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1.学園の始まり

「アネット。気を付けていくんだぞ!!」

「無理しちゃ駄目よ!!私もお父様も貴方の味方だからね」

「もう・・・お父様にお母様も。大丈夫よ。学園が始まると言っても、今日はすぐ帰ってくるのだから。」


 アネットは自分の両親を見て苦笑する。今日から学園が始まる。そうはいっても学園は馬車で通える距離なので、寮に住むこともない。今日は入学式なので2人も後から見学に来るし、授業もないから午前中で終わるのだ。それなのに2人は心配でしょうがないようだった。


「そうは言うがな・・・。学園にはレグルス殿下も入学されるのだろう?時戻り前に色々あったそうじゃないか。絡まれるのではないかと心配でな。」

「そうよ。それにクラーク男爵令嬢も入学されるのでしょう?アネットに何かしないか心配だわ・・・。」


 確かに学園にはレグルス殿下やキャリー・クラーク男爵令嬢も入学してくる。時戻り前、アネットは彼らに虐げられた。クラーク男爵令嬢にいたっては、最後にアネットを処刑の身代わりにした。アネットにとって彼らの存在はトラウマであり、最悪な思い出しかない。クラスが同じかは不明だが、レグルス殿下は記憶が残っているようだから、クラスが違っていても何かしかけてくる可能性はある。だがアネットは自分の両親を安心させるように彼らに笑顔を向けた。


「大丈夫。ちょっと怖いけど、何かあった時はノゾミさんが替わってくれるから。それに・・・私はもう逃げたくないの。」

「アネット・・・!!」

「アネットがこんなに大きくなっているなんて・・・。」


 2人はアネットの言葉に感極まっている。いくら時戻り前の事を聞いているとはいえ、なんというか・・・行動が大げさすぎる。


(本当に親馬鹿ね。)

(もう・・・ノゾミさん。そんな事言わないでください。2人は私の事を心配してくれているのですから。)

「アネット!!ノゾミさんに伝えておくれ!!くれぐれも娘の事を頼むと!!」

「ノゾミさん!!娘のことをどうかお願いしますね!!」


 私が呆れているのも知らず、2人はアネットに向けて力強く叫んでいた。私の事を頼りにしてくれるのは嬉しいが、さすがにしつこい。使用人達も彼らを見て苦笑いをしている。


(はいはい。わかったわと伝えて。もう行きましょう。使用人達が呆れているわ。)

「ノゾミさんは任せてと言ってくれているので大丈夫です。もう行きますね。」

「気をつけてな!!」

「入学式には後から行くからね!!」


 アネットは馬車に乗り込むと、馬車は走り出した。今日は快晴で入学式日和だ。少し風があって馬車の中も快適である。馬車の中で私はアネットに話しかけた。


(ご両親の前ではああ言ったけれど、学園では何が起こるのかはわからないわ。学園についたら一旦私に替わりましょう。問題がなければ、また貴方に替わるから。)

(私としてはありがたいですが・・・。いいんですか?)

(いいのよ。元々学園では私が主で行動するつもりだったから。それより貴方新入生代表の挨拶に選ばれたのでしょう?大丈夫?)

(はい。原稿はできましたので・・・。後はかまなければ何とか・・・。)


 入学式前の筆記試験でアネットは優秀な成績をおさめたらしく、彼女は入学式の新入生代表に選ばれた。昨日の夜までその挨拶を必死に考えて練習していたのを私は微笑ましく見ていた。彼女にとっては2度目の入学式ではあるが、余計な事を考えず楽しんでほしいと思う。

 しばらくの間、馬車は走り続け、やがて止まった。御者が馬車の扉を開けてくれる。私はアネットと交替すると、馬車から降りて建物の入口を見上げた。


「ここが・・・。」

(はい。アルセーヌ学園です。)


 私は学園の大きさに圧倒される。ゲーム画面で見るのと実際に見るのとでは大違いだ。

 学園はとても大きかった。建物がいくつもあり、奥には寮もあるようだった。運動できる場所はホールだけではなく、グラウンドも複数あるようだ。グラウンドの1つは魔法演習の場所としても使うのだろう。大きな私立高校という感じだ。貴族のほとんどは12歳になったらここに3年間通い、知識、教養、そして魔法を学び、それぞれの道に進むのだ。

 

(すごいわね・・・。いろいろ気になる所はあるけれど、場所の詳細はわからないから教えてくれる?まずはクラス分けを見るところかしら。)

(そうですね。案内します。)


 私は、アネットに案内されながら校内を進む。すると、クラス分けが張り出されている場所についた。そこには既にたくさんの新入生がいて、皆自分のクラスを探していた。人混みをかき分け、張り出されている場所の前に立つと、アネットのクラスを探す。アネットの名前はすぐに見つかった。だが私はアネットのクラスを見つけた後も、クラス分けを見続けある人物を探した。そんな様子を見てアネットが不思議そうにしている。


(ノゾミさん?どうかしました?私達のクラスはわかったのですから、入学式の会場に・・・。)

(・・・ないわ。)

(え?)

