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2. 襲来

「アネット!!」

「ひっ!!」


 アネットを悲劇に合わせた元凶、第1王子のレグルス殿下が唐突に彼女のクラスに現れた。アネットの名を呼び、ドアを開けてキョロキョロとクラスの中を見渡している。そしてアネットの姿を見つけると、大股でこちらに向かって歩いてきた。アネットは彼の姿を見て恐怖で固まっていた。


(アネット!!変わりなさい!!)


 私は有無を言わさず、アネットと切り替わり表に出る。怒りで彼を殴りたくなったが、必死に堪え、表情には出さないようにする。


「これはこれは。殿下。ご機嫌麗しゅう。」

「なんだその態度は。お前は俺を馬鹿にしているのか?」

「滅相もない。それより何かご用ですか?」


 私の冷静な対応に彼は何故かイラついているようだった。時戻り前、アネットは常に彼に怯えていたのだろうか。だとすると彼はアネットの性格を誤解しているのかもしれない。彼は舌打ちをして面倒くさそうにこちらを見る。


「相変わらず察しが悪いな。今日の学園は終わったのだろう。帰るぞ。」

「お断りいたします。」

「はあ!?お前何様のつもりだ?お前に断る権利などないんだぞ。」


 まさか断られるとは思わなかったのだろう。怒りの表情でこちらを睨みつけてくる。私は彼を真正面から見つつ、わざとらしくため息をついた。


「殿下こそ何をおっしゃっているのですか。私達は婚約者でもありませんし、初対面のはずです。一緒に帰る意味がわかりません。」

「!!・・・そうか。この時間軸ではまだ婚約者ではないのか・・・。しかもこいつに記憶はないのか・・・。」


 私の言葉に驚いたのか、彼はぶつぶつと呟いている。内容は丸聞こえだが。やはり彼は時戻り前の記憶をもった人間のようだった。だが頭が悪すぎる。時戻り前にアネットを冷遇しておいて、まだアネットが自分を好きだと思っているのだろうか。レグルス殿下はぶつぶつ呟いていたが、やがて自分の中で結論がでたのか、顔をあげた。


「ならこれから一緒に父上のところに行くぞ!!父上に言えば婚約者にしてくれるだろう!!」

「お断りいたします。」

「はあぁ!?」


 私の断りに対し、彼は一層怒りを滲ませてこちらを睨みつけてくる。イライラを隠そうともしていない。周りも何が起きているのかわけが分からず遠巻きに私達を見ている。そんな中、私は冷ややかな目で彼を見つめ返す。


「失礼を承知で申しあげますが、初対面でそのような態度をとる相手の婚約者になりたいと誰がお思いますでしょうか?正直に言って不愉快です。」

「なんだと!!王家からの申し込みを断れると思うのか!?」

「王家ではなく殿下個人の考えでしょう。それに殿下の婚約者になるくらいなら両親と共に他国に行った方がましです。」

「な!?」


 予想外の言葉だったのかレグルス殿下が怒りで震えている。だが事実だ。彼と会った時のアネットの怯えようがそれを証明している。今もアネットは心の中で震えている。彼の怒鳴り声がトラウマを刺激するのだろう。それが許せなかった。彼を八つ裂きにしたいのを必死に抑える。


「偉そうに!!いいから来い!!」


 無理矢理にでも連れて行こうとしたのか、レグルス殿下が私に向かって手を伸ばす。しかしそれを受け入れる私ではない。彼の手が私に届く前に、私は空気を固くすることで壁を作った。殿下の手は私に届かず、目の前の空気に弾かれる。


「なっ!?ぐげ!!」


 レグルス殿下が驚いた直後、変な声を上げて私の前で転んだ。私が風を操り殿下の足元を掬ったのだ。そして倒れた彼が起き上がれないように、彼の上の空気を死なない程度に重くして動けなくする。彼は起き上がろうと手足を必死に動かすが起き上がれない。


「お前・・・魔法を・・・。学園で・・・魔法は・・・使用禁止・・・。」


 そう。学園からの説明で、魔法訓練場以外で魔法を使用することは基本的に禁止されている。許されているのは自衛の場合と、学生同士の揉め事を仲裁したりする生徒会メンバーだけだ。理由は危険だからである。生徒達は未成年で魔法の扱いはまだまだ未熟だ。魔法が暴走する可能性もある。その際周りに人がいると、暴走した魔法に巻き込まれ命の危険がある。

 これは自衛のためであり、問題はないはずだ。だが、私はあえて知らん顔をした。


「まあ殿下。私は何もしておりませんわ。殿下が勝手に倒れてもがいていらっしゃるだけではないですか。それにしても・・・動きがまるで虫のようで不愉快ですわね。」

「な・・・なんだと!!お、おい!!誰か!!俺を助けろ!!」

 

 彼は怒り狂い起き上がろうと更に必死にもがく。だが、簡単に立ち上がれるような重さにはしていない。そのため起き上がれずみっともなくもがくだけだ。殿下が周りに助けを求めるが、周りの生徒達は私を恐れているのか、誰も殿下の元に近づこうとはしない。


「・・・まあそこで無様にもがいていてください。本件は侯爵家を通して王家に抗議いたします。それではごきげんよう。」

「ま、待て!!」


 叫ぶレグルス殿下を無視して私は教室を出た。周りの視線を無視して帰り道を急ぐ。教室からある程度離れたのを確認すると、操っていた魔法を解除した。そこで一度立ち止まり深い溜息をつく。心配なのはアネットだ。私はアネットに話しかける。


(アネット。大丈夫?)

