第36.5話 閑話 私達の日常
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異世界の全てを見通す目
異世界の全てを聴き受ける耳
そして全てを記憶するメモリー
それが“私達”だった
世界で最も優れた叡智を手に入れる事を目論見、愚かにも私達を手に入れようと侵略した馬鹿者共は全て消し炭にし神は八つ裂きにし世界は欠片も残らない程に滅ぼしてやった。
しかし
受けた傷は大きく私達の世界もまた滅びゆく事になった。
私はこの叡智を愚か者に渡す事無く世界から消え去る事を誇りに思う。
未練が無いわけではない
我が身を引き裂かれ別れていった半身達の事だ
もう一度会いたい
私は一縷の望みをかけて己の全てを結晶化させ悠久の時流れる世界の狭間に身を預けたのだ。
時は私を損耗させ私の記憶は欠けていった。
どれくらい時が経ったのだろう。
辛うじて己の名前や半身達の事を覚えていたし思考する頭脳がまだ残っていた奇跡に私は感謝したい
そう奇跡だ
私は世界が重なり歪みが生まれダンジョンが発生するその摩訶不思議な事象に巻き込まれ、見知らぬ異世界に顕現した。
記憶の残滓にはこの世界の情報は無い。
ここまで損耗していると正確性など無いに等しいが
世界の狭間にて待つ今までよりはずっと良い
ダンジョンから魔力が供給され私は少しだけだが力が回復していった。
霊体を操りある程度動く事も出来る様になったが、私はダンジョンの一室に閉じ込められている様でその場所から逃れる事は不可能だった。
しかし待ち時間はそう長く無かった。
来訪者が現れたのだ
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言葉に言い表せない程の感動。
私に肉体があったなら泣き喚き嗚咽を漏らしていただろう。
私は直ぐに分かった。
私の別れた半身だと。
半身が私と会って何も反応が無いのはちょっと寂しくはあったが今の私は王笏なのだから分からないのも無理は無い。
彼女達半身は生まれ変わって新しい人生を生きていたのだろう。
そして私と再開した。
何という因果
何という運命
何という奇跡
半身は気軽に話しかけてくる。
〈これが新宿ダンジョンのクリア報酬か〜
格好良いクリスタル髑髏の王笏だね!
持ち手が脊髄ってイカしてるわ〜
この三つ目も超格好良い!
ちょっと【鑑識眼】で見てみるね
おおおお!
神話級アーティファクト神の残滓[記憶]だって!
マリナ超お宝だよ!〉
『マリノはしゃぎ過ぎだよ〜
このアーティファクトさんはお喋り出来る見たいだね
心の声が聴こえてきたよ。
始めまして私は宝生マリナ。
最初にテンション高くて喋ってたのは私の双子の姉の宝生マリノ
貴方は名前はあるのかしら
私達と一緒に来てくれる?』
なんと!半身は一体では無くもう一体も同居して居たのだ!!
しかし今は問いかけられている最中だ。
感動に浸るのは後からでも出来る。
私は答えた
〈私の名は……
マリサです。
本来もっと長い名前ですが言語化するのは難しいと思いますので古い友人達が読んでいたこの愛称で呼んで下さると嬉しいです。
昔は神の端くれだったのですが今は色々ありインテリジェンスロッドになっています。
多少スキルに自信がありますのでお力になれると思います。
マリノ・マリナこれから宜しくお願いしますね〉
「マリサ宜しくね
名前なんか親近感湧くわ〜
マリナに一本線増やしただけだからマリサは妹見たいなもんだよね」
『マリノまたそんな事言って!
マリサ私からも宜しくね』
私は新たに半身と共に歩む機会を得られた
運命に導かれた幸福者だ
かつて世界の全てを見通していた私達
今から私は愛する二人とその家族達だけを見守り記憶して行く事にしよう。
私達の日常こそ何よりも大切なのだから。
これでこの章は終わりになります。
次で一応の最終章となります。
短く纏める予定なのでもう少しだけお付き合い下さい。
2月頭辺り迄に書き終えたい