表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/13

第四章 潜入:偽りの冒険者

「――登録希望者か?」


バルゼリア北方支部ギルドの受付嬢が、驚いたように顔を上げた。


目の前に立っていたのは、銀髪に赤い瞳を持つ、整った顔立ちの青年。

やや痩せぎすだが、体の芯には何か冷たい力を宿しているような、そんな印象を与える存在だった。


「……名前は?」


「ユウト・アイゼン。身寄りはない。剣術と多少の魔法が使える」


悠人――もとい“ユウト”は、今や完全に人間に擬態していた。


本来、擬態スキルは姿形を模す程度の能力だが、【精神耐性】と【進化系スキル】の複合で、呼吸、脈拍、熱源まで模倣可能になっていた。


受付嬢の瞳がわずかに揺れたが、特に不審は示さない。


「じゃあ、《仮登録》として三日以内に依頼を一件こなしてもらうわ。ランクは仮Dね。剣士で登録していい?」


「……ああ」


ギルドカードが作成されると同時に、ユウトはバルゼリアでの活動を正式に開始した。


……


(これでよし。ギルド登録完了。あとは“奴”の行動パターンを掴むだけだ)


復讐の相手、ブライ・ガルドはこのバルゼリア北支部に拠点を構え、現在は「個人ギルド」として別格扱いされていた。


冒険者であると同時に、民間軍事団体を率いる準貴族のような立場――

金と人望で動く危険な男。


(正面から仕掛ければ、俺の存在は即座にギルドに知られる。今回は“中から喰う”)


……


三日後。


ユウトは依頼をこなし、仮登録から本登録へと昇格していた。


基本的な戦闘は剣でこなす。もちろん、それも【剣術初級】と【金属変形】の応用による偽装。

内部に剣の“芯”を通し、筋肉のように粘液で操作する。見た目は完璧に人間の剣技。


そして、彼の戦闘スタイルはギルド内で静かな注目を集めていた。


「ユウトって奴、あんま喋らねぇけど強えな……」


「うちのCランクぐらいなら普通に倒しそうだぞ?」


「噂じゃ、火魔法も使えるらしい。バランス型の剣魔タイプだな」


ギルド内での信用を徐々に積み重ねつつ、ユウトは密かに“標的”へと迫っていた。


……


その頃、ブライ・ガルドは邸宅の執務室で、一通の報告書を読んでいた。


「……“紅蓮の魔女”が死んだ? あいつを殺れる奴なんて、いたか?」


隣にいた側近の重装戦士が口を開く。


「ギルド本部は“メタルスライムの進化体”による報復ではないかと噂してます。蘇生拷問の後遺症による、狂った個体が生まれたと」


「ハッ! スライムに殺されるとか、情けねぇ女だな。だがまあ……そういう“異常個体”ってのは、確かにいる。だから潰しとくに越したことはねえ」


ブライは立ち上がり、窓の外を見つめた。


「俺が最強だ。誰であろうと、踏み潰してやる。それだけだ」


……


夜、ギルド酒場。


ユウトは静かに椅子に座り、数人の冒険者たちの会話に耳を傾けていた。


「明日、ブライの護衛チームが森に出るらしいぞ。何か、大きな依頼があるらしい」


「マジかよ、また上級魔物の狩りか?」


(来たな……チャンスだ)


ユウトはそっと立ち上がり、ギルドの掲示板を眺める。


そこに、新たに貼られたB級依頼があった。


■《護衛任務》:依頼主・ブライ・ガルド

内容:護衛隊の補助、偵察、斥候の随行

期間:3日間

指定ランク:C以上(特例でD参加可)


静かにギルドカードを掲げる。


「この依頼、受ける」


……


そして、夜が明ける。


第三の復讐劇が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