10.娘の中にいる娘の協力者 ~ジャクソン・セレナーデ視点~
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「君は誰だい?」
表面上は冷静にしつつも内心は怯えながらアネットに聞いた。彼女に「何を変なことをおっしゃっているんですか?」と笑いながら否定してほしいと願いつながら。私の言葉にアネットは息をのんだようだった。私は何があってもすぐに対応できるように魔力眼を通して彼女を見る。彼女は少しの間固まっていたが、やがて妖艶の笑みを浮かべて手を叩き始めた。
「ア・・・アネット?」
「素晴らしいですわ。さすがはセレナーデ侯爵。まさか見抜かれるとは思いませんでした。」
「・・・君が誰で何が目的なのか聞かせてもらおうか。」
私は魔力を操り、腕に炎を巻きつかせるように展開させようとした。炎は現れたがすぐに消えてしまった。
「!?」
慌てて魔力を操り再び炎を出そうとするが、炎は出現しない。確かに魔力は存在しているのだ。初めての現象に私は焦る。アネットの姿をしている少女は、そんな私を見て楽しそうに微笑んだ。
「炎をだすのはやめましょう。万が一どこかに燃え移ったら大変ですわ。」
「・・・何をした。」
「まあ、魔力があっても炎がだせないようにしたとだけ。」
焦りを見せないようにしつつ彼女を睨みつけたが、彼女はクスクスと笑うだけだった。アネットと同じ顔なのに全く別の何かに見えてひどく不気味だった。だが彼女はすぐに真剣な顔でこちらを見た。
「落ち着いてください。私は貴方達と敵対するつもりはありませんし、アネットに危害を加えるつもりもありません。この身体は彼女のものなのですから。」
「・・・なら君の目的は?」
炎を出すのを諦め彼女に向き直りながら必死に考える。幽霊などを信じてはいなかったが、万が一あれが悪霊の類であればどうすればいい。どうすればアネットの身体から追い出せるのか。そんな考えをよそに、彼女は私の目をまっすぐ見て断言した。
「私が望むのはアネットの幸せです、ただそれだけです。」
「それが事実ならば何故娘の時間を奪う。君が身体を乗っ取っている間、娘は身体を使うことができないだろう。悪霊と言われても仕方がないと思うが。」
「そうですね。そこは否定しません。ただ私が身体を使わせてもらう時は、基本的に魔法の授業の時のみです。家族の団欒にはでていませんよ。それに魔法の授業の時に身体を使わせてもらう事は、アネットも了承しています。」
確かに、食事の時や家族でお茶をしている時にアネットに対して違和感を覚える事はなかった。そういう意味では、彼女の言う通り、アネットや我々と敵対していないとのは本当なのだろう。しかし何故魔法を求めるかがわからない。
「何故魔法の力を求める。魔法の使い方を覚えたら娘の身体を乗っ取り続けるのではないか?」
「そこは信じていただくしかないのですが・・・。これからアネットの人生にはたくさんのか壁が立ちはだかります。それを打ち破るためには力が必要なのです。」
「壁だと?意味が全く分からないが。・・・とりあえず娘と話をさせてもらうことは可能だろうか?」
「最初に2人きりで話をしたいという事でしたので、今は奥に引っ込んでもらっています。この後変わりますので話すのでしたらその時にお願いします。」
「そうか・・・。」
彼女の様子を見る限り、娘に危害を加えるつもりがないのは本当のようだ。それがわかって少しは安心する。
「君は別の人格なのか?」
「いいえ。完全に別人です。前の人生を終えたと思ったら、不思議な場所にいて、そこで彼女と出会いました。」
「不思議な場所・・・。」
「ええ。そこで彼女はずっと泣いていました。彼女から話を聞いて、彼女のサポートをして彼女を幸せにすると誓ったのです。そうして不思議の場所から彼女と一緒にでたら2人共彼女の身体の中にいました。」
「君にとっては酷な事だとは思うが・・・。これからは私達が娘をサポートするから君には」
「信用できません。」
私達に任せてほしいと言おうとしたが、彼女に一刀両断された。その勢いに思わず驚く。信用できないというのはどういうことなのだろうか。
「な、なぜ・・・。」
「だって、貴方達は彼女の絶望を全く理解していませんもの。もしこの状態で私がいなくなったら、彼女はまた飛び降りますわ。」
「!!」
あの日の絶望が蘇る。娘を失うかもしれないという恐怖。あんな恐怖は2度とごめんだ。そもそもあの日何故飛び降りたのかを私達は知らない。
「だから何故彼女が絶望したのかを知ってください。荒唐無稽の内容ですが。それを理解しなければ、貴方達は再び娘を失うでしょう。」
「・・・それを言われると何も言うことはできんな。聞こう。」
「わかりました。ではまず私とアネットが出会ったところから話しましょう。」
そして私は信じられない話を聞く事になった。
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