2.出会い
“アネット・セレナーデ”の体で目が覚める前。私こと佐々木望は見知らぬ場所でため息をついていた。見上げると青空が映っており、地面はガラス張りのような形で下にも青空が映っていた。日常ではありえない光景だった。
「あ~。これは死んだか。」
見たことはないが、恐らくは死後の世界だろう。天国、地獄、無。死後の世界については様々な意見があったが、どうやらこのような場所のようだ。生と死の狭間の世界の可能性もあるが、考えていても答えは出ない。まあただ死後の世界と言われたとしても特に後悔はない。死んだと言われたら、そうかとしか思わなかった。波乱万丈の人生だったが、別に未練もない。
「それにしてもここがあの世ならお迎えが来るはずよね。どこに向かえばいいのかしら・・・。それとも待っていればいいのかしら。」
とりあえず適当に歩いてみる。だがどれだけ歩いても風景に変わりはない。上も下も青空が広がっている。これは新たな拷問かと思いつつ足を止めずに歩き続ける。
歩き始めて10分は経っただろうか。微かに泣き声が聞こえてきた。このまま無計画に歩くよりましだと考え、泣き声が聞こえる方に向かって走り出す。そちらの方に走りだして少し経つと、地面に伏して泣いている1人の少女を見つけた。金髪の髪に可愛らしい少女。少女の姿には見覚えがあった。少女の目の前で立ち止まる。
「貴方は・・・アネット・セレナーデ。」
「え・・・。どなたですか・・・?」
少女は泣くのをやめ、顔をあげてこちらを見る。どうやら怯えさせてしまったようだ。まあ普通は、いきなり変な場所に放り出されたと思ったら、見知らぬ女に話しかけられたのだ。怯えるのも仕方がないだろう。
しかし何と言えばいいのか。貴方は私がよく遊んでいたゲームのキャラクターです、なんて言うわけにもいかない。実は夢なのかと思い頬を抓ってみたがきちんと痛い。どうやら夢ではないようだ。とりあえず自己紹介をしようと思い、私は彼女の前にしゃがみ、目線を彼女に合わせた。
「いきなりごめんね。私は佐々木望。気がついたらここにいたの。貴方はアネット・セレナーデよね。ここがどこか知らないかしら。」
「ササキ・・・ノゾミさん?ここがどこかは私にもわかりません・・・。気がついたらここにいて・・・。でもどうして私の事を知っているのですか?」
私が優しく話しかけたおかげで、怯えはしなくなったが、私の事を警戒しているようだった。まずは彼女の警戒を解かなければいけないと思ったが、私も状況がわからない。悩んだが、ある程度は正直に話すことにした。
「うーん。貴方の事はちょっと事情があって知っているの。怪しい者じゃないと言っても信じられないわよね。でも私も気づいたからここにいたの。ここがどこかもしらないわ。ただ貴方が泣いていたから、できるのなら貴方の力になりたいと思ったの。」
彼女はまだ警戒していたが、敵意はない事は理解してくれたようだ。彼女はゆっくりと立ち上がり、不安そうに私を見た。
「どうしていきなり私を助けようとしてくれるのですか?私は貴方の事を知らないのに・・・。」
「そんなの簡単よ。私の自己満足よ。」
「!?じこ・・・・まんぞく?」
彼女の質問に私は即答する。予想外の答えだったのか彼女は固まっていた。だが彼女に対して噓を言う必要もない。正直に話した方が楽だ。
「貴方に対して哀れみや同情はしていないわ。どうして泣いていたのかもしらないし。ただ、知らない場所にいて、どうしようかと考えていたら、貴方が泣いていた。貴方の事は知っていて、いい機会だから恩返しをしたいと思ったの」
「恩返し・・・・?お会いしたことはないと思うのですが・・・。」
「ええ。私が一方的に知っていただけよ。でも貴方の存在が私を救ってくれていたの。だから恩返し。」
「私の存在が・・・。」
「ええ。」
彼女にはそう言ったがたいしたことではない。ゲームで散々お世話になったからだ。彼女は特殊な力を持っていたため、ゲームをやる上では爽快感があり、かなり楽しかった。一番やりこんだゲームと言っても過言ではない。
「ね。ここがどこだかわからないけど、誰もいないわ。だから私の自己満足に付き合ってくれると嬉しいわ。話すことで楽になることもあるわ。だから話してみない?」
彼女は迷っていたが、やがて決心したのかコクリと頷いてくれた。
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