9.女子会(解呪訓練、恋話)
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
眠った後、いつもの世界で私達は訓練していた。今日は呪いの解呪訓練だ。私が呪いを具現化させる。禍々しい雰囲気のものが、目の前に現れた。
「さあ。アネット。やってみなさい。」
「はい。」
私が呪いを具現化したものをアネットに消すように指示する。アネットは両手を組むと、祈るように呪いの前に屈んだ。すると、温かい光が呪いを包み、呪いを消していった。完全に消えるのを確認すると、アネットは安心したように座り込んだ。私は両手を叩く。
「さすがね。これならもう実用段階ね。回復魔法に呪いの解呪。さらには攻撃魔法も出来るとなったら敵なしよ。」
「ありがとうございます。ただ、呪いの解呪は魔力の消費が激しいですね。そんなに連発はできなさそうです。」
「呪いの解呪なんて滅多にやらないから大丈夫よ。使えるにこしたことはないってだけ。」
「それにしても・・・。ノゾミさんこそすごいですね。呪いを具現化させるなんて。禍々しいものでしたけど。」
「前世の知識のたまものよ。でも私としてはアネットのほうがよっぽど羨ましいわ。回復魔法を使えるほうが有用だもの。」
「使えるか試さないんですか?」
「無理よ。私は誰かのためには祈れない。それがわかっているからね。やるだけ無駄よ。」
そう。私は自分も含め誰かのために祈ることは絶対にできない。そんな心はもう捨ててしまった。だから絶対に回復魔法は使えない。それを試すのであれば、他の魔法を試したほうが懸命だ。魔法を試すということで1つ思い出したことがあった。
「あ、そうそう。話が替わるんだけど、今度日の光が出ている時に替わってもらってもいい?試したい魔法があるの。」
「いいですけど・・・。何も壊さないでくださいね。」
「失礼ね。わかっているわよ。」
昔漫画で太陽の光を使った技があった。それができるか試してみたかったのだ。アネットの魔力量はかなり増えている。いまならいけるかもしれない。この世界は明るいが、太陽はなさそうなので、試せなかったのだ。
「少し休憩しましょう。」
「はい・・・。」
「どうしたの?」
アネットは何かに悩んでいるようだった。私は不思議そうに首をかしげる。アネットは言い辛そうにしていたが、何かを決意したのか口を開いた。
「ノゾミさん。聞きたいことがあります。」
「なあに?」
「私は・・・ノゾミさんを苦しめていますか?」
「ああ・・・。花恋が言っていたことね。」
「・・・はい。」
アネットは辛そうに顔を伏せる。前に花恋に言われていたことをずっと気にしていたのだろう。私は、アネットを見て笑った。
「あんなの花恋が勝手に言っていただけよ。気にしなくていいわ。」
「でも・・・!!」
「忘れないで。私が望むのは貴方の幸せ、それだけよ。他には何もない。」
「どうして・・・ですか?」
「何度もいうけど、私の自己満足よ。ただそれだけ。」
「でもノゾミさんの幸せは・・・。」
「貴方が幸せになることが私の幸せよ。忘れないで。」
「・・・。」
アネットが顔を伏せたままだ。だが、最初に1人の身体に2つの魂が入った時点でわかっていたことだ。両方が表に出ることはできない。片方は裏方になるのだ。私は自分の人生をやり直したいと思ってはいない。それならば、元の体の持ち主であるアネットが幸せになるべきなのだ。
「もしそれが後ろめたいのなら、思いっきり幸せになって笑ってみせてよ。私、こんなに幸せになれましたって。」
「ですが・・・。」
「あーーー!もう!!」
私はアネットの両頬を掴み、左右に軽く引っ張る。アネットはいきなりそんな事をされたので目を白黒させていた。
「ノゾミさん・・・。痛いでしゅ。」
「ウジウジしない!!いい!!貴方が幸せにならないと私が幸せになれないの!!余計なことは考えない!!」
「でも・・・。」
「でもも、なにも禁止!!貴方は自分が幸せになることのみを考えなさい!!」
私はアネットの両頬を離す。まだ痛いのかアネットは両頬に手を置いていた。私はため息をついて彼女に笑いかける。
「それにね。貴方を通して見る世界っていうのも案外悪くないのよ。」
「そう・・・なんですか?」
「ええ。見られなかった景色を貴方を通して見ることができている。それだけで私は幸せなの。だから本当に気にしないで。」
「本当に?」
「ええ。」
私は力強く頷く。実際、アネットを通して見る世界は悪くない。それにずっとこもりきりな訳では無い。たまに入れ替わっているし、眠った後はこうして2人で話ができている。食事等がとれないのは寂しいが、そんなものは些細なものだ。
「わかりました・・・。完全に納得はできていませんが、今はノゾミさんの言う通り自分の事を考えます。」
「そうして。」
「で、す、が!!もししたいことがあったら言ってくださいね!!ノゾミさんにも幸せになってほしいんですから。」
「はいはい。ならさっきも言ったけど、日がでている時にちょっとだけ替わってね。試したい魔法があるから。」
「・・・破壊活動は禁止ですよ。」
「しつこいわね。わかっているわよ。」
アネットはそこまで言うとようやく顔をあげた。正直私のことはあまり気にしないでほしいのだが・・・。まあそれは難しいのだろう。私は話題を変えることにした。
「それよりもっ。ザクの事はどうするの?」
「ザクですか?まだ会ってそんなに期間は経っていませんし、どうもしませんが。」
「また会いたくない?」
「それは・・・会えれば会いたいですが・・・。」
「なら、定期的に町に行きましょう。会えるかもしれないから。」
「本当ですか?」
「それはわからないけれど。何もしないで家にいるよりいいじゃない。」
「まあ、それはそうですけど・・・。」
ゲームでは、学校が休みの日に町に行くことでザクに何度も会うことができる。それで色々な場所へ行き、好感度をあげていくのだ。町に行けば再びあえる可能性がある。
「駄目なら素直に町を楽しめばいいじゃない。」
「それもそうですね。」
私の言葉にアネットは頷いた。よし、これでザクルートの可能性も出てきた。後はもう1つのルートだ。
「ところで、貴方ジネットのことはどう思っているの?」
「ジネットさんのことですか?よいお友達だとは思いますが・・・。」
「友達といっても、1番距離が近いじゃない。恋愛に発展しないの?」
「確かに距離は近いですが・・・。」
アネットはうーんと首を傾げる。どうやらまだ友人としての立ち位置のようだ。しかし、今日花恋がジネットのルートを強引にだが開いた。アネットを好きになるかはわからないが、彼の態度を見る限り、可能性はある。最初に会った時は婚約を断ったが、当主に拘らない彼ならば悪くない。何よりアネットも気を許しているようだし。
「なら、ジネットの方からアプローチしてきたら変わるのね。」
「え、ないですよ。ジネットさんも友人として私に接してくれていますし。」
「わからないわよ〜。恋に落ちるのは突然らしいからね。」
「ノゾミさんも経験ないのに・・・。」
「何か言った?」
「いえ。なんでも。」
私が睨むとアネットは慌てて顔を逸らす。だがどうやら元気はでたようだ。アネットがこの先どういう道を歩むかわからないが、彼女に幸せになってほしいという思いは本当だ。
「さあ、話はここまで。訓練を再開しましょう。もう一度呪いの解呪ね。慣れるまでやるわよ。」
「はい。」
アネットが頷く。そして、その日は解呪の訓練を続けることとなった。
作品の励みになりますので、評価・リアクション等をいただけると幸いです。また他短編なども投稿しておりますので、お暇がありましたら読んでいただけると幸いです。