(キャリー・クラーク男爵令嬢の名前がないわ。)

(え!?)


 そう。何度もクラス分けを見るが、キャリー・クラーク男爵令嬢の名前がクラス分けの一覧にないのだ。他の攻略対象の名前はあるのだが、彼女の名前だけがどこを探してもない。アネットも私を通して、クラス分けをもう一度見直す。


(本当ですね・・・。彼女に何かあったのでしょうか。)

(・・・わからないわ。ただ既に未来は変わっているからこれもその1つでしょう。)


 ここにいないという事は、彼女も時が戻って、入学を回避したりしているのだろうか。攻略相手ではないが、アネット・セレナーデに深く関わる人物だ。時戻りしていても不思議ではない。時戻り前では、回避したとはいえ処刑されかけたのだ。今回はレグルス殿下と絡まないようにしたのかもしれない。


(まあいいわ。今考えても仕方がないし。一旦彼女の事は忘れましょう。関わらないにこしたことはないのだから。)

(・・・そうですね。)


 私達はその場から離れると、クラス分けされた教室に向かった。教室に着くと、既に教室にいた人に挨拶して回る。アネットに聞くと、最初のクラスは時戻り前と同じのようだ。時戻り前に仲良くしていた人がいたらしくアネットはとても喜んでいた。レグルス殿下は同じクラスにいなかったので、自分の席についたところでアネットと交替した。

 アネットは最初不安そうにしていたが、勇気を振りしぼって近くのクラスメイトに話しかけた。相手側も知らない人ばかりで不安そうにしていたが、アネットと気が合ったのかすぐに仲良くなっていた。入学式は周りが知らない人だらけで不安にかられるという、学校生活スタートあるあるだが、とりあえず友人が0人ということはなさそうだった。アネットの学校生活は順調にスタートしたようで私は一安心だ。

 アネットが会話に夢中になっていると、あっという間に時間が経っていたようで、担当の教師がクラスに現れ、皆をホールに連れて行った。ホールには既に入学生の親達もいてアネットの両親も来ていた。そこで入学式が行われた。アネットは緊張していたが、新入生代表として立派に挨拶をしていた。参列していたアネットの両親が涙している。私としては、彼らはちょっと子離れできていないようで心配なのだが・・・。今日くらいはいいだろう。私もアネットが挨拶をしていた時は、親のような気分で見ていたのだから。

 入学式が終わると、再び担任が皆を連れてクラスに戻り、皆に自己紹介を行わせた。クラスのメンバーの自己紹介を見た私の主観だが、悪い人はいなさそうだ。ゲーム内では、アネットが侯爵家というのもあり、彼女がいじめられる等の心配はしていなかったが、何がきっかけになるかはわからない。ルートによっては虐められている人を助けることで、彼女も標的になるといったイベントもあった。だがどのルートに進むかもわからないし、既にゲームと道筋は大幅にはずれているため同じ事が起きるとは限らない。現時点ではアネットが楽しそうだからよしとしよう。

 入学式と自己紹介、そして学園の説明が一通り終わり、帰宅の時間になった。


(とりあえず1日目は無事に終わりそうね。帰りましょう。)

(はい帰りましょう。)

「皆さんお先に失礼いたします。明日からよろしくお願いしますね。」

「アネットさん。こちらこそ明日からよろしくお願いします。」

「アネットさん、よろしくお願いしますわ。」


 アネットは早速できた友人達に挨拶をしていく。皆も笑顔で返してくれる。明るい学園生活が始まりそうで安心した。


(良い人達に恵まれたようで何よりね。学園生活がうまくいきそうで何よりだわ。)

(ええ・・・。本当に・・・。)


 このまま無事に1日が終わると思ったのだが・・・。そうはならなかった。


「アネット!!」


 アネットを悲劇に合わせた元凶が彼女のクラスに現れたのだ。


作品の励みになりますので、評価・リアクション等をいただけると幸いです。また他短編なども投稿しておりますので、お暇がありましたら読んでいただけると幸いです。

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