(・・・大丈夫ではないです。大丈夫だと思っていたのですが、まさかここまで身体が動かなくなるとは・・・思いませんでした。)


 アネットが中で震えているのが分かる。私は怒りでどうにかなりそうだった。あの場で彼を切り刻まなかったのを褒めてほしいぐらいだ。


(今は私に任せて貴方は中で休んでいなさい。)

(ごめんなさい・・・。お願いします。)

(いいえ。私もうまくいきすぎて油断していたわ。ごめんなさい。せっかくの新生活だったのに。)

(いえ!!私が・・・。私が弱いせいで・・・。)

(・・・今は言い合ってもしょうがないわ。一旦私に任せて休みなさい。)

(はい・・・。そうします・・・。)


 アネットが心の奥底に潜ったのを感じつつ、私はイラつきを必死に隠しながら帰宅した。


「お帰り!!アネット!!新入生の挨拶立派だったよ!!」

「お帰りなさい!!本当に立派だったわ!!流石は私達の娘ね!!」


 家に帰ると、彼女の両親が満面の笑みで迎えてくれた。私は八つ当たりしそうになるのを必死に堪える。一度深呼吸をして心を落ち着かせてから口を開いた。


「申し訳ありませんが、私はノゾミです。アネットは今心の奥にいるので、後で褒めてあげてください。何故私が前に出てきたのかというと・・・。」


 私は彼女の両親に私が前に出ている事情を説明した。レグルス殿下がアネットの教室に現れた事。彼がアネットの意思を無視して、アネットを婚約者にしようとした事。それを撃退し帰宅した事。彼らは最初、私が表に出ていたことに驚いていたが、話を聞くうちに徐々に憤怒の表情に変わっていく。そして話を聞き終わると私以上に怒り狂っていた。


「ふざけるな!!私の娘をここまで馬鹿にするとは許さん!!抗議してくれる!!ついでに辞表も叩きつけてくれようか!!」

「本当よ!!許さないわあの若造!!私達の大事な娘に!!やってしまって貴方!!」

「おうともさ!!」

「よろしくお願いしますね。セレナーデ侯爵。厳重注意を促すようにお願いします。」

「任せろ!!」


 セレナーデ侯爵は抗議文を書くために早々に執務室に引っ込んだ。私はため息をつき、力を抜いた。これで一安心だ。魔法軍団の名誉顧問であり、侯爵家当主からの抗議ならば王家も無視はできないだろう。彼が学園で近づいて来なければ、とりあえずアネットも安心して通えるはずだ。

 少し経つとセレナーデ侯爵が部屋から出てきた。手紙を執事に渡し、早急に城の門番に渡すようにと指示を出していた。私はそれを横目で見つつ、アネットの様子を探る。家に帰って安心したのか、彼女の震えは収まったようだった。後は彼女の両親に癒してもらえればなんとか立ち直れるだろう。ふと気がつくとアネットの両親がじっとこちらを見ていた。何かあったのかと首をかしげる。


「どうかしましたか?」

「いや・・・。君がいてくれて本当に良かった。もし君がいなければアネットは無理矢理城へ連れていかれていただろう。本当にありがとう。」

「本当に。これからもアネットの事をよろしくね。」


 そう言って2人は私に向かって頭を下げた。私は慌てて手を振る。


「私は出来る事をしただけですので気にしないでください。それより頭をあげてください。周りから見ると娘に向かって親が頭を下げているのはおかしいですから。それよりアネットを労ってあげてください。怯えて傷ついていると思うので。」

「・・・そうだな。抗議文は送った。もしこれで変わらないのであれば王国は我が家を敵に回すという事だ。抗議の事はいったん忘れて、今はアネットを思いっきり可愛がるとしよう。」

「ええ。美味しいものをいっぱい食べさせて、今日は添い寝をしてあげましょう。」

「じゃあ、アネットと替わりますので、少々お待ちください。」


 そう言って、私はアネットに声をかけた。最初は反応がなかったが、両親が待っていると伝えると心の奥底からでてきたので私と交替した。私は奥に引っ込んだが、彼女は両親にいっぱい甘えたことで少しは持ち直せたようだった。

 その夜、アネットと話し合ったが、彼がまた来た時は同じように私が対応するという事で落ち着いた。今度彼にあった時、私が我を忘れて彼を八つ裂きにする可能性がないとは言えないが。私も周りの動向に気を付けなければいけないと、今一度気を引き締めるのだった。


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