと接点はあるか。」
「はあ?なんでいきなりそんな事を。」
「いいから答えろ。」
「こ、この前、喫茶店でお話しましたから、接点はありますわ。ですけど友人ではありません。」
「なるほど。接点はあるんだな。」
「それが何か・・・。ちょっとこちらに来ないで下さい!!」
彼女は俺の雰囲気がおかしいことに気付いたのだろう。逃げ出そうと俺に背を向ける。だが、もう遅い。俺は駆け出して彼女の手を握った。
「少し気絶していろ。」
「!!な・・・なに・・・を・・・。」
俺の魔法に抵抗できず彼女は気絶した。相手を気絶させる魔法も習得済みだ。余りにも魔力差がある相手には効かないが、同学年の魔法使いであれば充分通用する。力が抜け、崩れ落ちた彼女の身体を支えつつ、洗脳魔法をかける。俺の魔力が相手を覆った。
「起きろ。」
「・・・はい。」
俺が命じると彼女は自分の力で立ち上がった。だが、目は虚ろだ。これは洗脳魔法が問題なくかかったことを意味する。
「ふふふふ!はははははははは!!」
「・・・。」
俺は、笑いを抑えることができなかった。これで準備は整った。アネット!!すぐにお前を俺の支配下においてやる!! 待っているがいい!!
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