第一章 蘇る怒りのスライム(後半)
「……なんで、お前が……!」
ベッドに縛り付けられたレオンは、蒼白になっていた。全身が痺れ、剣も手に取れない。彼の目には、床を這う銀色のスライムが映っていた。だが、そいつはただの魔物ではなかった。
その瞳――確かに“知性”を持っていた。
「な、なんで喋ってやがる……! スライムのくせに……!」
「……俺はスライムじゃない。俺は、“山澤悠人”だ」
「……!? 誰だ、それ……!」
「そうだな、お前の記憶にはないかもな。お前にとって俺は、ただの“経験値袋”だった。何度も斬り、焼き、笑って殺したスライムだ」
悠人の声は淡々としていたが、その中に込められた怒りは凍てつくように冷たかった。
「冒険者ギルドの“無限蘇生訓練施設”。お前たちはそこにメタルスライムを囚え、何度も殺して経験値を稼いでいた。蘇生魔法で生き返らせては、また殺す。なぜなら――メタルスライムはレベル上げに最適だから」
レオンの目が見開かれる。自分が軽い気持ちで関わっていた訓練が、どれほどの地獄を生んでいたか――今になってようやく理解したのだ。
「……だが、俺は生き延びた。そして“進化”した」
【スキル:精神耐性Lv5】【痛覚抑制】
【スキル:神経毒生成】【気配遮断】【スキルコピー】
【称号:不死の囚人】【復讐する者】
悠人の銀色の身体が微かに震え、金属の波紋が生じた。レオンの首筋に粘液の一部が触れた瞬間――
「ぐ、うぅぅ……!」
体の奥底から、猛烈な苦痛が這い上がってくる。
「まだだ。これは一度目。お前は、俺に百回殺されたんだ。だから、お前も百回――死ね」
そう言うと、悠人の体が液状化し、レオンの口と鼻を覆った。
「……ぁ……ぐ、ぅぅ!」
呼吸ができない。目が潰れ、肺に液体が流れ込み、心臓が凍るように止まっていく。
数十秒後、レオンは静かに絶命した。
……
数分後。
悠人はその亡骸の上に浮かび、静かに念じた。
「スキルコピー」
【スキル取得:剣術初級】【筋力強化Lv1】【直感】
「なるほど……こいつのスキルは中途半端だな。だが、今の俺にはどんな力も価値がある」
悠人はその場から去った。宿屋の扉をくぐる前に、背後を一度だけ振り返る。
「お前が最初の一人だ。次は……“セリナ”」
記憶に刻まれた紅髪の女魔術師。悠人の苦しみを笑いながら炎の魔法で焼いた女。レオンと共に悠人を“訓練用素材”として見ていた仲間の一人。
「覚悟しておけ、セリナ。今度は……お前の番だ」
夜の街を、銀色の影がすべるように駆けていった。誰にも気づかれぬまま――復讐の炎を燃やしながら。