3.イラつき レグルス・シルフィール視点
「くそっ!くそっ!くそっ!!アネットめ!!俺をこけにしやがって・・・・!!」
俺はイラつきながら城の廊下を歩いていた。父上にアネットを婚約者とするように言うためだ。
俺は時を戻っている。時が戻る前は国王として贅沢をつくし、気に入らない者はすべて排除した。だが、それは失敗だった。最終的には国民が暴動をおこし、俺は処刑されてしまった。しかし俺は神に愛された男だったのだ。処刑されて死んだと思ったが、気が付いたら時間が12歳の時に戻っていた。これは、今一度国王となり、今度こそ国を統べよという神の意志だろう。だが時戻り前は贅沢しかしていなかったため、勉強は全くしておらず、国の仕事は全て他の人間達に丸投げしていた。だから今回は国の仕事等の雑務を俺の代わりに行える優秀な妻が必要だ。
アネットは時戻り前は俺の正妃だった。失敗だったのは結婚後幽閉したことだろう。優秀であれば、国の仕事を代わりにやらせておけばよかったのだ。俺の寵愛を受けられるだけで名誉なはずだ。そう思って時戻り後、アネットに声をかけてやったというのに、あのような態度を・・・。許されるわけはなかった。思い出すだけでイライラする。
「次期国王である俺に逆らうとは許せぬ。後悔させてやる。」
まずはアネットを婚約者にするところからだ。そこから立場をじっくりと理解させればいい。嫌がる彼女を跪かせ言う通りにさせる。そう考えると楽しくなってきた。思わず笑みがこぼれる。
俺は父上の執務室の前に立つとノックをしすぐにドアを開けた。いきなり部屋に入ったので、父上を護衛する兵士達は警戒したが、俺だとわかると警戒を解いた。
「失礼します!!」
「レグルスか・・・。なんだいきなり・・・。」
父上は俺の顔を見てうんざりした表情で深いため息をついた。だが俺はそれを無視して言葉を続ける。
「父上にお願いが。アネット・セレナーデを私の婚約者に指名させていただきたい。」
「その件か・・・。学園でいきなりセレナーデ侯爵令嬢に絡んだらしいな。婚約者にしてやると。一体何を考えているのだ?お前は王子としての自覚があるのか?」
「な!?何故それを!?」
情報の速さに俺は驚く。まだ今日の出来事のはずだ。その前に話をつけてしまおうという散弾がいきなり崩れてしまった。父上はため息をつきつつ、1枚の封筒を俺に向かって見せた。
「セレナーデ侯爵から抗議文が届いている。書きなぐりというレベルだがな。だがそれだけ向こうが怒り狂っているという事だ。これに関して何か弁明はあるか。」
「わ、私は・・・。ただ次期国王の妃になる名誉を与えてやろうと・・・。」
「次期国王?誰がそんな事を決めた?」
俺の言葉に父上がじろりとこちらを睨みつける。俺はその視線に耐え切れず父上から目を逸らした。
「で、ですが、イザークは病気で臥せております。病状が良くないとも。そうなると次期国王は私しかいないじゃないですか。」
「まだまだ私は現役だ。次期国王などの話はまだ早い。その上最近のお前の行動は目に余る。学園が始まる前までは授業を満足に受けず、我儘三昧。学園に入ったら初日にこのような問題を起こす。再度問おう。お前は第1王子としての自覚はあるのか?」
「も、もちろんあります!!」
「なら行動を改めろ。これが続くのであれば廃嫡も考えなければならぬ。」
「そ、そんな・・・。」
まさかの展開に俺は狼狽える。何故だ。俺は神に唯一選ばれた人間のはずだ。やり直す機会が与えられたのだ。全ては俺の思い通りになるはずだ!!
俺が納得していないのを察したのか、父上は俺を見て再びため息を付いた。
「そもそも何故彼女なのだ・・・。確かに婚約者はいないし、優秀な才女とのことだが、お前は会ったこともないはずだ。」
「ざ、雑務をさせるのであれば優秀であることが必須かと思い・・・。」
「雑務だと・・・?」
まさか時戻りの前には結婚していたから知っていたんですとは言えず、思いついたことを喋る。だがそれがいけなかった。父上は俺の言葉を聞くと、拳で机を勢い良く叩いた。
「まさか、お前・・・。国王がやるべき仕事を押し付けるために優秀な相手を選ぼうとしているのではあるまいな。」
「い・・・いえ。そんなことは。」
「嘘をつくな!!」
「ひぃ!!」
父上が怒りで再び机を叩く。父上の怒号に思わず悲鳴がもれる。助けを求めるように周りを見るが、周りで警備している者達も、使用人達も皆が俺を冷ややかな視線で見ていた。
「自分が楽するために、国の仕事を丸投げできる結婚相手を探しているだと!!ふざけるな!!いいか!!お前が次期国王になりたいというのであれば、それ相応の結果を示せ!!そうでなければ何があろうとお前に国王の座は渡さん!!愚王が国を統治すればあっという間に国が亡びるわ!!」
「そんな・・・。私はただ・・・・。」
「ええい!!下手な言い訳など聞きたくもない!!お前はしばらく部屋で謹慎していろ!!また復帰したとしても、学園でセレナーデ侯爵令嬢に近寄ることは絶対に許さん!!お前達!!こいつを自室に連れて行き閉じ込めておけ!!」
「「はっ!!」」
父上の言葉に周りの兵士達が俺の腕を掴み引きずっていく。全力で抵抗するが、兵士の力だ。ビクリともしない。
「は、離せ!!俺はまだ父上に!!」
「国王のご命令ですので。我々が使えるのは国王様であって貴方ではありません。」
「くそーーーーーーーーー!!」
そうして俺は自室まで引きずられて部屋に閉じ込められた。部屋の外には兵士が立っており出られそうになかった。食事も部屋に運ばれてくる。俺は怒りで部屋の本や物に当たり散らした。だがどんなに暴れても怒りは収まらない。
「くそっ!くそっ!くそっ!!なんで俺がこんな目に・・・。そうだ!!これも全てアネットのせいだ・・・。アネットめ。今に見ていろ!!」
俺はアネットに対して憎悪の炎を燃やし、必ず身の程をわからせてやると誓い、そのためにむけて魔法の準備を始めるのだった。
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