第9話 セーフティゾーンは難敵
◇
私は【形成】で人型ボディを作り上げて一つ気付いた。
「服が無い!」
身体は作れる!
比較的簡単に出来た。
フィジカルの専門家と言って良いお肉のスライムな私に掛かればチョチョイのチョイだ。
宝生マリノの造詣はほぼほぼ再現出来たと言って良い。
気になる位置にあったホクロは再現しなかったよ。
「我ながら美女だね〜。品格すら感じる」
『自画自賛凄いね。確かに私達美人だけど』
死んだ探索者の置き土産から勝手に借りた手鏡に写っている美女は私マリノだよ。
スケルトンの骨を美骨へと削り整え芯にする。
その後、私の【軟体】で包み込む。
そして探索者の人皮パーツと髪パーツを良い感じに【形成】して、目玉をセット。
喋るためにお口と肺と声帯もセット。
声帯は調整が地味に難しい作業だったね。
胃や腸その他臓器使わないから再現してない。
持ってる生体パーツで一番性能の良いみらいチャンちゃんのパーツはここでは使わないよ。
何かあったら大変だからね!
「女性探索者のパーツ殆ど使えてないのにここまで美女作れるの凄くない?」
『男性探索者の尻や背中太ももの内側のパーツは案外綺麗。私勉強になりました!』
探索者の男女比率は8対2くらい
私達がいるダンジョンでいい感じに死んでくれる女性探索者はあまりいなかった。
私達の近くで死んでくれた女神様みらいチャンちゃんに感謝の祈りを捧げる。
女性のパーツが足り無いなら代用品に頼るしかない!
意外とどうにかなる物で男性探索者のパーツ9割以上と言って良いのに再現性は完璧であった。
「出来たは良いけど全裸の美女がダンジョンで歩くのは不味いよね。どう考えてもマズイ」
『服の事全く考えて無かったよね。道中の宝箱に何かあったのかも知れないけど宝箱にスライム向けの装備なんて入ってないから気にしてなかったし』
死んだ女性探索者の衣服なんてボロボロで使えないんだから他の手段を考えるしかない。
「悪そうな探索者を殺して皮と衣服丸ごと奪う。そしてダンジョンから脱出するのが一番かも」
『悪そうなソロ探索者がいいね。仲間がいると入れ替わった時に違和感感じるだろうし』
そうしよう。
そうしよう!
私達は善性のイレギュラー個体。
悪い奴しか殺さないのだ。
◇
【地獄耳】は本当に便利だ。
このフロアの全ての声が聞こえてくる。
普通に考えれば雑音が多すぎて頭が混乱するだろうけど、【地獄耳】は必要な情報を選別して私達に届けてくれる。
〈どけや!!糞雑魚共がたむろしてんじゃねぇ!!〉
そう怒声をあげる粗暴な探索者さん。
今回私達は彼をストーキングする事にした。
彼は殺すに値するクズ野郎なのか判断する為だ。
そして今私達は彼の影に【潜影】を使って入り込んでいる。
闇魔法の扱いも慣れた物で【闇穴】を使えば人の背後に潜むなんて簡単なんだよ。
これを利用したらセーフティゾーン突破出来るんじゃない?と思ってやって見たけどものの見事に失敗した経験がある。
「しかしこの粗野で粗暴さん意外と悪そうな事しないな」
『見た目が悪いだけで善良なのかも知れないね』
そう、この探索者さんは意外とまともだった。私達的に悪い事して欲しいのに中々しないから困ったものである。
結局その日悪い事しなかったので諦める事にした。
見た目じゃ分からないから結局ソロ探索者を虱潰しで調べる事になったよ。
『この人も駄目でしたね』
「みんな真面目過ぎだよ!もっと他の探索者襲って成果物取り上げたりして欲しいんだけど!プンプン」
ダンジョン配信もあって今の探索者は悪い事はあまりしないんだよね。
特にソロ探索者は争いが起きた際に不利益が無いよう記録が残る様に配信してる事が多い。
「ターゲット間違ったかな?」
『実はパーティの方狙った方が良かったり?』
「それはそれで入れ替わる時間がシビア過ぎるんだよね。仲間に気付かれず早着替えする技術が私にはまだ無いんだよ」
◇
セーフティゾーン突破が地味に難関過ぎる。
あれから一週間は過ぎてしまった。
今回は体内時計じゃなくダンスマで確認してるから正確だよ!
新スキルも増えたのは良いんだけど戦闘には使えないスキルだった。
ここで何時までも足止めされてるのが嫌すぎるんだよね〜
余裕だと思ってたのに、探索者協会のモラル教育が行き届き過ぎてるわ。
世界はもっとカオスな方が楽しいと思うよ!
「いやだったけどなんかそれっぽいおっさん探索者の皮を作るかなぁ」
「気持ちが乗らないんだよね〜。私が芸術家肌だとは思ってなかった」
『マリノなら良い感じの平均で目立たないおっさん探索者作れるよ!』
「それにおっさんの服なら死体漁ってた時のが結構あるんだよね」
何かに使うかもしれないと思って一応取っておいた。わたし偉いね!
サクサクと作成。
知らないおっさんに思い入れ無いから早く作れたよ!
中肉中背のおっさんの皮を被り臭そうな衣服を身に纏い準備オッケー
周りに溶け込む為、店売りっぽい武器を装備した。
さてセーフティゾーン行きますか。
面倒だから誰も話しかけるなよ!
〈おー始めて見る顔だな!儲かってるか?〉
糞ッッ話しかけて来やがった!
適当に作ってるから声を出す肺と声帯仕込んで無かったぞ!
あせあせっっ
速攻で肺と声帯を用意して声をだす。
〈あー……んー……ソロだから暫く声出してなくて。あー
……あー……すいません整いました。そこそこでしたよ。スケルトン相手は良いんですがゴーレム相手はソロじゃ厳しかったっすね〉
〈だよな〜帰還テレポーターまでまだまだあるから気をつけろよ!〉
〈はい失礼しますね〉
ペコペコしまくってたこの場を乗り越える事に成功した。
セーフティゾーンのチェッカーも無事クリア出来た。
最初からこれで良かったじゃん。
凄い遠回りしちゃったよ!
けど今回の事は良い教訓になったね。
私は今配信端末を持ってない。
これは普通あり得ない事だ。
配信端末は配信しなくても映像や位置情報を記録しているし情報を国のデータセンターに送ってる。
死んだ場合に魂を保護して長期間ダンジョンに取り込まれる事を防ぎつつデータセンターから救護要請が出るシステムが完成してるから世の探索者は安心してダンジョンに潜れるの。
そんな必須アイテムをソロ探索者が持ってないのは怪しすぎる。
さっきのお兄さんがわざわざ声を掛けてきたのはその所為だろうね。
配信端末は死亡すると魂保護を優先する為に動画関連の機能は全てオフになる仕様です。
ビーコン機能も付いてます。
ダンジョン内の魔力を取り込んで魂を保護するので端末が破損するまで保護する事が可能。