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第31話 語り手 リリーファ

その日……私に向けて神の啓示が下りました。



私の名前はリリーファ・ララ・エルフィン・ローハイン


神樹より産まれるハイエルフ第七七世代の特別選定枠の一体です。

 

通常は神より名付けなどして頂けないのですが私には特別に名付けして下さいました。

唯一の誇りで御座います。


我々は神巫女として救済者様に出会い導く為に神樹の実として産まれ、神より呼ばれるまで実の中で眠りにつき、時を過ごしていきます。


この世界の安定と平定、侵略者どもから世界を守る為

それと世界を繋げ平和維持の要ともなる【天網】の為に産まれるのです。


その使命を受けた私でしたが最初に迎えたお優しい救済者様を喪ってしまい失意のどん底に長らくいました。


野蛮なオークからエルフ・英雄子孫(ハーフエルフ)の民達を逃がす為に自ら犠牲になって亡くなるのを見る事しか出来ない私のなんと情けないやら。


本当に不徳の至る所で御座います。


導くべき救済者様が居なくては我ら神巫女は【天網】を維持する為の一部となり世界に貢献するしか出来る事がありません。


圧倒的な無力感


私は【天網】より齎される戦況を見つめ、劣勢に立たされ徐々にオークに侵食される世界を見るだけしか出来ない。

そんな苦痛の日々を【天網】を維持する為だけに生き続ける事しか出来なかったのです。


逃げてしまう選択肢はありません。亡くなった救済者様に恥ずかしい行動など出来るはずがありませんから。


そしてある日、私めに1000年ぶりに神より啓示が下りました。


恐らく私が一番近い位置に居たから抜擢されたのでしょう。


オークの戦線が直ぐそこまで来ている様な辺境地で【天網】を担当していた私にお話がくるのはそれ位しか思い浮かびません。


エルフの護衛を付け救済者様が出現するであろうダンジョンに向う途中に不幸が襲いました。


オークの襲来です。

野蛮なオーク共ですが我々にない技術を持っている様で今回の襲撃も救済者様の出現を察知しての行動でしょうか。


私はこんな所で死ぬ訳には行きませんでした。


護衛のエルフの方々も世界を助ける救済者様への想いは強く、私に強固な防御魔法と封印を施してオーク共に立ち向かう選択肢を取られたのです。


少し時は経ち、正規の解除手順で封印が解かれたのにそこに居たのは護衛のエルフ達ではあまりませんでした。


彼らは自らを犠牲に散っていったのです。


私は心の中で冥福を祈りました。


来世こそ平和になったエルフ界で健やかに生きられる様にと



私の目の前には神気を纏う銀糸の髪の麗人。

エルフを超える美の集大成がそこにはいらっしゃいました。


私は心の底から痺れました。


魂に刻まれたと言うべきでしょう。運命を感じたのです。


この方なら世界を救えると確信出来る程の圧倒的オーラ。


エルフ界を救う為に現れた“希望”


その御方は獣人族の方でしたが【天網】の過去情報で見かけたどの獣人の救済者様達とも違っている様でした。


漂う力強い魔力・高貴な神力・価値観を全て塗り潰される様な気品と美貌。


全ての格が違っていました。


まずは助けて頂いた御礼をしなくてはと【霊話】で御礼を言います。


神々しい狐麗人様は気軽にお声がけして下さいました。


「【翻訳】まず最初に従者のエルフさん達を助けてあげられなくてごめんね。」


なんてお優しいのでしょう。


しかし会話を続けていると何か違和感を感じます。


声が何故か下から聞こえて来るのです。


救済者様は私を抱いて顔を向かい合わせているのに


なぜ?


その答えは直ぐに分かりました


「【翻訳】私はハクだ。

高名で美しく神格持ちなのは確かだが、この世界で私は何かするつもりは無い。

ただの黑狐のお供でしか無い。

その頼み事はこの黑狐マリノに頼むと良い。

見た目と気配は邪悪だが私には劣るがこの世界を救える程度には強いから安心せよ」


そうハク様は言いながら私を抱く方向を変え顔を下の方向に向けて下さいました。


そこに居たのは悍ましい化け物


その気配はオークよりも遥かに邪悪で造形も形こそ狐の様な形を取っていましたが邪神の気配も漂っていました。


しかしハク様はその邪悪な存在こそ救済者様と呼びハク様はこの世界の為に動くつもりは無いと仰ったのです。


驚愕しました。


ハク様程の神格持ちがこの様な邪悪な存在と行動をしている事もですが、神巫女たる私がこれ程の邪なモンスターを言われるまでその存在に全く気付けなかったのです。


後でハク様から話をお伺いする事は出来ましたがあの邪悪な存在の中にハク様のお母様こと獣人界の神が宿っており戦の傷を癒やす為にエルフ界に来たと言うのです。


正直意味が分かりませんでしたがエルフ界が救われるなら良いと己を言い聞かせて、その邪悪な力を持つマリノ様と私は行動を共にする事にしたのです。


エルフ界が少しでも良くなる事を信じて……



結果的に言えばマリノ様は邪悪な存在ではありましたがこの世界に最も貢献をした救済者様で御座いました。


広大なエルフ界で各地域を治める王族の錫杖に少量使われる程度の量しか存在していないレアメタルのミスリルをふんだんに使ったフルプレートのメイルを私を守る為に使うと仰ったのです。


