96話:昔語り
ごめんなさい。手違いがあり95話が抜けていました。
建国されたばかりのエヴァレット王国とワンカーラ帝国に挟まれるような場所に城があるが、それは今の北の魔女ターニャが建てたわけではなかった。周囲に国などない頃から、ここに城はあったのだ。
「時々、人間が城の近くに迷い込むようになり、それからは魔法でその侵入を検知するようにしました。多くが強い霧とゴーストの幻影魔法で、城に近づくことなく、去ってくれたのですが……。ある時、あたしは重い風邪を引いてしまったのです。基本的に魔女の体は健康なのですが、数百年も生きていると、何百年に一回かに重い風邪を引くことがあるんです」
そうやって重い風邪を引いた時は、静かに眠るのが常。
だいたい一週間眠れば完治するのだが……。
「この時は、少し長引いて、魔力も低下していました。ゴーレムもうまく動かすことができなくて。そこへ偶然、迷い込んでやってきたのが、エヴァレット王国の王子でした。ワンカーラ帝国の偵察のために、あたしの城の近くの森に迷い込み、そのままこの城に辿り着いたのです。本来、人の侵入を検知したら、あたしは幻影魔法を使うのですが……。この時はあまりの具合の悪さに魔法を使うどころではなかったのです」
王子はこうしてターニャを発見。熱にうなされる彼女を王子は熱心に看病したのだという。そしてターニャが回復すると、そっと城を去ったというのだ。
「城内にゴーレムもいたので、あたしが魔女だと気付いていたと思います。でもあたしが魔女であることを誰にも言わず、見返りも求めず、城のことも話さないでいてくれたのです。あたしは感動し、王子に『王家への忠誠』という黄金の盃を贈りました」
当時は戦乱の世であったので、魔女や魔法使いの力を求めた権力者は多かったはず。
それなのに看病だけして、姿を消すなんて!
ターニャが黄金の盃を贈りたくなる気持ちがよく分かった。
「その盃は魔法アイテム。どんな場所にいても、あたしへ呼び掛けを行うことができるのもの。一度限りですが。盃に飲み物を満たし、『友、来たれ』と言えば、そのメッセージがあたしへ届くようにしていました。殿下はこの盃のこと、知りませんか?」
ターニャに問われたランスは即答する。
「知っています。王家で代々伝えられていることです。ただ、相当古いものなので、来歴は不明。しかも呼び出しに応じてくれる者があなたであることは……残念ながら伝わっていません。呼び出すことができるのは、天使か悪魔か、そのように言われており……」
これを聞いたターニャは苦笑している。
「古い時代の話であり、正しく伝承されていないことは仕方ないこと。かつては文字ではなく、口伝えでしたからね」
そこでターニャはマロンのタルトを美味しそうに頬張ると、こう続ける。
「ですがロディ・チャールズ・エヴァレット。殿下の弟君から呼び出されました。母君が原因不明で体調が優れないので、ポーションを用意して欲しいと」
「! そうだったのですね。盃は王家の宝物庫に確かに保管されています。そして王族であれば、宝物庫に入ることは可能です。そして盃を使い、あなたを呼び出していても、特に何か痕跡は残らないですよね。ゆえに、知りませんでした。弟があなたを呼び出していたとは。ですが確かに母君は初夏、体調が優れないと舞踏会にも顔を出さない日が続いていました。そうですか。弟が。僕は果物や花を届けただけです。親孝行が足りませんね」
ランスがしゅんとしてしまうが、ターニャはハッとした表情になる。
「そうですよ、殿下! あたしはそのポーションを届けるため、王宮へ向かいました。そこでポーションを渡し、転移魔法でここへ戻ろうとしたのです。その際、『北の魔女ターニャ様。ポーションをありがとうございます。これで母君もきっと元気になるでしょう。御礼は不要ということですが、良かったら王宮の庭園をご覧になってからお帰り下さい。東方から伝来したモーニング・グローリーという珍しい花が咲いています』と言われ、それを見に行ったのです。そこから記憶がないのですが……」
するとランスが驚きと共にこんなことを口にする。
「それは奇遇……と言っていいのでしょうか。実は僕も弟から『兄上、東方から取り寄せたモーニング・グローリーの種、一緒に植えましたよね? その花が咲いたと報告がありました。兄上はもうご覧になりましたか?』と言われ、庭園に僕も行きました。もしやそこで僕と出会った……いや、僕はあなたを見た記憶がありません。ということは……あなたが僕をそこで見かけた?」
そこで一旦言葉を切ったランスだったが、まるでパズルのピースを考えながらはめるように、こう続けた。
「……もしかするとその庭園であなたは“クピドの矢の呪い”を受けたのではないでしょうか? その直後に偶然、モーニング・グローリーの花を見に行った僕の姿を見た。そして呪いが発動し、僕のことを妄信的に追いかけるようになったのでは?」
ターニャがハッとしているが、私も同じように気づいてしまったことがある。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「第97話:ゴーレムは可愛い!?」です。
【おまけ】
「サラ、可愛いゴーレムって何だよ!? あいつらみんな巨大で狂暴で怖かったぞ!」
「そうね。でもホークだって普通の人からみたら、猛禽類で怖いと思うのよ。でも私から見たらホークは、とっても可愛いわ」
「俺様が可愛い!? そんなわけないだろう! 俺はカッコイイんだよ!」
「ふふ。そうやって必死になるところが可愛いのよ、ホーク」
「な、サラ……!」
(離れたところで見守るランス心の声)
……僕もサラに可愛いと言ってもらいたい……。←甘えん坊





















































