97話:ゴーレムは可愛い!?
ターニャとランスは共に弟である第二王子ロディから偶然、モーニング・グローリー、すなわち朝顔が咲いていると言われ、王宮の庭園に足を運んだ。
そして偶然にもターニャはそこで何者かに“クピドの矢の呪い”を受けてしまう。
そこに偶然足を運んでいたランスを、偶然にも見てしまい、呪いが発動。妄信的に好意を寄せ、ランスに言い寄り、邪魔とみなす女性たちを次々と石像に変えて行った……。
「ランス殿下、ターニャさん。私はそんなに偶然が重なることはないと思います。そこまで事象が重なると、それは“必然”なのではないでしょうか。つまり仕組まれたのではないですか?」
二人とも顔を見合わせ、そしてランスが眉根を寄せ、困った表情で私を見る。
「サラ……それはつまり、僕の弟が……。まさか。そんなはずはないと思います。ロディはサラ、君にとってのココのような存在です。大切な家族。弟です。兄弟ですから。それにこれまでロディは、僕にそんな恐ろしいことをするような言動をとったことがありません」
「……そうだったのですね。それはごめんなさい、ランス殿下」
「いえ。でもサラがそんな想像をしてしまうくらい、偶然が確かに重なっていたと思います」
私にとってのココのような存在。
つまりランスとロディは仲のいい兄弟なのだ。
ココが私を絶対に裏切らないと確信できるように。
ランスも弟であるロディを信頼しているなら、それが正解だろう。
よってこの件はこれ以上話すことはなく、私が断絶魔法を使うことになった理由、つまりはターニャがランスに老化の呪いをかけたことを話すことになった。これを聞いたターニャは驚き、そして――。
「そんな恐ろしい呪いをあたしがかけていたなんて……! 殿下、申し訳ありません!」
ソファから立ち上がり、ターニャは深々と頭を下げる。
ランスは「記憶がないのです。それにあなたもまた、呪いにより行動していたのですから、仕方ないことです」と理解を示す。
「それにあなたの呪いによって、奇しくも僕はサラと出会えました。今となっては呪われて良かったとさえ思えてしまいます。もしあなたの呪いがなければ、僕は王都からそう離れることはなかったでしょう。ナイト・フォレストを訪れることもなかったと思います」
そこでランスはそのきめ細やかな肌を珊瑚色に染め、私を見た。
なんだか急にランスが甘々に感じ、ドキドキしてしまう。
呪いにかかって良かったなんて、そんなことないのに!
でも……言わんとすることが分かるので、胸の高まりは強くなるばかり。
「今となっては、サラのいない人生なんて考えられないです」
見つめ合ったその瞬間。
ここにはランスと私の二人きりと思えてしまうのが不思議だった。
今日見た湖より遥かに澄んで見えるランスの碧眼に、吸い込まれそう。
うん、今、私の心は完全にランスに魅了されている。
待って! そうではないわ。
みんながいるし、冷静に。
そう、ランスが「ターニャ!」と叫んでいた姿を思い出すの!
ようやく冷静になれた。
さらにゴーレムが船の用意が整ったと、マークを呼びに来たことで、完全に気持ちも落ち着く。むしろ登場したゴーレムに私は夢中になりそうだった。
なぜなら。
あの雪原のような凍った湖に現れたゴーレムは、本当にいかつく大きく恐ろしい土人形だった。しかも土というより、岩! 湖に落ちても全然溶けることもなかったのだから!
それに比べると、ターニャが使用人としているゴーレムは……可愛いと思う。
ホリデーシーズンによく見かける人の形をしたジンジャークッキー“ジンジャーブレッドマン”そっくり! 色といい、アイシングで描かれたかのような、目や口、服の模様などもそれっぽい。大きさも十歳の子供くらいで、まったく怖くない!
マークと一緒にいる姿もなんだか可愛い。
「それでは騎士団の奴らを連れて来ます」
「「「「いってらっしゃい」」」」
ランス、ホーク、私、そしてターニャに見送られ、マークはジンジャーブレッドマン(ゴーレム)と一緒に応接室を出て行った。
この後、断絶魔法を使ったランスの剣で“クピドの矢の呪い”が解けた時、魅了魔法をターニャがランスに使ったこと。そのためランスは落下するターニャを追い、二階から飛び降りたこと。ランスを助けたのは“スカイ・フェイザー”という私の作った魔法アイテムを装備し、空を飛ぶことができたマークだったことなどを話した。
私からこの話を聞いたターニャは「本当にごめんなさい! 殿下を命の危機にさらすなんて! 恩義ある王家の子孫の方なのに、本当に申し訳なく思います」とお詫びすることしきり。
一方のランスも青ざめた顔で「サラ、申し訳ないです」と言い訳なしで、ひたすら謝罪。
二人とも不可抗力だった。
それは分かる。
よってこの場では「仕方ないことです」と穏便に収めたけれど……。
一通り話ができ、ひとまず今日はこの後、騎士団が戻ったら夕食をとることが決定した。そして明日には王都を目指し、城を出ることになる。
マークたち騎士団は申し訳ないが、馬で王都に戻ってもらい、ランス、ホーク、ターニャ、そして私は転移魔法で移動することになった。
理由は、まず石像になっている女性たちの魔法を解くため。ターニャが迷惑をかけたことをランスだけではなく、国王夫妻へお詫びしたいため。さらにランスの無事な姿も早く両親である国王夫妻へ見せたい、というのもあった。
こうして話し合いが終わり、客間に案内され、そして――。
騎士団が船で到着するのを待ち、夕食となるまでの時間。
ランスと話をすることにしたのだ。
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次回は「第98話:シリウスが輝き」です。
うるうるな泣きそうな子犬顔で、ランスが私を見る。
でもあの時、「ターニャ!」と血相を変えたランスの顔を思い出すと……。