正直震えました。


この白魔銀鎧を売ればエルフ界の一国を数十年運営できる金額が手に入るでしょう。

それを私を守る為に使うと!


私はその白魔銀鎧を別のエルフ等に貸し与えて私を護らせる。その様な感じで運用すると思っていたのです。


しかし予想していた展開にはなりませんでした。


マリノ様は狐の肉体から魂を抜き出しその白魔銀鎧にその霊体を宿したのです。


マリノ様はゴースト系のモンスターだったのですね?

そうお尋ねしましたが違うと言われました。


本来の姿を見せてあげると言った後、不定形な肉の塊から人の形に戻られた時の衝撃は暫く放心した程


1400年程生きて一番驚いたと思います。


ハク様と方向性が違いますがマリノ様もまた邪悪ではありますが神々しい闇のオーラを放っていました。


マリノ様は様々な肉体を扱うらしく白魔銀鎧もそれの一つだとか


外見は鎧に見えても寄生型のミスリルの外骨格を持つ虫系モンスターで中は金属の様な筋肉や肉糸がヌメヌメと蠢いて正直な所、滅茶苦茶怖かったです。


その肉糸に包みこまれた時は悍ましさで死を覚悟した程でした。


〈おおわぁぁぁ!!!

お助け〜〜〜〜〉


思わず本音が出てしまったのです。


マリノ様が寛容な方で良かった……



そこからの快進撃はマリノ様が戦神様に見える程でした。


【天網】にて劣勢に立たされている戦場に赴き昼夜関係なくオークを屠り去っていきました。


マリノ様曰く「私達はオークの魂を狩る事が目的だから他に狩られたくない」と言っておられましたが、結果的には窮地の味方を救い続ける行動でしかありません。

私もオーク討伐が終わった戦地を【光糸網】を使い味方が今後も優位に動ける様努めました。


そんな事を休み無く数ヶ月やり続ける事が出来るマリノ様は真の戦神なのでしょう。


エルフ界は常にオーク共に劣勢。

救済者様のお力でなんとか現状維持をする様な状況がたった数ヶ月で覆ったのです。


そしてマリノ様は魂を分割して敵本拠地に乗り込んで偵察すると言い直ぐに旅立たれました。


【霊信】と言うスキルで私も敵地を見せて頂いていますがマリノ様のお使いになる様々なスキルで敵オークの確度高い情報を知る事が出来たのです。


オーク共が次に狙う箇所


オークの兵器の弱点


オークの魔導具の弱点


あらゆる情報を【霊信】で見聞きする事ができそれを【天網】で神巫女達に齎す事をマリノ様は許して下さいました。


そしてオーク共の一番の優位性と言って良い魔導具の製造技術をエルフに齎されました。


オーク共の様に肉体に埋め込む野蛮な技術では無いエルフ様に調整した技術をです。 


只でさえマリノ様のお力により徐々に優勢になっていたエルフ界はこの転換点によって全ての戦場で優位に立ち、ついにはエルフ界にてオークの本拠地であるダンジョンを攻め落とし半永久的に封印する事が出来たのです。


三千九百年エルフ界を苦しめたオークの侵略はマリノ様がこの世界に顕現されて二年足らずで終わりを迎えました。


神は大変喜びになりマリノ様達・異世界の神の助力に礼をしたいと申され、マリノ様はこう申されたのです。


「褒美は特にいらないけど、白姉さまがリリーファちゃんを本当に可愛がってるからリリーファちゃんが望むなら一緒に別の異世界に行きたいかな」


わたしは二つ返事で付いていく事を神に伝えマリノ様達のファミリーの一員となるのでした。


この二年間ハク様は口では突っ慳貪(つっけんどん)なのに常にお優しく私に触れて愛でて下さりました。

私の居場所はハク様の腕の中なのだと思う位に


常にお側に居たいと思う程ハク様は私に無くてはならない存在となっていらっしゃいました。


そのハク様が私を求めてマリノ様と共に異世界にまで連れて行って下さる。

今生の別れを覚悟していたのにこれ以上の幸福は御座いません。 


一生お側におります。ハク母様!!




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